俺はギルドに入り、ベリアさんを探す。
いつもの受付にはいなかったため、ギルド内を見回すと、奥の方で誰かと話し込んでいる姿を見つけた。
声をかけようとしたが、相手は見知らぬ男性だった。しかも、何やら深刻そうな雰囲気が漂っている。
邪魔しないよう距離を取り、終わるのを待っていると、ベリアさんが俺の存在に気づく。
「あっ、桃太郎さん! 無事に戻ってきたんですね!」
「はい、何とか。すみません、お話中でしたよね?」
「ちょうどあなたのことを話していたんです! ご紹介しますね。こちら、ギルドマスターのガストンさんです」
「君が、桃くんか~。よろしくな~」
「よ、よろしくお願いします」
ガストンと名乗った男性は、筋肉隆々で背も高く、俺よりも何倍も強そうだ。頬に大きな傷跡があり、激しい戦いを生き抜いてきた猛者、という雰囲気が漂っている。
左腕には、銀色に輝く籠手を身に着けていた。そこには、伝説の生き物である、龍のような装飾が施されており、男心を惹かれる、何とも言えない格好良さがあった。
籠手もそうだが、これまでギルド内で見てきた冒険者とは違い、とても高級そうな身なりで整えられている。もしかして、ギルトマスターってのは、ここのお偉いさんだったりするのだろうか?
「ベリアから話は聞いているぞ~。初級冒険者の分際で、コボルト討伐の依頼を受けたとかなんとか~」
ガストンさんは終始にこやかな表情で話している……が、目は一切笑っていなかった。
これ、絶対怒ってるよな……。
「今まで何をしておったのかな~? 昨日から戻って来ていないと、ベリアが心配しとったんだぞ!」
「す、すみません。色々あって、遅くなりましたっ」
「一日以上帰って来なかったので、何かトラブルにでも巻き込まれんじゃないかと心配してたんです。依頼を受理した私にも責任がありますし……。でも、無事に帰って来てくれて、ホッとしました」
お察しの通り、問題事にはいろいろ巻き込まれまくってます……。
何にせよ、ベリアさんに心配してもらって嬉しい気持ちと、迷惑をかけたことを申し訳なく思う気持ちが入り乱れ、俺は複雑な心境になり、とにかく頭を下げまくった。
「もう大丈夫ですよ。また元気な顔を見れただけで十分です。冒険者の世界には、朝に挨拶した人と、夜には二度と会えない、なんてこともありますからね」
ベリアさんの言う通りだ。イーリス様の加護がなければ、俺だって既に二回は死んでいた。
「で、コボルト討伐の進捗状況はどうなんだ?」
ガストンさんが依頼の件を尋ねてきたので、俺はありのままを二人に説明した。
「実は、討伐依頼は中止しました」
「やはり初心者には無謀だったようだな」
「いえ、そうじゃないんです。実は——」
俺は、これまでの経緯を二人にかいつまんで話していく。
初めは、くだらない冗談だと失笑していたガストンさんも、熱心に語る俺の様子を見て、徐々にではあるが、真剣な表情に変わっていった。
「なんだ……その与太話は。にわかには信じがたいが……」
「ですよね〜。でも、全て本当の話です! 今もテソーロ近郊まで来ていまして、どうにかこの街のお偉いさんにこの話を——って、そういえばガストンさんって、この街の重鎮さんだったりします?」
その質問に、ベリアさんが答えてくれた。
「ええ、そうですよ。ガストンさんの本名は『ウィル・テソーロ・ガストン』。当ギルドの長であり、テソーロの領主様のご子息です!」
な、なんだってぇ~⁉ ご都合主義にも程があるだろっ!
でも、この機会を逃す手はない——
「でしたら話が早い! ぜひ、コボルト族との共存について話し合って頂けませんか⁉」
「ということは、私にもきびだんごとやらを食え、と君は言うのだな……」
「……はい。できれば、お願いします!」
俺はガストンさんの顔を真っ直ぐ見つめた。
ここで引くわけにはいかない!
「……わかった。その目を信じよう。ベリア、お前も食べるよな?」
「え? あ、あたしもですか⁉」
「成り行きだ! なっはっはー!」
「お二人とも……ありがとうございます!」
「あたしは、まだ食べるとは——」
アビフ様たちに食べてもらったきびだんごの残りを二人に手渡すと。ガストンさんは躊躇うことなく、それを口に入れた。
ベリアさんも、それを見届けてから意を決したように頬張った。
「美味いな!」
「うん、美味しい!」
「よかったです! 両親のお手製で、味には自信があるんです」
話し合いは、今夜零時、ガストンさんの屋敷で行われることになった。
騒ぎになると厄介なので、俺たちは夜の闇に紛れてテソーロの街へと入る手はずだ。
ガストンさんから、時間が正確に分かる懐中時計と、身を隠すための外套を人数分用意してもらった。
俺はそれらを持って、街外れで待機しているララたちの元へと戻ることにした。
「では、今夜またよろしくお願します」
「うむ、約束の時間に西門で待っている。くれぐれも慎重にな」
「はい!」