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第20話 女の友情

私はユキ、奈々の親友だ。孝志と奈々と同じバレーボールサークルにいる。

この前、奈々が練習中にスパイクアウトを連発して、ミスをするといつも以上に叫んでいたのでいつもと様子が違うことが気になっていた。

声をかけようとしたが、練習後はタカ君とすぐに帰ってしまったし二人から只ならぬ空気を感じたのでその場で声をかけるのは止めた。


奈々から何か言ってくるかもしれない、もし次会った時も元気なかったらどこか誘おうと思っていた矢先、メンバーの大樹から連絡がきた。


「実はさ……この前の練習の時、俺と他のやつで孝志に愛ちゃんのことで話しかけてたら、そこに奈々ちゃんが偶然来ちゃって、なんか気まずい感じになっちゃったんだ。奈々ちゃん、落ち込んでたりしてないかな?もしよかったら話聞いてやってくれない?」


大樹の話を聞き、すぐに奈々のことを思い承諾した。

「分かった。私もこの前の奈々の様子が気になっていたんだ。近いうちに女子だけで飲みに行こうって誘ってみるよ」


そして週末、奈々とサークルの女子メンバー数人で近所の居酒屋に集まることになった。


最初は他愛もない話で盛り上がっていたものの、さりげなく奈々の様子を窺っていた。奈々はいつもと変わらない笑顔を見せていたが、ふとした瞬間に悲しそうな顔をしているように見えた。


しばらくしてから今日聞きたかったことを出来るだけ自然に奈々に聞いてみた。

「そういえばさ、ちょっと気になってたんだけど……この前、何かあったの?」




「ああ……うん。実はね……」

奈々は少しだけ躊躇した後、あの日の出来事を話し始めた。タカ君と愛さんが昔付き合っていたこと、でも今はもう未練はないと孝志が言ってくれたこと。淡々と話す奈々だったが、その声にはほんの少しの翳りが見えた。私は知らなかったが、愛さんと一緒にやっていたメンバーは目配せしてなんて声をかけていいか少し困っているようにも見えた。



お酒が進むにつれて奈々の表情は少しずつ緩んできた。頬は赤く染まり瞳は潤んでいる。

「あのね……タカ君の気持ちも分かってるんだ。過去のことだし、私に隠すつもりもなかったんだと思う。でもね……でもね……」


奈々はぐいっとグラスのビールを飲み干すとテーブルに突っ伏した。

「ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、寂しかったの……誰かから聞くんじゃなくて話してほしかったなって……そんな長く付き合ったとは思っていなくて衝撃だったけど、タカ君の口から聞きたかったの……」



普段は明るく元気な奈々が珍しく弱音を吐く姿にユキはそっと背中をさすった。他の女子メンバーたちも心配そうな表情で奈々を見守っている。



そして酔いが最高潮に達した時だった。奈々は、急に顔を上げ潤んだ瞳で周りを見渡すと、大きな声で叫んだ。


「寂しかったけど、私はタカ君のことが……すっごく好きなのおおお!!!」

居酒屋中に響き渡る奈々の叫びに、周りのお客さんたちが一瞬驚いたように振り返った。しかし、奈々の真剣な表情とどこか切ない叫びを聞いてクスッと笑みを浮かべる人もいた。



隣に座っていたメンバーがティッシュを差し出しながら「はいはい、大丈夫だよ、奈々」と声をかける。他のメンバーも頭を撫でたり背中を擦ったり奈々を慰めている。


「タカ君のこと、本当に好きなんだね」

と笑いながら言うと奈々は泣きじゃくる子どものように、両手で涙を拭き、ぐすぐすと鼻をすすっていた。


「うん……好き、大好きなの……」

そう言って何度も、好きと口にしていた。


他のメンバーたちも

「奈々の気持ち、ちゃんと伝わってるよ」

「タカ君にも届いているし、きっと同じ気持ちだよ」

と思い思いの言葉で奈々を励ました。


ユキは奈々の肩にそっと手を置いた。

「奈々、話したいときはいつでも私たちに言ってね。タカ君たちに言ったり、奈々の話で男子メンバーへの態度変えたりしないから大丈夫!!!」


最後は冗談で笑っていったが、奈々は、涙腺がもろくなっているようでまだポロポロと涙をこぼしている。でも、その表情はどこか安心したようにも見えた。


「みんな、ありがとう……大好き……」


酔っ払って少しお酒臭い奈々が抱き着いてくる。

「よしよし、いい子いい子」

「もー酒臭いぞ(笑)」

「私も大好きだよーー」

「タカ君はこんなに愛されて幸せ者だよな」

さっきまで心配していたが今はみんな笑顔に変わっている。


(大丈夫。こんなにも真っ直ぐに大好きという奈々の叫びは、きっとタカ君にも届いているはずだ。タカ君、奈々のことをこれからもよろしくね。今後、泣かせたらただじゃおかないからね!!)


抱き着いてくる奈々を受け止めながら、私は心の中で二人の幸せを願った。


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