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第26話

「ええ、石狩優斗君っていうの。よろしくね」


 「あわわわ」と言葉が出ない俺の代わりにアイリが紹介してくれた。


「ユート……くん?」

 エミリさん、首かしげてるよ。

「もしかして、男子?」

 やっぱり来た……。


「そう。だけどかわいいでしょ? 私の相棒だしね」

 アイリさん、相変わらず変な誤解呼ぶでしょ、それ……。


「ふうん、男子が魔法少女ね。へえ」

 エミリさんが俺をじっと見た。


 ほら……まただよ……てか、アプリ、お前、俺のことみんなに知らせてないの!? ミウさんの時もだったけどさ。


「あー、ごめんね。ちょっと言いづらくてね」


 なんだそりゃ……ぜったいわざとだろ、アプリ。


「まあ、確かにかわいいね。ちょっと嫉妬しちゃうかも」

 そう言ってエミリさんはほほ笑んだ。 

 背は小さいけど神秘的な顔立ちで、ゴスロリがめちゃめちゃ似合ってる。


 え? でも、それだけ? 俺、男子なんだけど……。


「無口なとこなんか、ちょっとクールでいいね」


 いや、コミュ障でしゃべれないだけなんですけど。


「私は新川英美里しんかわえみり。よろしくね」

 そう言ってエミリは俺に近づき、手を差し出そうとしたけど……。


「……ってあいさつしてる場合じゃないよね。握手は後でね」

 そう言ってエミリは左手に持っていた黒い日傘を開いて上にかかげ、くるくる回し始めた。


「防護ドーム再構築するから」


 ああ、防護魔法の天才って言ってたっけ。


「ヒサルキが来る前に二人を呼んじゃおう。防護ドームもあるし」

 エミリのアプリが言った。


 え? そんな急に……俺、心の準備が……うう、話す言葉がない……さらに二人も知らない女の子が……無理だ……心臓止まる……。


「ユート君、震えてる?」

 エミリさんが俺を見て言った。


「え? あ、あ……あ、はは、う……」


「ごめんね、新人なのにこんな怖いとこに呼び出しちゃって。私がヘマしちゃったからだよね」


「ああ、そうじゃなくてね、ユート君はすごく勇気があるの。それ、武者震いだよね?」

 アイリがほほ笑んだ。


 いや俺、知らない人が来るのが怖くて震えてるんですけど……。


 ミウさんがニコニコして俺を見て言った。

「大丈夫だよ、ユート君。君らしくしてれば」


 ああ、この人察しがよさそうだから、俺のコミュ障気付いているんだろうけど……やっぱり優しいんだな。


「二人が来るよ」

 エミリのアプリが言った。


 オルゴールのような音楽が鳴り始め、空中に魔法陣が二つ出現した。


 ああ、またアプリが演出してやがる。もう、危機感があるんだかないんだか……。


「ほら、雰囲気ってのも大事でしょ」

 俺のアプリが言った。そんな余裕あるのかよ。


 それぞれの魔法陣から、魔法少女の足が見え始めた……って俺、目をそらすしかないじゃんかよ! え? なんで? 言えるか!


「ユイナ! カノン!」

 アイリさんの声がした。


 振り向くと初めて見る二人の魔法少女が立っていた。


 一人は白雪姫のような白が基調のドレスを着ていて、もう一人は赤ずきん? みたいな恰好だ。どっちも童話系?


「ユート君、こっちこっち」

 アイリが俺を呼んだ。

 勘弁してくださいよ……。


 その時だった。

「キイイイイイイイ!!!!!!」


 今までとは違う大音量で、ガラス……どころか最悪のあれ、黒板をひっかくようなヒサルキの叫び声が響き渡った。

 ああ、マジ耳がおかしくなる……俺はあわてて耳をふさいだ。


 あれ? みんな平気なの?

 ん? 上を見てる。


 ガン!!!!!!


 ものすごい音が上から聞こえた。


 ピシッ。


 何かにひびが入る音がした。俺も上を見た。


 げっ!?


 ガン!!!!!!


 身長が10メートルはありそうな巨大なヒサルキが両手を握ったこぶして透明な防護ドームを叩いていた。


 ピシピシピシ……。


 ひびが広がる音が聞こえた。


「緊急事態! みんな、攻撃の準備して!」

 アイリが叫んだ。


「アプリ、あれ、どういうこと?」


 ん? 俺、なんだか落ち着いてるな。

 ああ、二人としゃべらなくてよくなってほっとしたからか。

 でもこれ、やっぱピンチだよな。


「コピペで増えたヒサルキが合体して巨大化したみたい。やっぱりどこかからエネルギーが供給されてたんだね。相当強くなっちゃってるよ」


 アプリは相変わらず淡々と言うけど、やばいんじゃないの?

 あれじゃあキングコングだよ……。


「あんなのデバッグできるの? 毘沙門天の多宝塔に入り切らないんじゃないの……って、そうだ。多宝塔、あいつ、スレンダーマンに取られちゃったじゃん! そうだ槍も! 俺、飛び道具ないじゃんか!」


「そうだね。他の何か呼び出せないの? ユート」


「他のって言ったってさ……」


「じゃあさ、スパイラルクラッシュで行っちゃう? さっきせっかく名前付けたし」


「それはちょっとなあ。あんなでかいのに肉弾戦挑めるかよ」


「なんだユート、勇気を示せよ」


「うるさいわ。今は転生したくないから!」


「あ、良かった。転生したくなくなったんだね」


「う……そうだよ、今はな!」


「それじゃあ何か考えてよ。ボク、一生懸命生成するからさ」


「そんなこと言ってもなあ……」


 その時だった。


 ガシャーーーン!


 何かが砕け散る音がした。


「ゴー!!!!」

 アイリの号令がとどろいた。


 って俺、なんの準備も整ってないんですけど……。



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