今から十年前。
八歳のロバート・ハリントン第二王子は肩で切りそろえられた金褐色の髪をかき上げながら、薄い青色の目で王宮の兵士をにらみ、剣を持ち上げた。
「こんな重い剣、俺には必要ない! 捨てておけ!」
ロバート王子は剣を両手で持ち上げて、兵士の前に投げ捨てた。
静かな宮殿の廊下に金属が固い床に当たった不快な音が鳴り響く。
「ロバート王子! この剣はアレン王子がロバート王子へ送られた大切なものではありませんか!?」
見張りをしていた兵士は剣を拾い上げ、捧げるように両手に持ちロバート王子に差し出した。
「それがどうした? 俺に口答えをするのか!?」
ロバート王子は腰にちいさな手を当てて、兵士を冷ややかに見据えた。
「俺は、こんな剣いらないと言ったんだ。 俺の見えないところに捨てておけ!」
「でも……」
兵士がとまどっていると、ロバート王子は忌々しそうに言い加えた。
「捨てるのが嫌なら、お前のものにすればいい。俺には不要なのだから、どう処分しようとかまわない」
ロバート王子は剣を両手で受け止めた兵士から目をそらし、背を向けて歩き出した。
ロバート王子がいなくなった後、兵士は騎士団長のもとに行き剣を渡した。
「またロバート王子か。まったく困ったものだ……」
騎士団長のクリフ・バートンは渋い顔をして剣を受け取り兵士に言った。
「この剣は私が預かろう。折を見てロバート王子にお返しする」
「ありがとうございます」
兵士は持ち場へと帰って行った。
「さあ、あのへそ曲がりのロバート王子が素直に受け取るか……」
クリフは苦笑いをして、剣を持ちロバート王子の部屋に向かった。
クリフはロバート王子の部屋のドアをノックした。
「ロバート王子、いらっしゃいますか? 騎士団長のクリフ・バートンです」
「……何か用か? 入ってもいいぞ」
クリフが部屋に入ると、ロバート王子はベッドに寝転がっていた。
「ロバート王子、剣をお届けに参りました」
ロバート王子の眼が見開いた。固い声が響く。
「それは要らないと言ったはずだ!」
ロバート王子がクリフを睨んだ。
「そんなことをおっしゃられても……」
「うるさいな!」
ロバート王子はベッドから降りると、仁王立ちになりクリフに言った。
「兄上のおさがりに興味はない!」
「でも」
「その剣はお前にやる。それを持ってさっさと消えろ!」
「……」
クリフは頭を下げて剣を持ち、ロバート王子の部屋を出た。
部屋に一人残ったロバート王子は、遠ざかる足音を聞きながらため息をついた。
「兄上と同じものを使ったところで、俺が兄上になれるわけじゃない。……クソッ」
ロバート王子はベッドを右手で殴り、そのまま倒れこむように寝転がった。天井を見あげ、目を閉じる。
「……俺が兄上のように……立派になれるはずがない……」
ロバート王子は枕に顔を押し付けて、声にならない叫びをあげた。