その後も週に1,2回一中バレー部の練習に顔を出した。私が体育教員志望だと知り、男子バレー部の顧問が体育の先生だったため挨拶しようと工藤先生が誘って紹介してくれた。
男子バレー部の内藤先生と工藤先生から学校の様子や授業の進め方、生徒との接し方や受験など中学生教員ならではの生の声が聞けて新鮮だった。
キャプテンでセッターの神田さんとエースの黒田さんを中心に一中バレー部はまとまりを見せている。黒田さんは174㎝と他の選手より頭一つ抜き出ているためスパイクでも有利だ。他の選手は160㎝~165㎝と同世代より高い方ではあるが、技術力の強化が必要だった。
奈々はコースの打ち分けや最高到達点でボールに触り打ちぬくためのコツを教えた。最初は、緊張していた生徒たちも何回か顔を合わせるうちに親しくなり声をかけて相談しに来てくれるようになり、指導者として頼られることに奈々は喜びを感じていた。
休日の練習の休憩中は生徒たちと雑談をする。礼儀は忘れていないがいつもよりもフランクに話しかけてきてくれて楽しい。練習中は機敏に動く彼女たちも休憩時間になると学校の先生の愚痴や勉強の話、好きな子の話をして普通の女の子に戻っていた。
(ああ、懐かしいな。私もこうだったな、あの時は真剣に怒ったり悩んだりしていたけれどこうして大人になると彼女たちの会話が可愛らしい。)
ある日の土曜の休憩中、生徒から恋愛の話を振られた。
「高木コーチは、彼氏いるんですか?」
「う、うん。いるよ。」
「えーーーいいな。」「どんな人ですか?」「年上ですか?」「どんなところが好きですか?」「どうやって付き合ったんですか?」
キラキラした目で矢継ぎ早に質問が飛び交う。一気に言われてどの質問から答えればいいか分からない。
(あーーーー分かる。恋バナって楽しいよね。付き合っている人とか周りにあんまりいないからこの頃ってすっごく憧れるんだよね。)
「わ、私から告白して付き合ったの」
「えー!!!高木コーチすごい!積極的ですね!なんて言ったんですか?」「ドキドキしませんでしたか?」「なんて返事されましたか?」
この様子だと質問が途切れることがなさそうだ。中学生の子たちに圧倒されていると休憩から戻ってきた工藤先生が声をかける。
「練習再開するぞー」
「はいっ!!!」
さっきまでのキャッキャッしていた女の子の姿は消えて、一斉に背筋をピンと伸ばしコートへと戻っていった。
☆☆☆
練習が終わり、夕方からタカ君とご飯に行く約束をしていたので車に乗る。最近、話すことと言えば一中バレー部のことばかりだ。
「最近ね、練習中に生徒の方から今のスパイクどうだったかとか、ブロックの場所や手の向きは問題ないかとか聞きに来てくれるようになったの。最初は距離感がある気がしていたんだけど相談されるとすっごく嬉しい。授業とかでも教えるのとか想像したらワクワクしちゃった。」
「良かったな。奈々、指導者向いているんじゃない。前はさ、バレー止めてそれ以外の道で体育教員選んでいたんじゃないか、って思うところもあったけど最近は教えることを楽しんでいる感じがする。」
タカ君に言われて奈々は驚いた。確かに半年前、就活をするために方向性だけでも決めようと悩んでいた。実業団入りを目指していたが怪我で叶わなくなり、今の大学の学科でなれそうな職業とその中で興味があるものを選び体育教員を選んでいた節があり、どちらかというと消去法だった。
しかし、部活の指導とはいえ誰かに教える側になったことで感謝されたり頼られることの嬉しさや生徒たちの成長を見ていくうちに自分の喜びへと変わっていった。前のようなぼんやりとしたものではなく、教壇に立ちたいという気持ちが芽生えていた。タカ君に言葉にしたことはなかったが汲み取ってくれていたこと、そして時期を見てこうして話してくれることに感謝した。
「タカ君、ありがとう。大好き。もう大好き。やっぱりタカ君しかいない」
「……どうしたの、急に?」
タカ君は今日も照れている。
「最高の彼氏だなと思って。」
「奈々、何か企んでいる?」
「そんなことないよ、ただ大好きが溢れ出ただけ。」
「そ、そう。ありがとう」
「あ、私今日ピザとパスタ食べたい!!」
「分かったよ、行こうか。」
タカ君はウインカーを出して店へと車を走らせた。
色んなことがあるけれど、こうして今日もタカ君の隣にいれることが幸せだった。