祭牙から
朔夜から言われた「大垣市内のみ」が気になり、「虹色の流星群」などのキーワードで投稿検索をする。
「青木の言うとおり、本当に大垣市だけの投稿だな」
いくつかの投稿は引っかかったがタイムスタンプは全て昨日の流星群の時間付近で、その後そのような流星群が降ったという投稿はない。
流星群の投稿の多くは身バレを防ぐためか場所は記載されていなかったが、それでも添付されていた写真に写っていた建物が大垣駅やアクアウォーク大垣といった大垣駅周辺のランドマークで、一番遠くても大垣駅から歩いて行ける範囲にあるショッピングセンター、「イオンタウン大垣」や中には私立ながらも大垣市内ではかなり大規模な総合病院、「大垣徳洲会病院」の窓から撮影したものもある。
ランドマークが映り込んだ写真を見比べながら光流が頭の中で地図を組み立てると、流星群が目撃されたのは大垣駅を中心とした半径二キロメートル前後ではないかと推測できた。
そんな局地的な流星群に、
局地的なバトルロイヤルを行うなら、しかも「願いの成就」といったとてつもない賞品を掲げるなら普通は東京など大都会で行うものだろう。実際、多くのイベントやコンサートが東京か大阪近郊で開催されており、それに比べたら大垣市は田舎と呼ぶには都会化しすぎたただの地方都市である。
それとも、大都会で行うには不都合があったのかと考えるが、契約の際に受け取った情報にはその理由が含まれておらず、どこまで考えてもただの推測止まりになる。
考えても仕方ないことなのか、と思い直した光流はついでにもう一つ別のことを調べることにした。
受け取ったルールを思い出せば敗者は死体を残さず彩界の消失と共に消滅することになる。そこで「失踪した家族」の投稿も調べてみると今日になって数件、該当するものが出てきた。
この辺りは東京や大阪といった大都市のものも含まれるが、それよりも多くの失踪者が大垣市で発生している。
普通、家族の失踪となると警察に届け出るものだが、何か訳ありの家族だと警察に届け出ることなくSNSで尋ね人をする場合がある。「見つけたら大垣警察署まで」と記載された投稿もいくつかあり、家族が必死になって探していることがよくわかる。
もし俺が負けて彩界の中に消えて、失踪扱いになったら母ちゃんは俺を探してくれるだろうか、とふと思い、光流はぶんぶんと首を振った。
「母ちゃんが俺を見捨てるはずがないだろ」
昨日の夜も帰ってくるのが遅くなって散々説教してきたのだ、心配しない方が考えられない。
『不安か?』
光流の不安を感じ取ったのか、スノウホワイトが心配そうに尋ねる。
「うーん……。そうだな。やっぱり母ちゃんを心配させたくないな、って」
『家族とは、そんなに大切なものなのか?』
わたしには分からない、と光流の中で呟くスノウホワイト。
『
「そういえばスノウホワイトって高次元存在とか言ってたけど、親から生まれるとかそういうわけじゃないのか」
ふと気になって光流が尋ねる。
『ああ、人類にとっての高次元存在ではあるが、それでも
「そっか……」
スノウホワイトの言葉は光流にはあまり理解できるものではなかった。ただ、高次元存在というものが
『ヒカルにとって両親とはどういったものなのだ?』
今度はスノウホワイトが光流に尋ねる。
光流が高次元存在と
それゆえの質問だったが、光流はそうだな、とすぐに答える。
「やっぱり俺を産んで育ててくれた人だから恩はあるし、父ちゃんや母ちゃんのために立派な姿を見せたいって気持ちはあるな。そりゃあ中には両親を殺したいほど憎んでる子供とか子供に対して『産むんじゃなかった』って言うような親もいるけど、少なくとも俺の両親はそんなことない」
だから、負けて行方不明になるわけにはいかない、と光流が続ける。
その光流の隣に、スノウホワイトが姿を見せた。
「それがキミの願いなのか?」
「願いとは少し違うかな。俺にとっては当たり前のことだから」
ぼそり、と光流が呟いた時、不意に部屋のドアがノックされる。
「光流、電話してるの?」
ドアの向こうから聞こえる母親の声。
(スノウホワイト!)
慌てて光流が目配せするとスノウホワイトも小さく頷いて姿を消す。
光流がドアを開けると、そこには夜食を持った母親が立っていた。
「はい、まだ勉強するでしょ」
そう言ってトレイを差し出す母親に、光流が苦笑してそれを受け取る。
「母ちゃん、ありがと」
「母ちゃんはあんたの夢を応援してるんだからね! でも無理は禁物よ」
母親の言葉に光流がもちろん、と頷く。
「じゃあ、勉強してくる」
「あのさ、光流」
ドアを閉めようとした光流に、母親が突然声をかけた。
その声がいつになく緊張したもので、光流が思わず母親の顔を見る。
「——もし、母ちゃんがどっか行っても、光流は頑張るんだよ」
「……母ちゃん……?」
母親の言葉に、どうしようもない不安を覚える。
——まさか、母ちゃん——?
『ヒカル……』
言いにくそうなスノウホワイトの声が光流に響く。
『ヒカルの母親は——
「そんな……」
手の力が抜けそうになり、光流は慌ててトレイを持ち直す。
自分を落ち着かせるためにトレイをデスクに置き、ベッドに腰掛けて両手を組む。
「そんな、母ちゃんは誰かを殺したって——ことなのか」
『分からない。もしかすると運よく誰に見つかっていないかもしれない』
スノウホワイトが冷静にそう言うが、それが気休めにしかならないことは光流もスノウホワイトも分かっていた。
母親が
嫌だ、と光流が低く呟く。
どうすればいい、どうすれば母親を失わなくて済む。
「——スノウホワイト、」
両手を組んだまま、光流が呟いた。
「彩界展開して」
『ヒカル、まさか——』
スノウホワイトがそう言うが、彼女もまたそれを提案するつもりだった。
ああ、と光流が頷く。
「母ちゃんの契約を切る。今の所それができるのは俺だけだ」
『そうだな』
今の所、
受け取ったルールでは「殺せ」と記されていたのにわざわざ契約を断ち切ることを考えるはずがない。光流はそのルールを知る前に戦ったから偶然この抜け道に気づけただけだ。
その気づきがもしかすると母親を救うことにつながるかもしれない。
そう考えると光流はいつも以上に身が引き締まる思いがした。
まかり間違っても母親を殺してはいけない。他の
心の中で頷き合い、光流はふう、と深呼吸した。
「スノウホワイト、彩界展開」
『了解した、彩界展開』
光流の指示に従い、スノウホワイトが彩界を展開する。
ざぁっと広がる氷の洞窟。
その奥から感じる