平日の午後2時半。この日は土曜日仕事に出た振替で休みだったが、奈々に言われ彼女の大学近くのコンビニで帰りを待っていた。
「タカ君、お待たせ。」
小走りに手を振って奈々が駆け寄ってきた。
「おかえり。そんな走ってこなくてもいいのに。」
「いいの、タカ君に早く会いたかったんだもん。本当は大学前まで来てくれるとすごく嬉しかったなー」
奈々が俺の顔を覗き込むので視線を外した。本当は校門前で待っていて欲しいと言われたが、明らかに大学生ではない俺が敷地に行くのはハードルが高く、大学近くのコンビニで勘弁してもらったのだった。
「それで今日は何したいの?」
「まず最初は、コンビニでアイス買って半分こしたいの。」
「あ、ああ」
コンビニでアイスを買って半分ずつ分けるのは青春なのか、と疑問に思ったが口にするのは止めた。大人になり少し価格帯の高いアイスも気にせず買えるようになった今、敢えて1個を二人で分ける必要がなくなったので思い浮かばなかった。高校生のお小遣いでやりくりして財布と相談しながら、買うか買わないか決めていた時に二人で食べるアイスに醍醐味があるのか?よくは分からないが、まだ始まったばかりだ。奈々のやりたいことに付き合う。
分けやすいように6個入りのチョコレートがかかったアイスを買ってピックに刺して食べる。ぶつぶつ言っていたが、久しぶりに食べると口の中で溶けていくバニラの甘さに癒されていた。
「久しぶりに食べるとうまい!!」
「ねー、甘くておいしいよね」
「ね、水を差すようで悪いけど青春って感じた?」
「……。ううん、アイス食べて美味しかった、としかならなかった」
「だよね……。」
「で、でも、アイス食べただけだし!!!きっとこれからが本番だよ!次は、駅前のクレープ屋でクレープ食べよう!高校生カップルっぽいじゃん?」
「そっか、じゃあ行こうか。」
苦笑しながら奈々の手を握ると、奈々は目をキラキラ輝かせている。
「すごい!!タカ君、今の青春っぽいよ。いいよ、その調子!」
別に青春っぽさを演出するためにしたわけではないが、奈々が喜んでいるのでそのまま手を繋ぎながら歩き始めた。しばらくすると指を絡めてきて恋人繋ぎへと変わっていた。隣で手を繋いでいない方の手をグーにして俯きながら口元のニヤつきを隠している奈々。
その表情が奈々の言う『青春』っぽさを感じて、心の中でそっと頬を緩める。
「そういえば、奈々って甘い物好きだっけ?」
「ん?あんまり食べない。でも、青春っぽいから食べてみたかったの」
「……。」
青春を追い求めるあまり、特別好きでもない生クリームを口にしながら淡々という奈々。
彼女の思い浮かべる『青春』はなかなか難しい。