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第10話

準備は急ピッチで進められた。加納は特殊装備を点検し、橘は通信機器を確認し、佐久間は古い文書から情報を集めていた。中村は食料と水を用意し、村瀬は全体の作戦を練っていた。


「これを持っていけ」高橋教授が村瀬に小型の測定器を手渡した。「エネルギーパターンを記録するものだ。何か異常があれば、すぐに分かるはずだ。」


「ありがとうございます」村瀬は感謝の意を表した。


「村瀬さん」野村社長も近づいてきた。「これを青山くんに渡してほしい。」


野村の手には、小さな木製の札が握られていた。「火の神社」と古い文字で刻まれている。


「彼の父親から預かっていたものだ」野村は静かに説明した。「青山家は代々、火の巫女との特別なつながりがあるとされていた。彼自身は知らないだろうが…」


村瀬は驚きの表情を隠せなかった。「青山の父親から?」


「ああ」野村は頷いた。「彼が『選ばれし者』なのは偶然ではないのだよ。」


村瀬は木札を大切そうにポケットにしまった。青山の背景には、彼自身も知らない深い歴史があったのだ。


準備が整い、救助隊の五人は出発の時を迎えた。臨時指揮所の前には、団員たちが見送るために集まっていた。


「無事に戻ってこい」団長は村瀬の肩を強く握った。「そして、青山と白石も連れて帰るんだ。」


「必ず」村瀬は力強く約束した。


五人は出発の合図とともに、磐梯山の亀裂へと向かった。規制線の外には、今も多くの野次馬や報道陣が集まっていたが、彼らは特設された通路を通り、素早く現場へと向かった。


亀裂の前に立つと、加納が懐中電灯を手に先頭に立った。「ついてこい。迷わないように、常に私の後ろにいろ。」


「みんな、無線は常にオンにしておくこと」村瀬が全員に指示した。「何か異変を感じたら、すぐに報告するように。」


橘は録音機材を起動させながら、佐久間に尋ねた。「本当に大丈夫かしら?」


「誰にも分からんさ」佐久間は珍しく哲学的に答えた。「だが、行くべき時は行くものだ。それが運命というものだろう。」


中村は笑顔を作ろうとしたが、緊張で引きつっていた。「青山、待っててくれよ。必ず助けに行くからな。」


五人は深呼吸をし、互いに頷きあった。そして、青白い光に包まれた扉へと足を踏み入れた。内部は予想通り、古代の石造りの廊下が続いていた。壁には青白い炎の松明が灯り、不思議な模様が刻まれている。


「驚くべき造りだ…」村瀬は思わず呟いた。


「人間の手になるものじゃない」加納も同意した。「こんな精密な石組みは、現代の技術でも困難だ。」


彼らが廊下を進むにつれ、かすかに足音のような音が聞こえてきた。全員が立ち止まり、耳を澄ました。


「誰かいる?」中村が小声で尋ねた。


「分からない」村瀬も声をひそめた。「慎重に進もう。」


彼らがさらに進むと、突然、廊下の曲がり角から青白い光が放たれた。その中から、火の精霊が姿を現した。


「あれが…」橘は息を呑んだ。


火の精霊は彼らを見つめ、まるで「ついてくるように」と促しているようだった。


「罠かもしれない」佐久間が警戒した。


「だが、他に道はない」村瀬は決断した。「注意しながら従おう。」


五人は精霊の後を慎重についていった。やがて彼らは、青山と加納たちが先に発見した広間に到着した。そして、奥には既に開かれた第二の門が見えた。


「ここまでは青山たちと同じルートだ」加納が確認した。「ここから先は未知の領域だ。」


村瀬は深く息を吸い、仲間たちを見回した。「準備はいいか?」


全員が覚悟を決めたように頷いた。そして彼らは、第二の門をくぐり、さらに奥へと足を進めた。


青山と白石を救い出すための使命。そして、千年の時を超えた「火の巫女」の真実を解き明かすための旅が、今始まったのだ。


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