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第6話 伝記なる科学の武器

 中世において、その素材は霊力があると言われ。

 だからこそ、それを元に作られた弾丸は数々の物語で魔力を持つ狼男を殺し、魔女を殺し、吸血鬼ヴァンパイアを滅ぼした。

 だが、現代の今日こんにちにおいて、それの評価は鉛より柔らかく、値段も高く、コストパフォーマンス最悪の素材ゴミ

 使用される場面なんて、万能を否定する時に引用される程度、それぐらいの絵空事の産物。


 ——銀の弾丸シルバーバレット


 だが、その噂はヴァンパイアハンターや教会によって、事実が歪められた結果だということを人々は知らない。

 もちろん、銀に霊力なんてものはない。

 数々の物語現実で殺した、その時に重要だったのは素材ではなく『性質』だ。


【鉛】

 電気伝導率:8.1

 融解温度:327.5℃


【銀】

 電気伝導率:62

 融解温度:961.93℃


 銀の弾丸が使われた理由、

 それは鉛より通電率が高く、高電圧時に生じる熱に耐えるほどの融解温度を持っていたことに他ならない。

 銀に価値などない、真に価値があったもの。

 それは科学の発展により発明され、中世から魔力を打ち消し、数々の化け物を殺してきた相対する存在。

 ——————電力だ。


「はっハハッ! 見たこともないか? ビビってるって顔だもんな」


 銀の銃弾に効率よく通電させるため、銃身まで銀で作られた拳銃を。

 まるでクリスマスプレゼントを初めてもらった子供みたいに見せびらかし、銃口を左右に振る青髪。


「はぁっ、はぁっ、なに、みてんだッ?」


 佐藤は噛み締めながら震える手で傷を押さえ、強い意志で吠えてくる。

 てっきり見向きをされないことからグルになって、黒瀬を犯すつもりと思っていた。

 けど、実際は魅了され。

 好きな女をたらい回しに犯される、そんな手伝いを無理やりさせようとしていたんだとしたら?

