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わがまま第二王子からの溺愛はご遠慮申し上げます!
わがまま第二王子からの溺愛はご遠慮申し上げます!
茜カナコ
異世界恋愛ロマファン
2025年04月16日
公開日
3.3万字
完結済
立派な第一王子アレンに比べ、第二王子ロバートは傲慢、無慈悲、自己中心的と良い話は聞かない。 ロバートは幼いころ病弱で甘やかされて育った。なんでも思い通りになる生活で、ロバートはわがままに育ってしまった。 ロバートに気に入られた人は大変ね、と他人事だったリリー。 それが自分であるとは、つゆほども思っていなかった。

第1話 プロローグ

 ある天気のいい日の午後。


アーチャー家の中庭には赤いバラと白いバラが競うように咲き乱れ、木々は緑の葉を茂らせていた。

テラスにある白い猫足のテーブルの上には、紅茶が入った三つのカップと、スコーンやクッキー、キューカンパ―サンドの入った白いお皿が並べられている。熱々のスコーンからは甘く香ばしい香りが漂っていた。


テーブルの周りにはピンク、レモンイエロー、空色のドレスで着飾った令嬢たちが、木漏れ日を浴びながら楽しそうに話をしている。天気の話、流行りの舞台の話、そして、王宮のうわさ話……。


 リリー・アーチャーが紅茶の香りをたのしんでいると、タチアナが口を開いた。

「リリー様、そろそろロバート王子の誕生日ですわね。今年も立派な舞踏会が開かれるのでしょうね。皆さま招待状は受け取りましたか?」

 タチアナが首をかしげながらリリーとマーガレットを交互に見た。

「まだですわ、エイミー様。……ロバート王子は見るだけなら目の保養ですけれどもね……。そう思わなくて? リリー様」


 マーガレットから話しかけられたリリーは首を傾げた。

「私はロバート王子のお人柄を知りませんから、何も言えませんわ」

 リリーは紅茶を一口飲み、微笑んで言った。


「噂で聞いているでしょう? 手に入れた子犬や子猫をおもちゃのように扱っては、飽きたら捨てるとか」

 タチアナは顔を近づけて小声で言った。

「私が聞いたのは、豪華な家具や宝飾品へ度を越えた散財をしているという話ですわ」

 クレアもひそひそ声で言葉を続ける。


「どちらにしても、あまり良いお人柄とは思えませんわよね」

 マーガレットたちのうわさ話を聞いて、リリーは水を差すと思いつつも、一言いわずにはいられなかった。


「お話したこともない人を悪く言うのは、失礼かと存じますが?」

 タチアナとマーガレットは目を丸くさせ、二人で見つめあった後口を開いた。

「……まあ、リリー様はお優しいのですね」

 タチアナたちの笑い声が響いた。

 そして、タチアナたちは話題を変えることなくロバート王子の悪い話をそれぞれ続ける。


 リリーは(……これだけ色々な話があるなら、本当に良くない方なのかもしれないと思ってしまいそうだ)と小さく首を振った。口には出さなかったが(火のないところに煙は立たないというし……でも、もし違ったら? あまりにロバート王子がかわいそう)と、リリーは一人考えていた。


 リリーが俯いていると、タチアナが言った。

「リリー様、このフルーツケーキ、とっても美味しいですわ。リリー様はもう召し上がりました?」

「まだですわ。私もいただきます」

 リリーは顔を上げ、タチアナに笑顔を向けた。ケーキを一つ取り、口に運ぶ。


 ケーキの心地よい甘さとオレンジの良い香りが口に広がった。

「ほんとに美味しいですわね。あとで調理人をほめておきましょう」


 リリーはロバート王子のうわさ話など、すっかり忘れてしまった。



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