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第37話 目的

「その乱交集会の後から、積木君と深津君、白石君とは連絡が取れないんだよね」


 真野が蒼い顔のまま頷いた。


「俺とは、連絡取れないです。けど、祐里の親には、祐里からメッセあったみたいで。友達の所に泊まってるから心配しないでって。でも、それ自体がおかしいんだ。祐里は慣れない奴の所に泊まれるような性格じゃないし、俺に何も言わずに行ったりもしない」


 どうやら深津祐里は内向的な性格らしい。加えて真野祥太にかなり依存した性格をしている。幼馴染というよりは恋人のように聞こえる。


「真野君はさっき、積木君のメッセは本人じゃないと思うと言っていたよね。深津君のメッセも、本人じゃないと思うの?」


 理玖の問いかけに真野がきっぱりと頷いた。


「大和と凌は一人暮らしだから、そんなに心配されないかもだけど。祐里は実家だから、親が騒がないように、そんなメッセを誰かが送ったんじゃないかと思って」


 真野の言は一理ある。

 そうなるとやはり、学生の個人情報を入手できる立場の人間の関与は否めない。


(折笠先生が絡んでいるとなると、佐藤も関わりがあるんだろう。Dollじゃなくても犯罪集団の可能性は高いか)


「祐里はonlyだから、普段だって発情しやすいのに、あんな風に何時間もセックスしてたら、洗脳されて、ヤらないといられない体になるんじゃないかって。しかも薬なんか使われたら、発情しっぱなしになる。そんなの、怖くて……」


 真野が顔を覆って泣きそうな声で話す。

 晴翔が慰めるように肩を撫でてやっていた。


「だから来た時に、洗脳されて連れ去られるって、言っていたんだね」


 晴翔の声掛けに、真野が手で顔を覆ったまま頷いた。

 その様子は、かなり憔悴している。

 来た時も焦っている感じだったが、一通り話して、安堵と共に別の焦りも出たのだろう。

 幼馴染の深津祐里への心配が先立っているようだが、真野自身も安全な立場とは言えない。

 大学に入学した途端に乱交パーティに参加したとなれば大事だ。

 かくれんぼサークルの集会の実態が明るみになれば、真野自身も糾弾される対象になりかねない。


(乱交に絡ませることで秘密を堅持して存続してきたんだろうな。やり方が汚くて、吐き気がするけど)


 かくれんぼをするサークルの筈が、WOの出会いの場である合コンを提供するサークルであり、相性の良いセフレや恋人を探すための乱交を提供していた。

 恐らくその先に、セックス漬けにしたonlyとotherを利用する何かが潜んでいる。


「かくれんぼサークルなんて、よく思い付いたものだね。真実を上手に隠してる。鬼は見付けるのが大変だ」


 椅子に掛けたまま、理玖は背もたれに凭れ掛かった。

 天上を見上げながら、頭の中を整理する。


 四月からやけに広がった理玖の噂と学生の関心の高さ。

 そんな中で起こった弁当の窃盗事件。

 晴翔が研究室の常駐になった途端に起きた、佐藤満流の素性調査報告書事件。

 事件を経て、理玖と晴翔は晴れてspouseとなった。


 それと並行して、四月には既に始まっていた、かくれんぼサークルの勧誘。

 たまたま頓服の抑制剤を失くしたり忘れたりしたonlyの一年生深津祐里と白石凌が、偶然にも大学構内で発情した。

 二人を救ったのはたまたま同じ学生、normalの真野祥太。 

 その一件をきっかけに、恐らく発情しやすい深津と白石はotherの積木大和と知り合った。

 四人は示し合わせたように友好を深め、積木の勧誘でかくれんぼサークルに入った。


 両方の件に共通して関係があるのは、理玖と同じWOの准教授である折笠悟だ。


(四月に入ってから、晴翔君は僕に触れるようになった。言葉も大胆になった。だから僕も、発情しやすかったんだと思っていたけど)


 仮に、大学の構内にonly用の興奮剤が仕掛けてあったとしたら。

 敏感なonlyでなければ反応しないような量の薬が、構内のあちこちに仕掛けてあったとしたら。反応したのは理玖や深津や白石だけではなく、もっといた可能性もある。

 無味無臭の薬を認識するのは、まず無理だ。onlyなら発情という発作だと思い込む。


(皮下注射用の薬液を噴霧ミスト状にしても、粘膜から微量に薬が体内に吸収される。敏感なonlyなら、反応する。科学物質という点でotherのフェロモンと同じだ)


 そうやって敏感なonlyを探し出して、かくれんぼサークルに勧誘していたとしたら。

 同時に煽られたrulerの理玖にspouse契約をさせるため、otherの晴翔を嗾けたのだとしたら。


(去年、何も感じなかったのは、僕が出向で来たのが五月だったから、かもしれないな)


 四月の時点では仕込まれていた、かくれんぼサークル勧誘用のonlyの興奮剤は、五月には既に撤去済みだった。そう考えれば理玖が今年になって反応した理由も頷ける。


(servantに仕立てたonlyとother、spouseを得たrulerを使ってしたい事は、何だ)


 理玖は息を吐いた。

 犯罪以外に可能性が浮かばない。


(僕の事件とかくれんぼサークルの実態を繋ぎ合わせる根拠は弱い。だけど、無関係だと看過する気にもなれない)


 時期が重なっているせいもあるが、折笠に佐藤、積木の存在は引っ掛かる。

 理玖はゆっくり起き上がった。


「断定は早計だけど、試す価値はあるかもしれないな」


 理玖の呟きに、晴翔と真野が顔を上げた。


「折笠先生に、僕が聞きに行こうと思うよ。普段はしないような深い話をしてみようと思う」


 理玖の言葉に真野が顔を明るくした。

 同時に、晴翔が蒼褪めた顔をした。

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