 だって、奴は一度も『殺す』と言っていない、黒瀬を連れてくるまで犯すことしか知らなった可能性は十分にある。

 そして自然な受け答えができるよう、意識を残されながら殺しの手伝いをさせられた。

 そりゃ、自暴自棄になりふり構わなくなるだろ。


「どっちかと思っていたってのにさ。

 いっか、結局痴女のもつれから自殺に見せかけて、お前も殺そうと思っていたし」


 青髪は大して誤射を気にしてない様子で、再び構える。

 しかも散々、目の前でヤった挙句、その銃で二人とも殺そうとするなんて……ド畜生が。


「幸いにも骨に当たっているから傷は深くない。傷穴に埋め込んで圧迫して止血するんだ」


 押さえる手からもドバドバ流れ落ちる血に。

 これまでの佐藤の言動を思い返しながら、ハンカチを差し出す。


「お前……どこで銃を手に入れた?」

「知りたいか? 知りたいよな?」


 銃を撫で青髪は完全に調子に乗っているのか、自惚れ、小馬鹿に笑ってくる。


「秘密だ、ばぁぁぁか」


 そして見開いた目元に両手をひらひらさせ、ベロを出してレロレロしながらおちょくってきた。


「ッ、ッチィィっ」


 それには黒瀬も一度は我慢しようとしたようだが、耐えられなかったようで長い舌打ちが漏れ出ていた。


「そ、そうだッ。あ、あなたッ、依頼とか言ってたわよね? 頼まれたとかってことよね」


 打って変わって高くなった声に期待が含んでいる。そんな顔も出来たのか。

 鋭く、悟ったような目つきは生まれつきじゃなくて、ずっと闇に溺れていたって訳だ。


「あぁ……そうd」

「っぐぅっ」


 一段と溢れ出る佐藤の血反吐に、ハンカチを押し付ける。


「魅了されてたんだろ、お前は何も悪くない」

「っ……それって、どういうこと」


 俺の言葉でようやく理解したのか、黒瀬は信じられなさそうに佐藤を見た。


「もしかして……あんたもここ入った時」


 その後、倒れている女子生徒たちを眺め、罰の悪そうに唇を噛んだ。


「私1人を狙うなら男で、考えたら分かることだったわ。ごめんなさい…………私、自分のことしか考えなくて」


 黒瀬の言葉に、ずっと張り詰めていた佐藤の口元がふっと柔らかくなった気がした。

 そして押し付けられたハンカチ、それと俺の目をじっと眺め。


「いつまでぇくっだらねぇ話をッ、続ける気だ?」


 これまでで一番とも言えるほど、腕、首、顔中に血管を浮き上がらせ。

 パチンっと手を払いのけ、血が滲んだハンカチがベッタリと地に張り付く。


「俺様を同情すんな、憐れむな」

「イッ」


 そして立ち上がった黒瀬の髪を鷲掴みにすると引っ張り、無理やり顔を上げさせた。


「その目、その態度、生乾きの雑巾みてぇに気持ち悪くて、くっせぇんだ」


 ドンっと黒瀬の頭を壁に叩きつけ、そのまま横へ削る。


「魅了されてたんだろ? 助けてあげるからこれでニコニコハッピー、お手手合わせて共闘だ。本当にそう思ってたのか?」


 何度も何度も、壁に叩きつけ、叩きつけ。

 黒瀬の額からは血が流れ、最初は抗おうとしていた手もやがて力無く落ちる。


「このお゛れ゛をォ、弱者だと貶すんじゃぁねぇッ!!」


 それを確認すると佐藤は頭を離し、血に染まった制服のまま振り返ってくる。


「あぁ、確かに……確かに魅了されたよ。クソがよ」


 地面に横たわり、浅いがまだ呼吸している黒瀬を見下ろし、靴で頭を踏んづけ。


「なぁ? 虐めから助けられた時、てめぇはさぞ気持ちよかっただろう?」


 ジリ、ジリ、とゆっくり痛みを味合わせるように体重を乗せて続ける。


「おめぇ、知らねぇだろ?

 あの日から、俺は女に助けられた奴って揶揄われ、もっと馬鹿にされ続けた」


 黒瀬から出る苦痛の顔に、緩む頬は心の底から笑っているようだった。


「おめぇが気持ちよくなっている陰で、まいにちっ毎日ッ」


 銃で撃たれた傷跡を抉り、痛みが快感だったように、煽るように黒瀬の顔面に塗りたくる。

 それも特に淫魔の武器とも言える目元を、念入りに、2度と目が開けられないぐらいに。


「弱ぇ奴はゴミだ、カスなんだよ。

 一時助けられたから、なんになる?

 また助けてもらえるかも、良い世界かも、そうやってまた弱いままの理由が増えるだけだ」

「っはっハハハッ、なるほど、なるほどな! お前もを狙ってるってわけか」


 佐藤はゆっくりと制服の内側に手を入れ、そこから凹凸が生まれ。

 背中にはピタっと、青髪が火傷しそうなほど熱い銃口を押し付けてくる。

 うっそだろ、おい。

 てめぇまで銃を持っているとか、そんなぽんぽんあってたまるかよ。

 前後で挟み撃ち、なんて外した弾が当たるかも、なんて味方も自分も微塵も考えてない方法はロシアで十分だって。


「おれぁな、強くなるためなら……なんだって捨てるって決めたんだよ。

 それがなんだ? 一度成らず、ニド、ニ度も助けやがった」


 邪悪な笑みを浮かべ、佐藤は顎で合図を送る。

 この局面で行動するなら銃を向けてくる前、


「サキュバス二人に、銃二つ。

 その英雄気取りのおっさんぐらい、さっさと殺せよ」


 狙うは構えるまでの猶予がある佐藤、よりも真後ろで遠距離武器をさも万能武器と勘違いしている青髪。

 右腕の内側を背中で撫でるように回転。


「ッシ」


 動いたことで反射的に引き金が引かれたが、初弾は外れ、佐藤の頬を掠める。

 拳銃の種類なんていちいち覚えちゃいない。

 スライドが後退して装填する方式がブローバックか、ショートリコイルか。

 弾を爆発させる撃鉄がハンマーか、ストライカーか。

 そんなもんは自動車屋にでも任せりゃ良い、一つだけ確かなことがあるとすれば。

 どれも撃った時の反動やガス圧でスライドが後退し、戻る時に引っ掛けてされること。

 どんなに凶暴な拳銃飼い犬だろうと、家に帰ってを食わせなきゃ無力。


「っな、おっ、なんで、なんで弾が出ねえッんだよ!!」


 俺へは身体の構造的にも、どうやっても銃口を向けられない。

 そう咄嗟に理解した青髪は、黒瀬へ向かって引き金を何度も引き続ける。

 けれど、発砲音が再び出ることはなかった。


「——さすが、だ。間抜け」


 このまま青髪を佐藤へ投げ飛ばそう、そう思って力を入れていと声が聞こえ。

 直後、佐藤の胸元から眩しいほどの紫光が照射され。

 1mmも開けないほど、目を細めるしかなかった。


「俺様より銃が、そんな怖かったか?」


 その手に握りしめていた物、それは鏡。

 それも紋様が完全に浮かび上がり、魅了が発動している眼球4つが映り込んでいる手鏡だった。

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