目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第34話 かくれんぼサークルの実態①

「洗脳……。連れていかれるって、どこに? そもそも、かくれんぼサークルは、かくれんぼをするサークルじゃないのか?」


 晴翔の驚きが混じった問いかけに真野が俯いた。


「かくれんぼサークルは、かくれんぼもするけど、実際は、合コンメイン、みたいな集まりで。WOのための出会いの場みたいな、サークルなんです」


 真野がぽつりぽつりと話し始めた。


「公にしないのは、第二の性を隠したがってる人が多いのも、あるけど。ヤリ目OKでセフレを探している奴とかもいるから、らしくて」


 真野が言いづらそうに話す。

 その辺りまでなら、理玖的には許容範囲だと思う。

 WOのフェロモンが薬より性交で安定するのは、講義でも話した。生態を理解してセフレになってくれる相手がいるなら、助かるのも事実だ。


(onlyとotherだけじゃなく、normalも受け入れているのは、そういう訳か)


 フェロモンを安定させるためだけの性交なら、相手はnormalでも問題ない。

 あれだけonlyとotherが多く在籍しているサークルだ。真野の話は意外でもない。


「けど、かくれんぼサークルは表向きにはWOについて、何も触れていないだろ。入ってから知ったの? そもそも、かくれんぼサークルには、何をきっかけに入ったんだ?」


 晴翔の顔を見上げた真野が、ぐっと口を噤んだ。

 何かに怯えているような顔だ。


「この場で君に聞いた話を、僕たちは誰にも話さない。真野君の名前も漏らさない。だから、安心して話していいよ」


 理玖の言葉に晴翔が頷いて、真野を見詰める。

 サークルの内部事情や紹介元は、恐らく口止めされているんだろう。これだけ秘密を堅持しているサークルなら、頷ける。

 真野が戸惑いながら、また話し始めた。


「俺の場合は、誘われて……。正確には、誘われたのは俺じゃなくて、幼馴染の深津祐里だったんだけど。祐里が一人じゃ怖いから、俺が一緒なら入るって。だから俺も、祐里の付き合いのつもりで入ったんです」


 真野がしきりに握った手を揉んでいる。

 落ち着かない様子だ。


「俺はもう、バスケ部に入ってたけど、掛け持ちでも負担にはならないって聞いたし、祐里が心配だったから」


 晴翔が自分のスマホを確認する。


「深津裕理君は、医学部の学生だよね。GW明けから連絡が取れなくなってる、onlyの学生だね」


 確認するように、晴翔が理玖に目を向けた。


「深津君は、誰に誘われたの?」

「祐里と同じ、医学部の積木大和です」


 理玖の問いかけに答えた真野の言葉に、ドキリとした。


「大和は顔見知りの先輩に誘われたって言ってました。アイツの親、総合病院の院長で慶大医局の関係で、大学にも知り合い多いらしくて。自分がWOに熱心なの知ってて声掛けてくれたんだって。だから、祐里を誘ってくれたんだと思う」


 初回の講義で理玖に声を掛けてきた時に、既に理玖の文献は幾つか読んでいると話していた。積木の熱心さは講義中の態度でも充分、伝わる。


「穿った見方だけど、最初からonlyの深津君を利用するつもりで積木君が誘ったってことは、なさそう?」


 セフレ探しというならonlyは必須だ。otherより探しにくいonlyを、既にサークルに知り合いが多い積木がセフレ目的で勧誘しても不思議ではない。

 積木も深津も行方不明になっている現状を考えると、穿った見方には違いない。


 晴翔の問いかけに、真野が首を振った。


「それは、多分、ないよ。大和が祐里を誘ったのは、善意だと思う。入学したばかりの頃、大学でたまたま発情した祐里を大和が見付けて、保健室に寝かせて俺を探しに来てくれた時があって。あの時に、祐里がonlyだって知ってから、ずっと気に掛けてくれてた。それをきっかけに、仲良くなって、三人でつるむようになったんです」


