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第22話【R15】花の痣

 同じベッドの上で、後ろから晴翔が理玖を抱いている。

 熱い手が理玖の腹に回って、それ以上に熱い舌が背中を舐め上げた。


「ひゃぁ……」


 力が抜けて、間抜けな声が漏れた。


「理玖さんの背中、綺麗。噛み跡とキスマーク、いっぱい付けたい」


 理玖の肩を晴翔が甘噛みする。

 ビリビリと甘く痺れて、股間が疼く。


「んっ……」


 強く吸い付かれて、やっぱり声が漏れた。

 晴翔が、また硬くなった股間を理玖の尻に押し付けた。


「もう一回、したいけど、流石に職場だからね……」


 晴翔が残念そうに呟く。

 就業時間を過ぎているとはいえ、職場のベッドでシてしまったのは、反省する。

 晴翔が理玖の肩に顔を埋めてスリスリした。


「うわぁ、俺、理玖さんとエッチしちゃった。夢みたい」


 それは、むしろ理玖の方が思う。

 憧れで、手が届かないと思っていた大好きな人が、自分を抱いている。

 理玖は自分の左胸に指を滑らせた。


(文献でしか見たことがなかった花の痣。僕の胸に咲いてる)


 振り返り、晴翔の左胸を見詰める。

 理玖と同じ花が咲いていた。

 指を滑らせて、舌で舐め挙げる。

 見上げたら、晴翔が優しく微笑んで理玖を見詰めていた。

 晴翔の胸に顔を埋めて、腕を回して抱きしめた。


「……好き」


 本当に晴翔をspouseにしたのだと、今更ながら思った。

 まだ実感は湧かないが、現実が目の前にある。夢や幻ではないと、教えてくれる。

 そんな理玖を、晴翔が抱き締めた。


「あぁ、もう、可愛い。理玖さんは何しても可愛い。リスみたい。胸ポケットに入れて持ち歩きたい」


 理玖の髪に顔を埋めてスリスリする晴翔を見上げる。

 大変、聞き覚えがあるワードだ。


「もしかして、晴翔君が僕にリスのあみぐるみを作ってほしいっていったのは……」

「理玖さんをポッケに入れて持ち歩きたかったから。今でも大事にポッケに入れてますよ」


 晴翔に髪を撫でられながら、理玖はぼんやり思い出した。


(あれって確か、去年の夏くらいの話だったような)


 つまり、その頃から晴翔は理玖に好意を持ってくれていた、のだろうか。

 ドキドキしてキュンキュンして、フェロモンが放出されているのが自分でもわかった。


「理玖さん、フェロモン増えた。甘くて美味しそうな匂い。食べたい……」


 理玖の顎を上向かせて、晴翔が唇に噛みつく。

 晴翔のフェロモンを感じ取っているからか、唇まで敏感で、粘膜が触れるだけで体が震える。


「ぁ……、ぅ、ん……」


 甘えた吐息が漏れて、舐める舌が晴翔をねだる。

 理玖の舌を吸い上げる口から、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が漏れる。

 それだけで、気持ち良かった。


「また、シたくなる。理玖さん、フェロモン出さないで……」


 さっきのように熱の浮いた瞳で、晴翔が理玖に股間を押し付ける。

 互いに硬くなった男根を摺り寄せたら、快楽が腹の奥から擡げた。


「晴翔君が愛おしくて、止められない……」


 止め方なんか、わからない。

 只々、晴翔への想いが溢れて、どうしようもない。

 晴翔が理玖の唇に噛みつく。

 手が二人の男根を握って扱く。


「ぁ! ……ぁんっ」


 両手で激しく扱かれて、腰が動きそうになる。

 扱く手と晴翔の男根が熱くて、触れられるだけでイきそうだ。


「理玖さん……、好き。理玖さん……」


 譫言のように零して理玖の唇を噛む晴翔は、挿入している時より酔っているように見えた。


「出る、ぁっ……」


 二人同時に射精して、互いの腹と晴翔の手が精液で塗れた。

 晴翔が理玖の肩に凭れた。


「はぁ……、きもちぃ……。入れたら俺、今度こそ自制できないから。理玖さん、めちゃくちゃに抱いちゃうから」


 息を整えながら吐かれた言葉に、ドキリとする。

 めちゃくちゃに抱かれたい。なんて言ったら、始まってしまいそうなので、理玖は言葉を飲み込んだ。


(曲がりなりにも学校だし、帰らないと。お互い精液塗れだけど、どうしよう)


 研究室にシャワーはない。

 適当に拭きとって帰るしかない。


「先生、あのね。報告書の話なんだけど」


 理玖の肩に凭れたまま、晴翔が切り出した。

 さっきまでの浮いた熱が一瞬で醒めた。


「……フェロモン、減った。やっぱり感情に左右されるんだね。onlyもotherと同じだ」


 自分でも、放出量が減ったのがわかる。

 そのせいか、晴翔から感じるフェロモンも少ない。


(前は自分のフェロモンすら、ほとんど感じ取れなかった。spouseになると、こんなにフェロモンを実感するものなんだ)


 正確にはspouseになる前、晴翔への想いが膨れ上がった頃からだ。

 花の蜜のような匂いを感じ取るようになってから、のような気がする。


(花の蜜の香りは、互いの感情が昂ったサイン、なのかも。だとしたら、僕らは)


 もうかなり前から互いを想い合っていたのかもしれない。 

 愛情が育っていたのかもしれない。


(愛情……、affectionフェロモンとも関わりが……、ん? affectionフェロモン?)


 理玖の脳内で思考が組み立っていく。

 がばりと起き上がった。


「理玖さん?」


 不思議そうに見上げる晴翔の隣で、理玖の脳内は興奮していた。


「好意を持った同士のonlyとotherが接触するとaffectionフェロモンが放出されてSMホルモン分泌が促され、onlyは妊娠可能な身体になり、affectionフェロモンは更に放出量が増える。妊娠を促すためのフェロモンと思ってたけど、それだけじゃないんだ。花の蜜のような甘い香りはaffectionフェロモンの匂いで。好意つまりはspouseになり得ると互いが認識するためのサインか」


 理玖は晴翔を振り返った。


「晴翔君、今日は一緒に僕の家に帰ろう。報告書の話はそこで聞こう」


 立ち上がろうとした腕を引いて晴翔が理玖を引き寄せた。


「大発見ですか? あとで俺にも教えてください。他にも理玖さんに聞きたいWOの話、たくさんあるから」


 晴翔の肌の熱と吐息が甘くて、理玖の思考はまた欲情に犯された。


「軽く体を拭いて、俺の車で帰りましょう。理玖さんの家で一緒にシャワー浴びても、いいですか?」

「うん……」


 自分から誘ったのに、急にドキドキして、理玖は抱きしめてくれる晴翔の腕に掴まった。

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