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第13話 色欲の街に飛ぶ欲情

「これは——」

「そう、各国の艶っぽい色よ。ここ『リューシア』はまさに欲の街という訳」


 俺が答えようとした矢先に、黒瀬が被せてきた。


 うぁー、こいっつぅ。

 なんか明後日の方向向いて、クールな雰囲気漂わせてるけど。

 絶対、今のセリフ昨日の夜に考えて来たろ、考えて来て、初心者案内で言いたくてたまらなかったんだろ。

 っあ、ほらっ、見た。

 今、ちらっとこっち見た。

 こっち見て、反応を確認したぞ。


 だが、落ち着け。

 俺も立派な大人だ。

 ここで指摘しては可哀想ってもんだろう?

 きっと彼女は夜遅くまで、ワクワクしながら考えて来たんだ。


「なるほど、上手いこと言うな。まるで考えて来たみたいだ」


 我慢できなかったわ。

 話しながら黒瀬のお膳立てするより、突いたらどうなるんだって興味が勝ったわ。

 っふ、俺もまだまだ若くてピチピチってことだな。


「そう? 普通に連想してしまうと思うけど、センスが出ちゃったかしら」


 ファサッと横髪を掻き上げ、黒瀬は動じることなく自信満々に言い放つ。

 我慢、我慢しろぉぉ、俺ッ。

 照れ隠しで調子乗っているだけ、俺を下げれないから自分をあげただけ。

 今、ここで質問の雨を降らしたい衝動は、拳握って発散しろぉぉ。


「……ん?」


 プルプルと振える拳に、先ほど見た蝶がふわりと捕まっていた。

 しっかし、この蝶はよく出来ているな。

 イルミネーションの代わりに生物を発光させたエコさか?

 2023年辺りに蛍の遺伝子でネズミを発光させたことを理化学研究所が公開してたけど、その応用だろうか。


「っあ、その蝶々には気をつけてね。

 一定時間、接触を許すと感覚共有させてくるから」


 えっ。

 黒瀬の声が聞こえた直後。

 視界は薄暗いどこかのピンクっぽい部屋へ変わり、人がちょうど2人眠れそうなダブルベッドが目の前にあった。

 枕元には甘い香りが漂ようアロマが炊かれ、背後からバシャバシャと誰かが浴びているのか、シャワーの音が聞こえる。


「ん、あっ、お客さん? ちょっと待っててね」


 水飛沫の音に紛れ込む、可愛らしい女の声……今すぐ逃げ出そうとして動こうにも動けない。

 もしかしなくても、ここってホテルだよな。

 それにこの雰囲気となんかのBGM、大人のホテルだよな?

 っえ、確か感覚共有? 黒瀬は感覚共有って言ったよなあ。

 つまり、このまま待っているとR15……いや、R18的なイベントが起きるってこと?


「お待たせ、ちょうどタイミング悪くてごめんね」


 不味い、不味い、不味い。

 真後ろからもうから聞こえる、戻らな——待てよ……戻る必要あるか?

 どうせなら、このままお楽しみしてから帰っても良くないか?

 不幸にも俺は帰り方分からないし、これはもう不可抗力で黒瀬のせいだよな。

 黒瀬がもう少し早く忠告してたら、抜け方を教えてくれてたら、こんなことにはならなかったし。


「じゃベッド、いこっか」


 柔らかいプニプニした手が首元、耳、唇と触れ。

 小さくて柔らかい二つの感触がお尻に当たり、少し遅れて柔らかくて長いのが当たる。


 へっ、へへっ。

 不可抗力、不可抗力、俺だってこんな事は本当はしたく…….ん?

 ケツにあっているの、やけに小さくない?

 それに点と点、胸が綺麗な二等辺三角形の形で押し付けてくるのもおかしい……よな?


………………く、くろせ、たすけ、助けてくれッ!!


 生まれて初めてコナンより早く思考が回った自信がある。

 だが、結論や結果を想像できても、俺には変えるための手段がなかった。

 やけにゴツい腕がバッと俺の首を掴み、トルネードしながらベッドへダイブさせてきた。


「ちょっと少しだけなのに、はぁはぁって興奮しないでよ。気持ち悪いわね」


 終わった、俺の貞操がこんな男に無理やり奪われるなんて。

 そう思っていたところ、黒瀬の声と共に街の騒音が戻って来た。


「それにしてもあの蝶々、普通なら少し動いたら離れるのに。

 あんな暴れても逃げないなんて、サービスいいのね」


 何も知らない黒瀬は、俺の胸にペタペタと何やらワッペンをつけている。


「なんなんッ……なんなんだよ、あれ」


 100歩譲って男でも否定はしない、しないが。シャワーの時の女声と言い、最後の襲われるスピード感。

 誰がなんと言おうがあれは絶対、悪意があった。


「そんな気に入ったなら、最後の連絡先に電話したら?」

「おとこ」

「え……?」

「男だったよ、あの蝶の先にいた奴」


 気持ち悪がっていた黒瀬の顔が、徐々に憐れみを含み始める。


「最近、ごくごく最近だけど、お客さんと一緒にイタズラする蝶が混ざっているって聞くわね」


 あぁ……なるほど。

 思い返せば風呂場からドアが開いた音が聞こえなかった。

 風呂にいた女と、最初から俺の後ろにいた奴、2人いたってわけか。

 許さねぇ、許さねぇ。

 俺の純情を弄びやがって、あの声の女を見つけたら絶対、後悔させてやる。


「そういえば、何を胸に貼ったんだ?」


 コンクリートを抉る勢いで、掻いて決意を決めた俺は思い出したように胸を見る。


「R18、未成年用のワッペンよ。防虫剤の成分が混ざってるの」


 階段の登ったそばの壁の壁にカゴが吊り下げれていて、これでもかと未成年用ワッペンと注意書きが書かれていた。


「もっと早く、もっと早くつけてくれよ」

「説明しようとしたらくっついたのよ」

「こんなもんがウヨウヨ飛んでるなんて、魔法界名乗ったら殺されるぞ」

「これでも…………大分マシになった方よ」


「そんな訳ないだろ」と少しだけ落ち着きを取り戻し、服装を整えると。

 黒瀬は頭に手を当て、言いづらそうに目線だけ向けてくる。


「数年前は空飛ぶ自慰具だらけで、空気も吸いたくなかったんだから」


 想像するだけで吐きそうになる光景に、ただ静かに夜空を見上げた。


「そりゃぁ……随分とこの街もまともで、綺麗になったじゃねぇか」


 ドローンライトショーみたいな光が男女を形造り、磨かれた身体を強調し。

 そこをサキュバスの腰を掴み、お尻に顔を擦り付ける中年男性が、パンツ一つで流れ星みたいにキラキラ飛んでいく。


 空飛ぶオナホって、ここ発祥であっちの世界は淫魔が多いここよりモラルがないのか。

 それはまた、とんでもなく治安が良いところに来ちまったな。

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