 社交性がありそうな積木らしい話だ。

 真野の話からは、正義感が強く面倒見の良い性格が窺える。少なくとも真野はそう感じているのだろう。

 発情したonlyを前にotherの積木がとった冷静な判断と行動に、自我の強さを理玖も感じる。


「同じバスケ部で、文学部の白石凌って奴が、いるんだけど。凌もonlyで、最近は四人で仲良くしてたから、かくれんぼサークルにも、四人で入ったんです」


 真野から零れた名前に、理玖は晴翔と目を合わせた。

 白石凌はonlyで、積木大和と深津祐里同様に連絡が取れない学生だ。


「白石君とも幼馴染か、なにか? 真野君は白石君の第二の性を、どうして知ったの?」


 理玖は思わず問い掛けた。

 大学に入りたての四月の段階で、友達になったばかりの相手に第二の性を打ち明けるのは違和感がある。

 真野が小さく首を振った。


「幼馴染じゃないけど、大学に入ってからの、友達です。凌がonlyだって知ったのは、バスケ部に入りたての頃、部活終わりに体育倉庫で蹲ってる凌を見付けて、抑制剤を分けてやったことがあったからで」

「どうして真野君が抑制剤を持ってたの? その時点でonlyだとは、わからなかった筈だよね? それとも、本人から聞いていた?」


 理玖の早口で矢継ぎ早な質問に、真野が怯えた様子でまた首を振った。


「俺はnormalだからフェロモンとか、わからないけど。あの時の凌の様子が、発情した時の祐里に似てたから。祐里は昔から発情しやすい質で、祐里の親から抑制剤を預かってて。自分で飲めない時は俺が飲ませてやることも、よくあったから。だから、祐里の抑制剤を凌に分けてやったんだけど。それがきっかけで凌がonlyだって知って、仲良くなって」


 たどたどしく話す真野は、何となく理玖に怯えているようにも見える。

 圧をかけているつもりはないから、心外だ。


「なるほどね。処方薬を本人以外に飲ませてはいけないよ。onlyの抑制剤も年齢や体重、フェロモン値で量が変化する薬だから、場合によっては薬効がないかオーバードーズを引き起こす」

「すみません……」


 理玖の説明に素直に謝るあたり、正しい対処でなかった自覚はあるのだろう。

 とはいえ、真野の機転で白石凌が救われたのは事実だ。


「白石君は自分の頓服薬は持っていなかったの?」


 晴翔の疑問はもっともだ。

 onlyやotherは性を自覚した時から薬が欠かせない。ある程度の自己管理能力は身に付くはずだ。


「あの日は、忘れたって、言ってた。けど、それ以降も何度か失くしたりしてて。祐里も薬を失くしやすいから、俺が予備を持っているんだけど。onlyってそういう人多いのかと思って、白石の分も預かるようになりました」


 真野の話に、理玖は首を捻った。


「onlyだから失くしやすいというのは、ないと思うけどね」


 たまたま深津と白石が、そういう性格なのか。


(或いは、盗まれたのか。という懸念が生じるな)


 フェロモンの感度が良いonlyを探すために、あらかじめ目を付けておいたonlyの抑制剤を盗んで発情させるように促す。

 onlyの興奮剤なら国内で合法的に入手可能だ。それ以前に、薬など使わなくても発情したotherが近付けば欲情を煽れる。


 仮に、深津祐里と白石凌がターゲットで、二人の発情を試すために頓服の抑制剤が盗まれたのだとしたら。二人をかくれんぼサークルに勧誘するための確認だったのかもしれない。

 フェロモンに左右されないnormalでWOに慣れている真野祥太が近くにいて助け舟を出したのは、かくれんぼサークルからしたら迷惑な偶然だったろう。


(出会いが目的のWOお見合いサークルで、感度が良いonlyを勧誘するなら、セフレ探しが主になるのかな。有体にいえば性交メインのサークルかもしれない)


 とはいえ、今の時点では真野の言葉だけを繋ぎ合わせただけの、理玖の想像に過ぎない。

 だが、そう考えると納得できる。


(そうなると、第二の性が記載された学生名簿は必須になる。ある程度、踏み込んだ個人情報の閲覧権限も必要になるから、折笠先生の関与は絶対だ)


 顧問である折笠が関わっているとなると、納得できてしまう内容だ。

 理玖に散々、愛人になれと声を掛けてくる折笠は、既に複数名の愛人を抱えている。

 折笠の性欲の強さと若い男好き、特にonly好きは理研の頃から有名だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?