ガストンさんは、昔話を語り終えると、ゆっくりとアビフ様の元へ歩み寄った。
そして、目の前に跪き、ガントレットをつけた左腕を差し出す。
「アビフ殿……友の仇を討ってくれて、本当に感謝する。ありがとうございます!」
アビフ様は差し出された手を、ぐっと握り返し、力強く頷いた。
「儂らはただ、邪魔者を討っただけじゃ。だが、それがそなたの因縁相手だったのなら……まぁ、巡り合わせというやつじゃの」
そう言いながらも、アビフ様はガントレットにじっと目をやる。
「それよりも——」
「それよりも、どうされました?」
「このガントレットとやら、…めーっちゃ格好ええのう! この紋様とか、なんとも言えん味がある……う~ん、たまらんっ!」
コボルト族は装飾品が好きだ。特に、やんちゃ坊主たちが好みそうな、無骨ながらも技巧が光る装飾に目がないようだ。このガントレットには、それを満たす資格が十二分に備わっていた。
「こ、これはいかんぞ! 大事な友の形見であって——いや、もう俺が持っていても仕方ないものか……。そうだ、この魔含と物々交換するってのは、どうだろうか?」
「その話、乗った! そもそも魔含はお主にやると言ったものじゃ。それでもよいなら、ありがたくいただくぞ!」
「もちろんですとも!」
「にしても、人間どもはこんな石っころなんぞを一体何に使うんじゃ?」
アビフ様の素朴な問いかけに、ベリアさんが答えてくれた。
「魔含は、様々なマジックアイテムに使われる重要な素材です。先ほどご覧になったアイテムボックスやデュプリケーターなどにも、当然使われています」
なるほどそれで高値で買い取ってもらえるって訳か。合点がいった。
「にしてもアビフ殿! あんた良い趣味してるじゃねぇーか、気に入った! よかったら俺のコレクション、見ていくか?」
「コレクションとな! 是非見せて——」
「お父様ぁ~! 楽しそうで何よりですわ~。ですが、私たちはそんなことをしにここまで来たのではないのですよ~。当然、分かっておられますよねぇ~」
満面の笑顔でそう言い放つアテナさんからは、雷鳴のようなプレッシャーがピリピリと漂っていた。
「も、もちろんじゃよ。話が終わったら……、その~、ちょびっとだけ……寄り道程度に……」
「はぁ……仕方ありませんね。ガストン様にご迷惑をおかけしないでくださいよ」
そんな和やかなやり取りが続いていた矢先——
突然広間の扉が『ドンッ!』という大きな衝撃音と共に開いた。
眠っていたララも、その音に反応して飛び起きた。
「そこまでです、ガストン卿! 外患誘致の容疑で、あなたの身柄を拘束します!」
「な、なんだお前たちはっ⁉︎ 突然俺の屋敷に——ってまさか、お前ら近衛騎士団か⁉」
不意に現れた黒ずくめの者たちは、全部で五人。主格と思しき男を中心に、四人がガストンさんを取り囲む。
「ガストン卿。外患誘致は、重大な国家反逆罪です。大人しくしてください」
「国家反逆罪だぁ⁉ ……あぁ、そういうことか。この方々は——」
ガストンさんが説明を始めようとしたその時、主格の男が突然剣を抜いた。
「魔獣ども! 何を企んでいるか知らんが、ここで殲滅する!」
剣閃が走る。狙いはアビフ様——
「あ、危ない!」
気づけば、俺の体は勝手に動いていた。アビフ様を庇うように、間に割って入る。
「ゔぐぁっ‼」
「大将‼」「旦那ー‼」「桃太郎さん‼」
背中に激しい衝撃と共に、熱いものが流れ出すのを感じた。血だ……止まる気配がない。
「邪魔だ。そこをどけ!」
「な……なんでいきなり……斬りかかって……?」
「魔獣だぞ! 理由など不要だ‼」
「あ、あなた達は、一体、何者なん……ですか? お、俺たちは……、ただ話し合いを——」
「お前が魔獣を操っている者だったか! ふん、冥土の土産に教えてやろう。我が名はエスピア。近衛騎士団・密偵部隊長だ。地獄でアイリス様に詫びるがいい」
エスピア——その名を、俺は脳裏に刻む。
そして、意識が……すうっと、遠のいていった。