ある天気のいい日の午後。
アーチャー家の中庭には赤いバラと白いバラが競うように咲き乱れ、木々は緑の葉を茂らせていた。
テラスにある白い猫足のテーブルの上には、紅茶が入った三つのカップと、スコーンやクッキー、キューカンパ―サンドの入った白いお皿が並べられている。熱々のスコーンからは甘く香ばしい香りが漂っていた。
テーブルの周りにはピンク、レモンイエロー、空色のドレスで着飾った令嬢たちが、木漏れ日を浴びながら楽しそうに話をしている。天気の話、流行りの舞台の話、そして、王宮のうわさ話……。
リリー・アーチャーが紅茶の香りをたのしんでいると、タチアナが口を開いた。
「リリー様、そろそろロバート王子の誕生日ですわね。今年も立派な舞踏会が開かれるのでしょうね。皆さま招待状は受け取りましたか?」
タチアナが首をかしげながらリリーとマーガレットを交互に見た。
「まだですわ、エイミー様。……ロバート王子は見るだけなら目の保養ですけれどもね……。そう思わなくて? リリー様」
マーガレットから話しかけられたリリーは首を傾げた。
「私はロバート王子のお人柄を知りませんから、何も言えませんわ」
リリーは紅茶を一口飲み、微笑んで言った。
「噂で聞いているでしょう? 手に入れた子犬や子猫をおもちゃのように扱っては、飽きたら捨てるとか」
タチアナは顔を近づけて小声で言った。
「私が聞いたのは、豪華な家具や宝飾品へ度を越えた散財をしているという話ですわ」
クレアもひそひそ声で言葉を続ける。
「どちらにしても、あまり良いお人柄とは思えませんわよね」
マーガレットたちのうわさ話を聞いて、リリーは水を差すと思いつつも、一言いわずにはいられなかった。
「お話したこともない人を悪く言うのは、失礼かと存じますが?」
タチアナとマーガレットは目を丸くさせ、二人で見つめあった後口を開いた。
「……まあ、リリー様はお優しいのですね」
タチアナたちの笑い声が響いた。
そして、タチアナたちは話題を変えることなくロバート王子の悪い話をそれぞれ続ける。
リリーは(……これだけ色々な話があるなら、本当に良くない方なのかもしれないと思ってしまいそうだ)と小さく首を振った。口には出さなかったが(火のないところに煙は立たないというし……でも、もし違ったら? あまりにロバート王子がかわいそう)と、リリーは一人考えていた。
リリーが俯いていると、タチアナが言った。
「リリー様、このフルーツケーキ、とっても美味しいですわ。リリー様はもう召し上がりました?」
「まだですわ。私もいただきます」
リリーは顔を上げ、タチアナに笑顔を向けた。ケーキを一つ取り、口に運ぶ。
ケーキの心地よい甘さとオレンジの良い香りが口に広がった。
「ほんとに美味しいですわね。あとで調理人をほめておきましょう」
リリーはロバート王子のうわさ話など、すっかり忘れてしまった。