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25. 甘い毎日

 紅優こうゆうと番になって一週間くらいが過ぎた。

 初めて体を繋げてから、紅優の妖力がたくさん流れ込んできた。

 キスや口淫だけだった時より、ずっと濃い。

 最初は体が火照った感じがして落ち着かなかったが、ようやく慣れてきた。


(毎晩だから、慣れたのかな。それとも毎晩だから、火照ってたのかな)


 番になった日から、紅優は毎晩、蒼愛そうあを離さない。


(嬉しいけど、体がキツい。エッチって、体力必要なんだ)


 紅優に抱かれるまで性的な行為の経験がなかったから、知らなかった。


(だって、紅優は色々、おっきぃから……)


 閨の紅優を思い出したら、顔が熱くなった。


「う、運動しよう! 体力付けよう!」


 一人で叫んで、蒼愛は部屋を飛び出した。

 廊下に出ると、目の前を子狐が横切った。


「え? 今の、小さい妖狐?」


 明らかに紅優の気配だ。 

 追いかけると、子狐が洗濯場から籠を持って庭に飛び出した。

 こっそりと後を追いかける。

 小さな妖狐が、庭の物干し竿に洗濯物を干し始めた。


(もしかして、あの子、紅優の妖術かな。この家の家事って、こんな風に回してたんだ。今まで全然気が付かなかった)


 家の中に常に紅優の気配を感じるのは、結界のせいだと思っていた。

 子狐の姿を視認したのは、今日が初めてだ。


(番になって、紅優の妖力がたくさん混ざったから、わかるようになったのかな?)


 体が火照る以外に、これといった変化は感じていなかったが。紅優の妖力は蒼愛が思っているよりも体に馴染んできているのかもしれない。


「あ、蒼愛。昼餉の準備、できたよ」


 屋内に戻ると、紅優が声をかけてくれた。

 何となく、ぼんやりと紅優を見上げる。


(違和感とかはないけど。紅優は普通に僕を蒼愛って呼ぶ)


 蒼愛も紅優と呼んでいるからお互い様だし、番になったら一文字だった頃の名前は呼べなくなるらしいから、当然の変化なのだろうが。


「ん? どうしたの? 何かあった?」


 紅優に問われて、蒼愛は首を振った。


「紅優に、蒼愛って呼ばれるのが、嬉しいなって、思ってた」


 少し照れ臭くて、俯いた。

 紅優の腕が伸びてきて、蒼愛の体を抱きしめた。


「俺も嬉しいよ。蒼愛って呼べるのも、紅優って呼んでくれるのも、嬉しい。ちゃんと敬語なしで話してくれるのも、嬉しいよ」


 すりすりと頬ずりされて、顔が熱くなった。

 様付けしないのも、敬語で話さないのも、違和感はない。

 契りの縛りでもない。意識して、そう話している。


「紅優が喜んでくれるなら、何でもしたいから。僕が紅優を幸せに出来る方法、もっといっぱい教えて」


 紅優の頬に口付ける。

 動きを止めて、紅優が蒼愛をじっと見詰めた。


「蒼愛は本当に口説き上手になったね。番になるちょっと前まで、自分の気持ちがわからない感じだったのに」


 紅優の顔が照れている。

 最近の紅優は、今みたいな照れ顔が増えた気がする。


「今は、わかるよ。紅優が大好き。番になる前から、とっても好きだったけど、誰かを好きになったりとか、経験がなくて、よくわからなかった、だけで」


 他人を好きになるどころか、興味を持つ余裕なんかない生活をしていたから。

 自分の中に在った感情も性格も、好きも嬉しいも、引き出してくれたのは紅優だ。


「じゃぁ俺が、蒼愛の初めてだね」


 優しい手が蒼愛の髪を撫でる。

 紅優が髪を撫でたりキスしてくれる仕草が、大好きだ。


「うん。全部、紅優が初めてだよ。好きになったのも、……エッチなコト、したのも」


 それはそれは小さな声で呟いた。

 言ってから恥ずかしくなって、頬が熱い。

 紅優が蒼愛の頬を包んで、微笑んだ。


「照れてる蒼愛、可愛い。早く押し倒したくなる」

「だ、だめ。まだダメ。昼間は、ダメ」


 ぷるぷる首を振りまくった。

 さっき、体力のなさを嘆いたばかりなのに、今から抱かれたら身が持たない。


「冗談だよ。お楽しみは、夜だね」


 頬に口付けると、紅優が蒼愛の目尻に指を滑らせた。


「やっぱり、変わらないか」


 呟いた紅優の言葉に、蒼愛は首を傾げた。


「ううん、何でもない。お昼にしよう。蒼愛にまだ教えていない瑞穂国の話とか、しながら食べようか」

「うん、聞かせてほしい」


 部屋の中に促されて、後に続く。

 蒼愛の瞳を、紅優が残念そうに眺めていた気がする。

 紅優の表情を思い返して、どうしてか不安になった。

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