同じベッドの上で、後ろから晴翔が理玖を抱いている。
熱い手が理玖の腹に回って、それ以上に熱い舌が背中を舐め上げた。
「ひゃぁ……」
力が抜けて、間抜けな声が漏れた。
「理玖さんの背中、綺麗。噛み跡とキスマーク、いっぱい付けたい」
理玖の肩を晴翔が甘噛みする。
ビリビリと甘く痺れて、股間が疼く。
「んっ……」
強く吸い付かれて、やっぱり声が漏れた。
晴翔が、また硬くなった股間を理玖の尻に押し付けた。
「もう一回、したいけど、流石に職場だからね……」
晴翔が残念そうに呟く。
就業時間を過ぎているとはいえ、職場のベッドでシてしまったのは、反省する。
晴翔が理玖の肩に顔を埋めてスリスリした。
「うわぁ、俺、理玖さんとエッチしちゃった。夢みたい」
それは、むしろ理玖の方が思う。
憧れで、手が届かないと思っていた大好きな人が、自分を抱いている。
理玖は自分の左胸に指を滑らせた。
(文献でしか見たことがなかった花の痣。僕の胸に咲いてる)
振り返り、晴翔の左胸を見詰める。
理玖と同じ花が咲いていた。
指を滑らせて、舌で舐め挙げる。
見上げたら、晴翔が優しく微笑んで理玖を見詰めていた。
晴翔の胸に顔を埋めて、腕を回して抱きしめた。
「……好き」
本当に晴翔をspouseにしたのだと、今更ながら思った。
まだ実感は湧かないが、現実が目の前にある。夢や幻ではないと、教えてくれる。
そんな理玖を、晴翔が抱き締めた。
「あぁ、もう、可愛い。理玖さんは何しても可愛い。リスみたい。胸ポケットに入れて持ち歩きたい」
理玖の髪に顔を埋めてスリスリする晴翔を見上げる。
大変、聞き覚えがあるワードだ。
「もしかして、晴翔君が僕にリスのあみぐるみを作ってほしいっていったのは……」
「理玖さんをポッケに入れて持ち歩きたかったから。今でも大事にポッケに入れてますよ」
晴翔に髪を撫でられながら、理玖はぼんやり思い出した。
(あれって確か、去年の夏くらいの話だったような)
つまり、その頃から晴翔は理玖に好意を持ってくれていた、のだろうか。
ドキドキしてキュンキュンして、フェロモンが放出されているのが自分でもわかった。
「理玖さん、フェロモン増えた。甘くて美味しそうな匂い。食べたい……」
理玖の顎を上向かせて、晴翔が唇に噛みつく。
晴翔のフェロモンを感じ取っているからか、唇まで敏感で、粘膜が触れるだけで体が震える。
「ぁ……、ぅ、ん……」
甘えた吐息が漏れて、舐める舌が晴翔をねだる。
理玖の舌を吸い上げる口から、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が漏れる。
それだけで、気持ち良かった。
「また、シたくなる。理玖さん、フェロモン出さないで……」
さっきのように熱の浮いた瞳で、晴翔が理玖に股間を押し付ける。
互いに硬くなった男根を摺り寄せたら、快楽が腹の奥から擡げた。
「晴翔君が愛おしくて、止められない……」
止め方なんか、わからない。
只々、晴翔への想いが溢れて、どうしようもない。
晴翔が理玖の唇に噛みつく。
手が二人の男根を握って扱く。
「ぁ! ……ぁんっ」
両手で激しく扱かれて、腰が動きそうになる。
扱く手と晴翔の男根が熱くて、触れられるだけでイきそうだ。
「理玖さん……、好き。理玖さん……」
譫言のように零して理玖の唇を噛む晴翔は、挿入している時より酔っているように見えた。
「出る、ぁっ……」
二人同時に射精して、互いの腹と晴翔の手が精液で塗れた。
晴翔が理玖の肩に凭れた。
「はぁ……、きもちぃ……。入れたら俺、今度こそ自制できないから。理玖さん、めちゃくちゃに抱いちゃうから」
息を整えながら吐かれた言葉に、ドキリとする。
めちゃくちゃに抱かれたい。なんて言ったら、始まってしまいそうなので、理玖は言葉を飲み込んだ。
(曲がりなりにも学校だし、帰らないと。お互い精液塗れだけど、どうしよう)
研究室にシャワーはない。
適当に拭きとって帰るしかない。
「先生、あのね。報告書の話なんだけど」
理玖の肩に凭れたまま、晴翔が切り出した。
さっきまでの浮いた熱が一瞬で醒めた。
「……フェロモン、減った。やっぱり感情に左右されるんだね。onlyもotherと同じだ」
自分でも、放出量が減ったのがわかる。
そのせいか、晴翔から感じるフェロモンも少ない。
(前は自分のフェロモンすら、ほとんど感じ取れなかった。spouseになると、こんなにフェロモンを実感するものなんだ)
正確にはspouseになる前、晴翔への想いが膨れ上がった頃からだ。
花の蜜のような匂いを感じ取るようになってから、のような気がする。
(花の蜜の香りは、互いの感情が昂ったサイン、なのかも。だとしたら、僕らは)
もうかなり前から互いを想い合っていたのかもしれない。
愛情が育っていたのかもしれない。
(愛情……、affectionフェロモンとも関わりが……、ん? affectionフェロモン?)
理玖の脳内で思考が組み立っていく。
がばりと起き上がった。
「理玖さん?」
不思議そうに見上げる晴翔の隣で、理玖の脳内は興奮していた。
「好意を持った同士のonlyとotherが接触するとaffectionフェロモンが放出されてSMホルモン分泌が促され、onlyは妊娠可能な身体になり、affectionフェロモンは更に放出量が増える。妊娠を促すためのフェロモンと思ってたけど、それだけじゃないんだ。花の蜜のような甘い香りはaffectionフェロモンの匂いで。好意つまりはspouseになり得ると互いが認識するためのサインか」
理玖は晴翔を振り返った。
「晴翔君、今日は一緒に僕の家に帰ろう。報告書の話はそこで聞こう」
立ち上がろうとした腕を引いて晴翔が理玖を引き寄せた。
「大発見ですか? あとで俺にも教えてください。他にも理玖さんに聞きたいWOの話、たくさんあるから」
晴翔の肌の熱と吐息が甘くて、理玖の思考はまた欲情に犯された。
「軽く体を拭いて、俺の車で帰りましょう。理玖さんの家で一緒にシャワー浴びても、いいですか?」
「うん……」
自分から誘ったのに、急にドキドキして、理玖は抱きしめてくれる晴翔の腕に掴まった。