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第24話 うめっ、うめっ

「はっはっは、これまた面白い催し物だ。結構結構」


 そこへ聞き覚えのある笑い声と共に、見覚えのある人物が現れた。

 他でもない、道具屋で俺たちに話しかけ、キラキラな服装をした変態だった。


「なんじゃ、この股間丸出しの変態は……つまみ出せっ!」


 その瞬間、新入生全員の心が奇跡的に一致した気がした。

 そして、その一致した思いはただ一つ。


『他でもないエロ本校長が言うな』


 まじで、その一点だけだっただろう。


「校長先生、あの人は今年から家庭科兼道徳の授業をさる教師です」

「あんな奴が道徳とは……世も末じゃの」


 校長は眉をひそめて憤慨している風だったが、その手がエロ本をヒソヒソ懐に隠している姿を見ると、説得力なんてゼロどころかマイナス。

 正直、どっちもどっち、どんぐりの背比べでしかない。


「校長ほどの人物ですら、校長のような人物だからこそ理解してくれないかっ。

 この素晴らしき、世界へのMessssssageをッ!!」


 校長の言葉なんかまるで気にも留めず、変態教師は身体を仰け反らせ、股間をこれでもかと強調してくる。

 いや、もう見たくねえって、教師だったのかよお前。


「こんな変態は置いておいて、さて、飯にしようかの。


 校長がグラビア雑誌から注目が逸れたタイミングを見計らったのか、ここぞとばかりに手をパンッと叩いた。


「安心せぇ、あくまで懇親会がメインじゃ。

 これが終わったら解散だ。各々自分の家に帰るもよし、学校が用意した無料の学生寮へ帰ってもいい。

 ただし、羽と尻尾や魅了の力はくれぐれも出すな、使うなよ。分かったな?」


 その言葉を合図に箸やスプーン、フォーク、ナイフ、皿といった食器がまるで意志を持ったかのように空を舞い、テーブルに整然と並んでいく準備が始まった。


「準備が整ったところで、料理だ」


 校長先生の合図で、宙を舞う桜の花びらがふわりと集まり、透明な川のように流れ出す。

 その上を、回転寿司さながらに色とりどりの料理が次々と漂っていく。

 寿司、カレー、ナポリピザ、チキン、餃子、ステーキ、サラダ、ナン、チャーハン、パン、デザート――もう、ありとあらゆる国の美味が勢揃いだ。

 満開の桜の下、広い池を優雅に泳ぐ色鮮やかな鯉がチラリと顔を覗かせ、桜の花びらの川に映り込む。

 その上を流れる料理の数々は、まるで夢の中の宴そのもの。

 圧巻、としか言いようがない光景だった。


「ほぉ……こりゃすげぇな」

「そうね、びっくりだわ」


 思わず漏れた俺の呟きに、黒瀬も目を輝かせて頷く。


 まず目を引いたのは、桜の花びらに浮かぶ握り寿司だ。

 新鮮なマグロの赤身が艶々と光り、シャリにはほのかに酢の香りが漂う。

 隣には海老がプリッと弾けるような天ぷら寿司、さらにはウニの濃厚な甘みが口の中でとろけそうな一貫まで。

 俺はさっとトングを手に取ると、皿は動きを止めたのでそれらを自分のに乗せる。

 醤油をちょんとつけて頬張れば、魚の旨味とシャリの絶妙なバランスが舌を包み込む。


 続いて流れてきたのは、黄金色に輝くカレーの小舟だ。

 スパイスの香りがふわりと鼻をくすぐり、じっくり煮込まれたゴロゴロの野 菜と柔らかな肉がルーに顔を覗かせる。

 スプーンを手に持つと、濃厚でコク深いルーを皿にたっぷりよそった。

 隣に添えられたナンは外側がカリッと香ばしく、中がふわっと柔らかで、ちぎって皿に置けば湯気がふわっと立ち上る。

 カレーに絡めて口に運ぶと、スパイスとナンのハーモニーがたまらない。


「お、おい、あれ見ろよ!」


 誰かの声に目をやると、今度は焼きたてのナポリピザが優雅に漂ってきた。

 モッツァレラチーズがとろりと溶けて、トマトソースの鮮やかな赤が食欲をそそる。

 バジルの緑がアクセントになって、窯で焼かれた香ばしい生地がほのかにスモーキーな風味を放つ。

 一切れ手に取れば、チーズが糸を引いて、熱々の具材が口の中で弾ける。


「ちょっと……貴方、いくら何でも来るたび取って、食べられるの?」

「このために昨日から飯を抜いていたんだ、いくらでも食えるぜ」


 若干引き気味の黒瀬をよそに、俺は次に流れてきたジューシーなチキンの皿に目を奪われた。

 皮がパリッと黄金色に焼かれ、噛めば肉汁がジュワッと溢れそう。

 ナイフとフォークで丁寧に切り分け、皿に盛り付けると、ハーブとガーリックの香りがふわりと広がる。

 付け合わせのマッシュポテトもバターのコクが効いて滑らかで、一緒にすくい上げた。

 一口食べれば、チキンの旨味が口いっぱいに広がり、全身が幸せに包まれる。


「うわっ、餃子まであるぞ!」


 隣の奴が興奮気味に指差した先には、焼き餃子がこんがりした焼き目をつけて漂っていた。

 皮はカリッと香ばしく、中から溢れる肉と野菜のジューシーな餡がたまらない。

 ニラとニンニクの効いた風味が食欲を刺激し、酢醤油にちょっぴりラー油を垂らして食べれば、もう箸が止まらない。

 ステーキも負けてなかった。

 ミディアムレアに焼かれた肉は表面がこんがり、内側は柔らかくて赤みが美しい。

 一口噛めば、肉の旨味がジュワッと広がり、ほのかに効いた塩コショウが味を引き立てる。

 付け合わせのグリル野菜も甘みがあって、ステーキソースの濃厚さが絶妙にマッチしていた。


「デザートもやばいな……」


 流れてきたのは、色とりどりのスイーツの数々だ。

 チョコレートケーキはしっとり濃厚で、フォークを入れると中からとろけるガナッシュが覗く。

 隣のイチゴショートはふわふわのスポンジに甘酸っぱいイチゴと生クリームがたっぷり。

 さらに、マンゴープリンがツルンと喉を通り抜け、後味にトロピカルな甘さが残る。


 満開の桜の下、こんな豪華な料理が次々と流れてくるなんて、あっちの現実世界じゃ絶対に味わえなかっただろうな。

 鯉が泳ぐ池の水面に映る桜と料理のコントラストが美しくて、食べる前から心が満たされていく。


「はっはっは、今日だけの特別な歓迎の宴じゃからのう! たぁんと食え」


 校長の笑い声が響き渡る中、俺は次々に流れる料理を口にする。

 うぉーーーこのマグロの寿司も新鮮な旨味が広がって、思わず目を閉じるほどに——うまい。やばいくらいうめぇっ!

 変態教師もエロ本校長も、この瞬間だけは許してやってもいいかと思えるほどだった。 

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