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第27話 物々交換

 ガストンさんは、昔話を語り終えると、ゆっくりとアビフ様の元へ歩み寄った。

 そして、目の前に跪き、ガントレットをつけた左腕を差し出す。

「アビフ殿……友の仇を討ってくれて、本当に感謝する。ありがとうございます!」

 アビフ様は差し出された手を、ぐっと握り返し、力強く頷いた。


「儂らはただ、邪魔者を討っただけじゃ。だが、それがそなたの因縁相手だったのなら……まぁ、巡り合わせというやつじゃの」

 そう言いながらも、アビフ様はガントレットにじっと目をやる。

「それよりも——」


「それよりも、どうされました?」

「このガントレットとやら、…めーっちゃ格好ええのう! この紋様とか、なんとも言えん味がある……う~ん、たまらんっ!」


 コボルト族は装飾品が好きだ。特に、やんちゃ坊主たちが好みそうな、無骨ながらも技巧が光る装飾に目がないようだ。このガントレットには、それを満たす資格が十二分に備わっていた。


「こ、これはいかんぞ! 大事な友の形見であって——いや、もう俺が持っていても仕方ないものか……。そうだ、この魔含と物々交換するってのは、どうだろうか?」

「その話、乗った! そもそも魔含はお主にやると言ったものじゃ。それでもよいなら、ありがたくいただくぞ!」


「もちろんですとも!」

「にしても、人間どもはこんな石っころなんぞを一体何に使うんじゃ?」

 アビフ様の素朴な問いかけに、ベリアさんが答えてくれた。


「魔含は、様々なマジックアイテムに使われる重要な素材です。先ほどご覧になったアイテムボックスやデュプリケーターなどにも、当然使われています」

 なるほどそれで高値で買い取ってもらえるって訳か。合点がいった。


「にしてもアビフ殿! あんた良い趣味してるじゃねぇーか、気に入った! よかったら俺のコレクション、見ていくか?」

「コレクションとな! 是非見せて——」


「お父様ぁ~! 楽しそうで何よりですわ~。ですが、私たちはそんなことをしにここまで来たのではないのですよ~。当然、分かっておられますよねぇ~」

 満面の笑顔でそう言い放つアテナさんからは、雷鳴のようなプレッシャーがピリピリと漂っていた。


「も、もちろんじゃよ。話が終わったら……、その~、ちょびっとだけ……寄り道程度に……」

「はぁ……仕方ありませんね。ガストン様にご迷惑をおかけしないでくださいよ」


 そんな和やかなやり取りが続いていた矢先——

 突然広間の扉が『ドンッ!』という大きな衝撃音と共に開いた。

 眠っていたララも、その音に反応して飛び起きた。


「そこまでです、ガストン卿! 外患誘致の容疑で、あなたの身柄を拘束します!」

「な、なんだお前たちはっ⁉︎ 突然俺の屋敷に——ってまさか、お前ら近衛騎士団か⁉」


 不意に現れた黒ずくめの者たちは、全部で五人。主格と思しき男を中心に、四人がガストンさんを取り囲む。

「ガストン卿。外患誘致は、重大な国家反逆罪です。大人しくしてください」


「国家反逆罪だぁ⁉ ……あぁ、そういうことか。この方々は——」

 ガストンさんが説明を始めようとしたその時、主格の男が突然剣を抜いた。

「魔獣ども! 何を企んでいるか知らんが、ここで殲滅する!」


 剣閃が走る。狙いはアビフ様——

「あ、危ない!」

 気づけば、俺の体は勝手に動いていた。アビフ様を庇うように、間に割って入る。


「ゔぐぁっ‼」

「大将‼」「旦那ー‼」「桃太郎さん‼」

 背中に激しい衝撃と共に、熱いものが流れ出すのを感じた。血だ……止まる気配がない。


「邪魔だ。そこをどけ!」

「な……なんでいきなり……斬りかかって……?」

「魔獣だぞ! 理由など不要だ‼」


「あ、あなた達は、一体、何者なん……ですか? お、俺たちは……、ただ話し合いを——」

「お前が魔獣を操っている者だったか! ふん、冥土の土産に教えてやろう。我が名はエスピア。近衛騎士団・密偵部隊長だ。地獄でアイリス様に詫びるがいい」


 エスピア——その名を、俺は脳裏に刻む。

 そして、意識が……すうっと、遠のいていった。

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