目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第28話 贈収賄現場

「——将? 大将! おーい、大将ーっ‼」

「うわぁ! な、何だよ、ララ⁉」

 ララが突然、俺の顔の前で大きく手を振ってきたので、思わず後ずさる。

「何だよ。じゃないですよ、大将! さっきからボーっとしっぱなしです。どうしたです?」


 それを聞き、ようやく数分前の記憶が蘇る——本当に、生きて戻ってきた……。

 今はどの地点だろう? まずは確認しないと。

「なぁララ、ちょっと変な質問かもしれないけど……俺、次に何する予定だったっけ?」


「……本当にどうしたです? 頭でも悪くなったですか?」

 そこは「頭でも打ったですか?」にしておこうね~。……まぁ、ララの疑問はもっともか。実際、こんな質問されたら誰だって戸惑うだろうし。


「今から大将がテソーロのギルドに行って、お話してきてくれるって予定だったですよ」

「あぁ……そうだったな」


 出戻り地点はここか。まずは予定通り、ギルドに行って、ガストンさんに話をつけてこよう。

「じゃあ、みんなはここで待っててくれ。夕方までには戻るからさ」

「うむ、承知した。儂らは吉報を待つことにしよう」

「では、行ってきます!」




 前回と同じようにギルドへ向かい、ガストンさんとベリアさんを探す。

 やっぱり——ふたりとも、前と同じ場所で話し込んでいた。

「あっ、桃太郎さん! 無事に戻ってきたんですね!」

「はい、何とか。すみません、お話中でしたよね?」


「ちょうどあなたのことを話していたんです! ご紹介しますね。こちら、ギルドマスターのガストンさんです」

「君が、桃くんか~。よろしくな~」

「よ、よろしくお願いします」


 会話の内容まで、前回とまったく同じ。不思議な感覚だ……。

 俺は前回同様、ガストンさんに事情を説明した。ただし、今回はあることを付け加える。

「ガストンさん、近衛騎士団のエスピアという方はご存じですか?」


「エスピア——あぁ、いつも暗い顔をしてる男がそんな名だったような……。そいつがどうかしたのか?」

 なるべく前回の出来事には触れずに、俺は話を進めた。


「はい。その方にも、話し合いの場に居ていただけたらと考えまして。騎士団のお偉いさんが加わってくれれば、交渉も捗るかと思いまして」

「なるほど……。ちょっと待ってな。ちょっくら探してきてやるよ」

「お願いします!」




 待つこと、一時間——

「おー、待たせてすまん。この時間は非番だったみたいで、探すのに手こずっちまった。彼が、近衛騎士団のエスピアだ」


「エスピアと申します。……あなたとは初対面のはずですが、なぜ私の名をご存じで?」

 つい数時間前に、あなたに殺されたんですよ~……なんて言える訳がなかった。

 今もその時のことを思い出し、背中がズキズキと疼いている。


「あぁ~、ええっと……何と言いますか……騎士団の中でも、特に情報通な方だとお聞きしまして……。テソーロの街の発展にご助力いただけるかと期待して、お声をかけました」


 我ながら、よくもこんな饒舌に嘘を重ねられるもんだ……。そんな自分に少し嫌気がさした。

「なるほど、そういうことでしたか。話はガストン卿から伺っております。大変興味深い内容でした。では、例のものを頂きましょうか」


 例のものって……ああ、賄賂か。どこの世界でも、政治的なことには賄賂が必要なんだな……。

 コボルトたちはジャバリの骨なんかで喜んでもらえたけど、ここはやっぱりお金だろうな——


「あの~、今はこれだけしかないんですが……足りますかね?」

「……なんのおつもりですか? 私を密偵部隊長と知っての所業ですか?」

 うわっ、足りなかったか⁉ 先にブラックホーンディアの魔含を換金しておくんだった……。


「これは立派な贈収賄現場です。この場で斬り刻まれたいのですか?」

「あー、待て待てエスピア! ギルド内での争いごとは禁忌だぜ。桃くんは、何か勘違いをしておるようだな。エスピアが言っているのは、そんなはした金じゃなくて、君の臓器をいくつか——」


 ひぃぃぃー! この世界にはそんな恐ろしい規律があんのかよ……。

 たしか腎臓って、一個なくなっても生きていけるとか聞いたことが——


「なに悪ふざけを言っているんですか、ガストンさん‼ 桃太郎さんが本気にして、ブルブル震えてちゃってるじゃないですか! 桃太郎さんも、ちょっとは考えて下さい! エスピアさんが言っているのは、きびだんごのことでしょうに……全く」


「「す、すみません」」

 ベリアさんに、鬼の形相で怒られた俺とガストンさんは、深々と頭を下げた。

 なぜか隣のエスピアさんまで、バツが悪そうに俺たちに倣って頭を下げた。


「そうでしたね……。では、ご賞味ください。味には自信がありますので」

 ガストンさんが「美味いな!」と笑顔でほおばるのを見て、エスピアさんもようやく、きびだんごを口にしてくれた

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?