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第9話 BBQデート

夏の陽射しが容赦なく照りつける7月。バレーサークルの恒例行事であるBBQ大会が近くの河川敷で開催された。緑豊かな木々の下、炭火の焼ける音と、メンバーたちの賑やかな声が響き渡る。奈々は、その中心でひときわ明るい笑顔を振りまいていた。黒い無地のTシャツにデニムのショートパンツにサンダルというラフな格好で、トングを片手にテキパキと野菜や肉を焼いている。時折、焦げ付かせそうになって「きゃー!」と声を上げ周りのメンバーと笑い合っていた。


俺は少し離れた場所で、そんな奈々の様子を静かに見守っていた。賑やかな輪の中にいる彼女は、いつも以上に生き生きとして見える。


「タカ君、さっきから何じろじろ奈々のこと見てるのー?今日も可愛いなって観賞してた?」

サークルの女子メンバーであるユキが近づいてかたかってきた。彼女は奈々の親友で俺たちのことも気にかけてくれる、ひやかしたりするが遠くにいた俺を気にかけれるくらい周りの配慮も欠かさない明るい女の子だ。


「そんなんじゃないよ、今そっち行くから」

俺は軽く手を上げて応え、腰を上げた。


みんなのいる場所へ向かいながらも、視線は自然と奈々を追ってしまう。ゆきに笑われそうだが、楽しそうに笑う奈々は可愛い。容姿が優れている絶世の美人とか可愛さではなく、側にいたくなるような癒しとか愛おしいペットみたいな感じ。ペットと言うと上下関係が出てしまうか、なんと言ったらいいのだろうか、とりあえず今日も奈々は可愛い。


BBQの準備は、みんなの手際が良いおかげでスムーズに進んでいた。肉や野菜だけでなく、焼きおにぎりや焼きそばなども用意され、テーブルの上はあっという間に美味しそうな料理でいっぱいになった。


誰かのいただきますの掛け声で一斉に箸が伸びる。奈々も満面の笑みで焼きたての肉を頬張っていた。


「んー!美味しい!やっぱりみんなとやるBBQ最高ーーー!!!」

その言葉に周りのメンバーも笑顔で頷く。彼女の明るさは本当に周りの人を元気にする力を持っている。


食事が一段落すると、男子メンバーが近くの浅瀬で水遊びを始めた。誘われた奈々は、「私も行く!」と元気よく立ち上がり駆け出した。キャッキャッと楽しそうな笑い声が河原に響き渡る。水しぶきを上げてはしゃぐ奈々は、中高生のような無邪気な少女に見える。


俺は、水には入らず木陰のベンチに座ってビールを飲みながらその様子を眺めていた。遠くから聞こえる奈々の笑い声が俺の耳に届く。二人の時とはまた違う奈々の楽しそうな笑顔はキラキラと眩しかった。


「孝志はさ、奈々ちゃんみたいな彼女いて幸せだよな」

「いくつ違うんだっけ?いいよなー年の離れた彼女なんて羨ましい」

「奈々ちゃん、明るいし面白そうだよね。孝志は将来とか考えているの?」


いつの間にか奈々と同じくらいの年齢層は川で水遊びを楽しみ、周りは俺と同じくらいかそれより上の男性陣だけになっていた。片手には、各々好きなお酒を持ち気分よくほろ酔い状態だ。


「12個下。まさか同級生ではない干支が同じ子と付き合うなんて思っても見なかったよ。将来って言ってもまだ奈々は学生だし、付き合って3か月だからそんな考えたりはしないかな。」

「まあそうだよな。でも奈々ちゃん泣かせたりしたら、俺らがただじゃおかないからな」

「はいはい、そう言うと思ってちゃんと考えてから付き合ってますよ。」

「奈々ちゃーーーん!孝志が奈々ちゃんのこと好きで好きでしょうがないって!」


男性陣の一人の大樹が奈々に向かって大声で叫んでいる。俺は飲んでいたビールを盛大に吹きこぼした。べとついた身体をタオルで拭きながら、男性陣を軽く睨みつける。


奈々たちに声は届いたようだが、内容までは分からなかったようでこちらに気づき笑顔で手を振っている。


「タカ君!こっち来て一緒に遊ぼうよ!」

濡れた髪をタオルで拭きながら奈々がこっちへ来るように手招きしている。


「ああ、今行くよ」

俺はベンチから立ち上がり、奈々のいる場所へ歩き出した。水に入るのは少し気が引けたけれど、彼女があんなに楽しそうにしているのなら、少しだけ付き合ってやろうと思った。


浅瀬に入ると、水は思ったよりも冷たくて気持ちよかった。奈々はすぐに水鉄砲を手に取り、俺に向かって水をかけてきた。

「えいっ!」

「うわっ、冷たい!」

俺も負けじと水をかけ返し子供のような水遊びが始まった。周りのメンバーも巻き込んであたりは一気に騒がしくなる。奈々は、水の中でも本当に楽しそうだ。くるくると表情を変えながら、笑ったり、叫んだりしている。無邪気な姿を見ていると、俺の童心へと戻って行った。


片付けが終わるとメンバーたちはそれぞれ帰路についた。奈々と二人、河川敷の道をゆっくりと歩く。さっきまでの賑やかさが嘘のようにあたりは静かになっている。


「楽しかったねー」

奈々が少し疲れたけれど満足そうな表情で言った。


「ああ、あんなにはしゃいだの久々だよ。川に入るのも何年ぶりだろ?奈々に言われなかったら絶対入ってなかったと思う。」

「みんなといると、つい子どもみたいにはしゃいじゃうんだよね。みんなと仲良くなれて良かった。」

奈々の言葉を聞いて改めて彼女の周りの人たちへの愛情を感じた。


河川敷を後にし家へと続く道を二人で歩く。夕方の空気は少しひんやりしていてまだ肌寒い。今日のBBQで、無邪気に笑う奈々の姿をずっと見ていた。彼女の笑顔は、周りの人を明るく照らし幸せな気持ちにする力を持っている。俺は、これからもずっと奈々のそばでこの笑顔を見守っていきたいと改めて思った。


「そういえば、さっき大樹君なんて言ってたの?よく聞こえなかったんだよね」

「え、教えない」

「気になるから教えてよ!!」


俺は小走りで奈々から逃げた。奈々も俺の背中を追いかけて走ってくる。夏の日の大切な思い出がまた一つ増えた。



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