日曜日、私はタカ君と一緒に一中バレー部の練習に顔を出した。
休憩時間、タカ君と話をしていると初詣で会った生徒と数人の部員たちが、モジモジしながら私たちのところにやってきた。
「隣にいる方はコーチの彼氏さんですか?初詣の時も一緒にいましたよね?」
ちょっとドキッとしてタカ君の方を見たが優しく微笑んでいる。
「そうだよ。」
隠すことでもないので私は笑顔で答えた。
「えー!」「やっぱり!」「いいなー!」
私の言葉が終わると同時に生徒たちが興奮気味に話している。私たちは少し照れながらも「ありがとう」と返した。
いつから付き合っているのか、どちらから告白したのか、この前2年生の子たちに聞かれた質問と同じことをまた聞かれた。
(ああ、この時期って恋バナ楽しいよね。ちょっとしたことでもキュンとするし、聞いていてもドキドキしたもんな)
「なんか大人だよね。」「大人の恋愛いいなー」
生徒たちの言葉に、タカ君はプッと吹き出した。
「ちょ、なんでタカ君が笑うの?」
「大人って言葉にちょっと笑っちゃった、奈々良かったね」
普段、青春青春と言っているのでタカ君からしたら私はまだまだ子どもに見えるのだろう。
「もーうるさいなぁ」
タカ君の肘をつつくとそれだけでキャッと恥ずかしがっている女子中学生。
(そうか、この頃って好きな人とも恥ずかしさで1メートル以上離れて歩いてたっけ。横を歩いているのに人2~3人分のスペースを空けて、それでも接近している気分で心臓がバクバクしたんだよな……。)
中学生時代の淡い思い出が蘇ってくる。部活帰りに好きな子と一緒に歩く帰り道。角を曲がるまでの数百メートルが夢のようで、出来ればもう少し一緒にいたかったのに、恥ずかしくて言いだせずに「バイバイ」って言って後ろ姿を見送っていた。
振り返って戻ってきてくれないか、好きだと言ってくれないか、そんなことを願うが届かず徐々に小さくなっていく背中を少し切なくなりながら見ていた。
☆☆☆☆☆
休憩が終わり練習が再開された。スパイク練習でいつもならエースで2年生の黒川さんが、私のところに何度も来て熱心に質問してくる。彼女は本当にバレーが大好きで、向上心も人一倍強い。
でも、今日は様子が違った。スパイクを打つ時の表情は真剣そのものだったけれど、私のほうをチラリと見るその視線がなんだか鋭い気がした。アドバイスを求めてくることもなく黙々とボールを打ち込んでいる。
「黒川さん、今日のスパイク、すごく力強かったね」
練習後、片付けをしている黒川さんの横を通り過ぎる時に声をかけてみた。黒川さんは、一瞬、驚いたように顔を上げたけれど、すぐにいつもの真剣な表情に戻って「ありがとうございます」と少しよそよそしい硬い声で答えた。
(黒川さん、どうしたのかな?)
いつもと様子が違うことが気になったが、黙々と打ち込みたい日もあるので特に気にすることなくその場を後にした。
練習後、顧問の工藤先生に誘われて近くのファミレスでランチした。トイレとドリンクバーに行くためにタカ君が席を外していると工藤先生が話しかけてきた。
「高木さんと孝志って本当に仲が良いねえ」
「そ、そうですか?生徒たちの集中が途切れないようコーチに専念したつもりだったんですが出来ていませんでした?」
「いやいや、そういう事じゃなくてさ。」
工藤先生はニヤニヤしながら話を続けた。
「実はさ、最初にコーチをやってくれるのが女子大生だって聞いた時、俺が冗談で『もしかしたら来てくれる女子大生と仲良くなって付き合えるかも。10個以上年下の彼女って夢があるな』って言ったんだよ」
「えっ?」
真面目そうな工藤先生がそんなことを言うなんて衝撃だったため、私は思わず聞き返した。
「そしたら孝志が即答で『絶対に止めてください。僕の彼女です』って釘をさすように言ってきたんだよ」
「お前、いいな。そんな若い子と付き合っているのかって言ったら、『そんなんじゃないです。年が若いから付き合ったわけじゃないんで。』って真剣に言うの。前から孝志の性格知っているから女子大生とか雰囲気で付き合うとかしない奴だって分かっているのに、真剣にいうもんだからさ、高木さんに会うの楽しみにしてた。」
「……え、恥ずかしいです。」
「今日も二人でいる姿がお互い自然体って感じで見てて羨ましくなったよ。孝志、口下手だけど真面目でいいやつだから安心して。」
「はい……。ありがとうございます」
私が顔を赤らめて返事をしているとタカ君が戻ってきた。
「何ふたりで話しているんですか?」
「え、孝志には内緒。ね、高木さん?」
「ふふふ、はい」
顔を見合わせて笑う私たちを見て、タカ君は嫌な予感がしたらしく頭を掻いてそれ以上言及してこなかった。
(僕の彼女か~。)
タカ君が言ったという言葉にニヤけが止まらない。生徒たちのように恋バナをしてキャッキャしたい。奈々はユキに話を聞いてほしくて胸が弾んだ。