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第15話 最後の障害

「さて、コンビニはどうなってるかな?」


 現代に戻ると、前よりも大きくなった気がする。ほんの少しだけど。品ぞろえが増えていない以上、選択肢も狭まる。しょうがなく、ペットボトルをチョイスする。


「これ見たら、義元さん怒るかな……。『新しいものを持ってこい!』って。いや、それはないか。器が大きいから」


 さっさとバーコードを読み込もうと服を見ると小さな変化に気がついた。俺の名札に「店長」の文字がある。え、俺そこまでランクアップしたの!?


「店長、最近一瞬だけ消えますけど大丈夫ですか? まるでマジックみたいに」


 どうやらバイトらしい。「戦国時代に行ってるからだ」とはとても言えない。戦国時代で長く過ごしても、こちらでの時間経過が一瞬だから誤魔化せる範囲だろう。


「気のせいだよ、気のせい」


 そう言いながら、ピッとバーコードを読み取る。ペットボトルが消えていくが、気づかれてはいないようだ。


「じゃあ、あとはよろしく!」





「おお、健。よく戻った。今回は何を持ってきた?」


「えーと、ペットボトルです……。他にいいものがなくて」


 義元が「気にするな」と肩を叩いてくる。


「それで、浅井・朝倉連合を破った後、どうなりました?」


「もちろん、三好の領土の近くまで来ている。奴の居城である飯盛山城も遠くに見える」


 なるほど、戦後処理も終わった後か。


「しかし、問題が一つ。三好は情報網を使って、こちらの情報を抜き取っている。さすがとしか言いようがない」


 どうやら、三好を攻めるのは簡単ではないらしい。


「こちらの持ち物すべてを把握された。ペットボトルはもちろん、カイロ、ライトにその他諸々」


 義元の顔には苦しさが滲み出ている。まさか、三好の情報戦の方が上なのか?


「大丈夫ですよ。こちらには、義元さんの知略がありますから」


 俺はそう言ったが、義元は腕を組んで小さく首を振った。


「慢心は禁物だ、健。あの三好長慶……もはや、ただの謀略家ではない。己の策を捨て、正面から勝つための布陣に切り替えてきた。つまり、今の我らは“見くびられていない”ということだ」


 その言葉に、俺の背筋が少しだけ伸びる。


 義元は、近くの机に置かれた簡易地図を広げる。飯盛山城を中心に、いくつもの矢印と注釈が書き込まれていた。明らかに、すでにいくつもの作戦が立てられている。


「……すげぇ。もうここまで考えてるんですか?」


「お前がいない間、退屈だったのでな」


 肩をすくめる義元。でもその目は、冷静で鋭い。


 三好を「一筋縄ではいかぬ相手」と見抜きながらも、その上を行こうとしている。


「策は、ある。だが、これはお前の力も借りねば成らぬ。未来の目と道具を、今こそ使わせてもらおう」


 俺はゴクリと喉を鳴らした。


「了解です。今回は何を使いますか? さすがにペットボトルでは戦えませんし……」


「いや、それにも使い道がある。補給物資以外でな」


「え、ペットボトルにですか?」


「ここを使えばいいのだ」


 義元はこめかみをトントンと叩く。


「さあ、戦といこうではないか」





 盆地でにらみ合う今川軍と三好軍。


「今回は正面対決ですか」


 浅井・朝倉連合は、地形を使った戦略で打ち負かした。しかし、この戦では間違いなく多くの血が流れる。


「正面対決ではない。見ていれば分かる」


 義元が軍配を下すと何かを持った兵が敵陣に向かう。まさか、そのまま突っ込むのか!?


「今だ!」


 義元の号令を合図に、兵が何かを地面に転がす。それは、複数のペットボトルだった。


「健、あれには仕掛けがある。少しすれば分かる」


 数秒後、ペットボトルが大きな音をたてて爆ぜた。その轟音は、周囲の山にぶつかりやまびことなって響き渡る。


 それに驚いたのか、敵軍の馬が鳴き声をあげながら暴れまわった。


 ペットボトルの中身は爆薬だったのか! そして、馬を驚かすことで、敵陣を乱す。そこまで計算済みとは!


「ペットボトルが転がるからこそ、点火式爆弾の作戦は成立する。さて、三好に見せつけようではないか。我らの力を!」





「三好の抵抗激しかったですね。情報戦だけじゃなくて、武力も恐ろしいほどに強い。さすが、近畿を支配している武将といったところです」


 盆地に広がった壮絶な戦の跡を見つめる。戦国時代に平和をもたらすために、戦をする。やむを得ないとはいえ心が痛む。


「そうだな。だが、上洛に向けた障害はなくなった。あとは大義名分を得るのみ」


 義元は、遠く未来を見据えているようだった。


「でも、大義名分だけで西国の武将は従うでしょうか? 彼らにも信念やそれぞれの正義があるはずです」


 義元は「健の言うとおりだ」と、苦笑いする。


「まだ道半ばだ。この先に、どのような困難が待ち受けていようと突き進むのみ。皆のもの、京へ進むぞ。武装は最低限にせよ」


 今川軍はゆっくりと西へ進む。


 上洛しても室町幕府の足利家がいる。未来人の俺にも分からない。彼がどういう選択をするのか。そして、その先に何があるのか。結末は神のみぞ知る。

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