たこ焼きと聞いて、てっきりアクアウォーク大垣に入っている人気チェーン店のたこ焼きをおごってもらえるのかと思ったら実際に連れていかれたのは大垣駅隣にある二十四時間営業のスーパーだった。
その壁面に設置された窓口横の券売機で百円玉を二個入れる祭牙は先ほど命をやり取りしたこともその結果光流に負けたことも感じさせない清々しい顔をしていた。
運良くもたこ焼きは焼きあがっていたようで、待ち時間なしで祭牙が窓口の店員から二つのたこ焼きを受け取る。
その片方を光流に差し出し、祭牙はニッと笑って見せた。
「ここのたこ焼き、百円でこのクオリティはやばいよな」
「そ、そうですね」
たこ焼きを受け取り、光流がおどおどしながら頷く。
その光流の手からたこ焼きの入ったパックがすっと奪われた。
「ふむ、これがたこ焼きというものか」
「あ、スノウホワイトいつの間に!」
いつの間に現れたのか、スノウホワイトがたこ焼きのパックを開けて興味深そうに眺めている。
「お、なんだ
スノウホワイトが光流のたこ焼きを奪ったこと祭牙は面白そうな顔をした。
「オレンジは興味なさそうだったからな。
「さ、さぁ……」
相変わらずおどおどする光流に、祭牙はぽんと肩を叩く。
「そんなビビるなよ。彩界の時みたいに堂々としろよ」
「はぁ……」
追加で食券を買う祭牙に、光流は「どうしたらいいんだ」と内心悩んでいた。
彩界では勢いに乗って偉そうな口を叩いたが、相手はフリーターとはいえ年上である。気さくに声をかけられてもこちらが調子に乗ってはいけない。
祭牙は全く気にしていないようだが光流としては気になるところ、だが下手に遠慮して機嫌を損ねるのも怖いので遠慮なくごちそうになることにした。
スーパーの前にはベンチの類がないので壁に背を付け、三人並んで座り込む。
「……これで食べるのか……」
光流がつまようじでたこ焼きを口に運んだのを見て、スノウホワイトも真似をする。
口に入れた瞬間に広がる熱とソースの風味に、スノウホワイトは驚いたように目を見開いた。
「……はふ」
「熱いだろ? 火傷するなよ」
熱を逃がそうとはふはふするスノウホワイトに、光流は苦笑して声をかけた。
「熱いが、その熱さがいいな。ソースとかつおだしの風味もいい」
「これが六個入りで百円なんだぜ? すごいだろ」
祭牙も豪快にたこ焼きを食べ、はふはふしてから手を止める。
「……もし、お前が俺を殺してたらこのたこ焼き、もう食べられなかったのか」
「そうですよ」
光流が即答し、ため息をつく。
「……なんで、
「だな。高次元存在とかいう主催者の考えは分からん」
祭牙の言葉に光流もそういえば、と思い出す。
スノウホワイトと正式に契約した時に流れ込んだ
「金山さん」
「ん? 祭牙でいいぞ?」
次のたこ焼きを口に放り込みながら祭牙がそう返してくる。
「そういえば、彩界のルールって結構漠然としてましたけどトラップゲーム特異な金——祭牙さん的にどう思いました? 俺は既存ゲームの
「あー……」
咥えたつまようじを上下に動かしながら祭牙が唸った。
光流と対戦した時も含め、全ての戦いでの自分の動きを思い出す。
「そうさな——基本ルールはトラップゲームと同じでトラップを仕掛けて
「例えば?」
祭牙は気づいていたのか。
光流もある程度は見当がついていたが、戦闘経験は祭牙の方が上なのでその意見は参考になる。
光流が促すと、祭牙はあれな、と続けた。
「あれな、マップ構造は見た目だけっぽいじゃん」
「確かに、オレンジの洞窟はマグマっぽいのに床や壁は別に熱くなかったですね」
「だが、コストを使えば一部地形を変えられたりする。まぁ床や壁に
「へえ」
そういえばトラップ一覧に「エフェクト」があったなと今更ながらに思い出しつつ光流が唸る。
「もちろん、
「あー……」
なるほど、と光流は呟いた。
それはそれで目標到達型のトラップゲームにはよくあるルールで、ものによっては「設置したプレイヤー本人がクリアできないとプレイできない」ように設定されていることもある。
彩界自体はテストプレイは強要されないが配置の時点で
それと同時にもう一つ思い当たることがある。
それはスノウホワイトが「行こう」と宣言することだ。
あれはトラップではとどめを刺せないからとどめを刺すために
そう考えると、スノウホワイトも本当にプログラムされた存在だと納得せざるを得ない。光流と行動を共にするようになって独自判断で行動することも増えたが、それは
「
隣ではふはふとたこ焼きを頬張るスノウホワイトを横目で見ながら光流が呟く。
傍目には普通の少女、それが戦いになると
「
「そう……ですか?」
光流が自信なく返す。光流にとってはスノウホワイトはなんだかんだ言って放っておけない女の子なので祭牙とオレンジのように信頼関係が築けなかった、ということがよく分からない。
朔夜とミッドナイトブルーは深い関係にもなっていたらしいと考えると祭牙とオレンジの関係が特殊だけだった、という気もしてくる。
だが、祭牙は豪快に笑って光流の肩を叩いた。
「主催者の意図は分からんが、
「絆……」
光流が祭牙の言葉を繰り返す。
光流としてはスノウホワイトとの交流は当たり前とは思っていたが、そもそもアシスタントとして与えられたのなら交流は必ずしも必要でないと言える。
しかし、交流することでスノウホワイトが様々なことを学習していると考えると
それはそれで複雑な気持ちになってしまった光流だったが、同時に思うこともある。
——もっとスノウホワイトにいろんなことを知ってもらいたい。
「……?」
たこ焼きを食べ終えたスノウホワイトが光流を見て首をかしげる。
「……スノウホワイトのためにも負けられないな、俺」
「わたしの願いを叶えるためにか?」
スノウホワイトの問いに、光流はううんと首を振って笑う。
「スノウホワイトにいろんなことを知ってもらいたい。
「おいお前ら勝手にいちゃついてんじゃねえ!」
真剣なまなざしで見つめあう二人に、祭牙が苦笑した。