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第20話 『てへっ』と『テヘッ』

 俺は、きびだんごの話をアビフ様たちに伝えた。

 明確な理由は不明だが、どうやらこの団子を口にした者同士は、種族の垣根を超えて意思疎通が可能になるらしい。

 ただし——残りは三つ。作り方も不明。つまり超貴重品ってわけだ。


 その貴重なきびだんごをどう活用するか考えた末、一つの案が浮かんだ。

 一つのきびだんごを、いくつかに切り分けて与えても、同じ効果が現れるのではないか……?


 さらに、丸ごと食べさせるわけではない分、分量が減るぶん、俺への忠誠心的なアレも薄れる……かもしれない。そのほうが俺にとっても都合がいい。

 この『俺的ご都合主義』の部分は伏せたまま、アビフ様にきびだんごを食べてもらえないか懇願してみた。


「うーむ。にわかには信じらがたい話じゃのぉ……」

「族長! おいらが旦那や姐さんと会話できてるじゃねぇっすか。それが証拠っすよ!」

「お前は丸ごと一個食べたのじゃろうが。それが条件なら、切り分けて食しても効果があるかどうかは不明じゃろうが」


 アビフ様の言うことは、ごもっともだ。ただでさえ少なくなっているきびだんごを無駄にもできない。それも考慮してくれた発言だろう。

 皆がどうするべきかと唸りを上げている中、ひとり、手を挙げた者がいた。


「はい! 私、そのきびだんごを食べます! 食べさせてください‼」

 声を上げたのは——アテナちゃんだった。

「こら、アテナ! お前は大人しくしておりなさい!」


「いいえ、お父様。私は族長の娘です。この集落のことを考える責任があります!」

 凛とした顔でアテナちゃんは続ける。

「私たちコボルトは、元々争いを好まぬ種族です。でも人間とは、昔から対立ばかりしてきました。その原因は——やはり言葉が通じないことです。もし、その障害を取り除ける手段があるのなら、私はその可能性に賭けてみたいです!」


「アテナ……お主、本気でそう思っているのか?」

「はい! それに……」

 それまで気高く意見を述べていたアテナさんが、急に顔を赤らめ始める。


 その様子を、アビフ様が怪訝そうに見つめ、問いかける。

「それに、何じゃ⁉」

「そ、それに……。私……ララちゃんとお話ししてみたい……です」


(ハファッ⁉)

 ひ、久しぶり俺の心の中で変な感情が開花した音が鳴った。何て尊い理由なんだろうか。

「大将、さっきからアテナがこっちを見てくるんですけど、何を言ってるです?」


 ララは、まだ少しアテナちゃんのことを敵視しているような目つきをしていた。

 でも、アテナさんにチラチラ見られて、うっすら頬が赤い気もする。それに、さっきの『メス犬』呼ばわりから『アテナ』と名前呼びに変わっていた。

 二人は歳も近そうだし、もしかしたら……。


「アテナちゃ、さんがね、ララとお話ししてみたいから、きびだんごを食べてみたいって言ってくれてるんだよ」

「へ? へぇ~……ラ、ララは別に、お話することなんて……無くは、無い……かも、です」


 おひょー‼ なんじゃこの反応は⁉ さっきまでのツンツンしていた態度はどこへやら、急にデレデレし始めたやないですかぁ~!

 俺はこの現象を『ツンデレ』と呼ぶことにした。


「何だよララ~。急にツンデレになってよぉ~」

「ななな、何ですかツンデレって⁉ た、大将の言ってること意味わかんないですっ!」

 ララが急に慌てふためきだしたので、アテナちゃんが「ララちゃんは何て言ってるのですか?」と俺に心配そうに尋ねてきた。


「あ~、ララもアテナちゃんとお話しをしたいみたいだよ。でも、ちょっと照れちゃってるみたいで、あははは」

「ちょ、ちょっと大将! な、何を言っているですかぁ! ララはそんなこと一言も——」


「そっかぁ~、俺の勘違いだったかぁ~。じゃあ、アテナさんにはお断りしておくねぇ~」

「だ、ダメですそんなの! ラ、ララも……おしゃ……した……す……」

「え? 何だって? 声が小さくて聞こえないよぉ?」


「ララもアテナちゃんとおしゃべりしたいですーっ‼」

 顔を真っ赤にしたララが、大きな声でそう言い切った瞬間、アテナちゃんがララに抱きついた。

「ララちゃん! 私もいっぱいおしゃべりしたい‼」


「……え? アテナちゃんの言葉が……分かる、です……」

 そう。アテナちゃんはすでにきびだんごを食べていたのだ。ララが、あーだこーだ言っている間にね。


 でも何故なんだろうか? 可愛いものを前にすると、無性にからかいたくなる衝動に駆られる。俺はその衝動に負け、ララを試すような真似をしてしまっていた。正直めっちゃ楽しかったんだが。


「ララちゃん、ありがとっ!」

 アテナちゃんがそう言うと、再びララに抱きつく。

「う、うわぁ〜、ななな、何するですかっ!」


 君がいつも俺にやってることだよ〜。急に来られると、今みたいに焦るんだよ〜、普通は。

「私、ララちゃんと仲良くなりたい! いっぱいおしゃべりしたい! だからきびだんご、食べちゃった。テヘッ」


 おぉ〜、アテナちゃんの『テヘッ』は可愛いなぁ……。ティガの『てへっ』には反吐が出たけど。

「ララも……仲良くしたい、です」


 よーく言った、ララ! ララに同じ年代くらいの友達ができたみたいで、俺も嬉しいぞ。

「ねぇ、ララちゃん。年はいくつ?」


「ララは十二歳です。アテナちゃんは?」

「私は十八歳だよ!」

「「えぇーーー!?」」


「ど、どうしたの二人して?」

「いや、なんと言うか……、アテナちゃ、いや、アテナさんは、てっきりララと同じくらいかと思ってたもので……」


 俺よりも一個年上だったのかよ! 以後はアテナさん呼びで統一しよう……。

「ララより年上だったですね……。アテナ……お姉ちゃんって、呼んでいいですか?」

「もちろんだよ! 妹ができたみたいで、すごく嬉しい!」


 二人はすっかり意気投合し、俺たちのことなど見えていないかのように、二人の世界に浸っていた。

「二人が仲良くなってくれて俺も嬉しいです。話しができれば、ああやって種族の違いも関係無くなるという、一つの成功例を垣間見れた気がしますね」


「うぅむ……。何とも不可思議な力じゃのぉ。して、きびだんごの力には不都合などはないのか?」

「それなんですが……きびだんごを食べると、俺への忠誠心みたいなのが芽生える可能性があってですね……。食べさせる相手は慎重に考えないといけないかなぁとは思っています」


「……それを、儂の娘に食わせたのか……?」

「あ、あぁ~、そ、そうなんですけどね。でも、今回は、四分の一個なので、その分忠誠心は薄くなるんじゃないかなぁ……という仮定の下に食べてもらったんですが……やっぱマズかったですかね?」


「そういうことは先に言わんかーい‼」

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