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第23話 コネコのスープ

 翌朝——

 ララの「いつまで寝てるですかー、大将!」という大きな声で叩き起こされた。

 寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、他の皆はすでに身支度を整えていた。どうやら、朝寝坊をしてしまったようだ。


「あ、すみません。俺だけのんびり寝ちゃってたみたいで」

「構わんよ。昨日はいろいろあって疲れておったんじゃろう」

「桃太郎さん、朝食の準備ができていますので、よかったらお召し上がりください」


 アテナさんが用意してくれていたのは、コネコのスープだった。具材には人参とごぼうのような根菜が入っていた。

「ありがとうございます。いただきます」

 初めて食べるコボルトの料理。どんな味だろうかと期待しながら一口すすってみる。


 ——何とも言えない野性的な味がした。味付けは……皆無。薄いとかの問題じゃないぞ、これは……。

「どうじゃ、コネコのスープは?」


「あっ、お、美味しいです~」

「……嘘じゃな。正直に言うて良いぞ」

「やっぱり、お口に合いませんよねぇ……」

「い、いえ! これはこれで、独特な旨みがあって——」


「ぶー! マズいです~」

 俺が必死で世辞を並べていたのに、ララがその努力をぶち壊してきた。

「お、おいララ! そんなこと言っちゃ——」


「いいんじゃよ。儂らは毎日これを食っておるが、君たちの口には合わんのだろう」

「すみません……。正直言うと、そんなに美味しくはないですね。塩などの調味料はないんですか?」

「塩は、あいにく切らしていてな。この辺りでは、ほとんど手に入らんのじゃよ」


「そうでしたか。なら、なおさら人との交流を成功させなきゃですね! 塩は、命に関わる大事なものですから」

「うむ……たしかに。民の健康のためにも、儂も頑張らねばな!」

「はいっ!」




 朝食を済ませた俺たちは、テソーロへ向かうための準備に取りかかった。ふと、居間の片隅に置かれてあったものに目が留まる。

「アビフ様、この綺麗な石……もしかして魔含ですか?」


「うむ、そうじゃ。欲しいのなら持っていけ」

「えっ、いいんですか?」

「言ったじゃろ。儂らとってはただの石っころじゃと。そいつは、ひと際綺麗な輝きをしておったので、記念に取っておいただけじゃ」


 アビフ様の言う通り、その魔含は赤く綺麗な輝きを放っていた。大きさも、ダークウルフのものよりも明らかに大きかった。

「ちなみにこれは、どんな魔物の魔含だったんですか?」


「たしか……オーグルだったかのぉ。もう何年も前のことじゃから、詳しくは覚えておらんがな」

 オーグル——俺の頭の中で『大鬼』と訳された。


 この世界にも、鬼が存在するのか……。

「もしかしたら、これは交渉に使えるかもしれませんので、持って行ってもいいですか?」

「構わん。君に任せよう」




 準備が整い、俺とララ・ティガ・アビフ様・アテナさん、そして護衛としてボアーズとヤーキンも一緒にテソーロへと向かうことになった。

 道中、一匹のブラックホーンディアという魔物に遭遇した。

 漆黒の角を持つ鹿のような魔物だ。


 しかし、ボアーズとヤーキンの活躍で、一瞬にして討伐された。コボルト族の強さの片鱗を目の前で見せつけられた。

「わぁ……あっという間にやっつけちゃったよ。完璧な連携でしたね!」


 俺の素直な感想を聞いたボアーズが、少し照れたように鼻を鳴らす。

「ふん、これくらいの魔物、我とヤーキンの手にかかれば朝飯前だ」

「おいボアーズ。朝飯はさっき食ってしまったぞ!」


 あれ……このやりとり、どこかで見たような……。

「ま、まさに、阿吽の呼吸ですね!」

「意味はよくわからんが……まぁそんなところだ。我とヤーキンは兄弟だからな、言葉を交わさずとも通じ合えるのだ」


「ご兄弟だったんですか! 道理でよく似てる!」

「ほれ、これ要るか?」

 ボアーズが、さっきの魔物から取り出した魔含を差し出してきた。


「あぁ、助かります。これを換金したら、街で美味しいものでも買って、みんなで食べましょうね!」

「それは楽しみだ」



 その後の道中は、特に問題も起こらず、日が傾く前にテソーロの手前までたどり着いた。

「順調にここまで来れましたね。さすがに、いきなり皆さんを街に入れるのは難しいと思うので、まずは俺が一人でギルドへ行って話をしてきます。その間、ララを置いていくので、何かあれば通訳を頼むな」


「わかったです! 任せてくださいです!」

「では、行ってきますので、少しの間待っててください」

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