アレクセイが依頼を請けて、キッチンを借りたバーの上階を仮宿としつつ、リェンシャンについて回る日々が続いた。
アレクセイまで情報が降りてくることは少ないが、それでもなにやら大きな作戦が進行しているということは察せられる。
同時に、リェンシャンが言っていたとおり、ティエイートァンという組織は随分と義侠心のある組織として見られているようだ。
ゴロツキに絡まれる物売りを助けたりだとか、地上げにあっている商店を救ったりだとか、そういった話がゴロゴロ出てくる。
その上、みかじめ料を取るわけでもなく、薬や人身売買を嫌っているという。
ある意味ではこのスラムのヒーローといって良い存在にまでなっているようだ。
そういった話を聞き流しつつ、新たな食材やレシピなどを蒐集しているアレクセイが何を考えているのか、外からはわかりづらい。
特に何も考えていないだけだと思う。
そうした生活の中で、リェンシャンから質問をされた。
「なんか欲しいものがあるかい?」
リェンシャンがそう尋ねると、アレクセイは迷いなく答える。
「煙草を買いたい。長く使うから、なるべく良いやつだ」
前世アレクセイは愛煙家であった。
しかし今世においては、どこから広まったものか煙草は健康を害する、特に子どもには飲ませるなという意見が広まっており、今日まで吸うことが叶わなかった。
リェンシャンとてそういった話は把握しているだろうが、裏稼業の人間であるし、旅の間にまた伸びた身長などから大人として見られているだろう──だからこそこんな危険な依頼をしてきたのだろうということで頼んでみたのだ。
「ふーむ。まあ、良いだろう。手配しておくさ」
それでも明らかにカタギをしてきたでだろう人間が、『一度吸ってみたい』と言うのではなく、『これからも吸うから良いモノを』などと言い出せば多少は気にかかるというもの。
それでも余計な詮索を避けるあたり、賢い人間なのだろう。