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第45話 きびだんごもどき

 屋敷に着くと、一足先に戻っていたララが、元気よくお菓子をバリボリ食べていた。

「あ、大将! おかえりなさいでーす」


「ただいま。元気そうでなによりだよ……あはは」

 切り替えの早さに驚きつつ、普段通りに接してくれているララの姿にホッとさせられた。


「おかえり、太郎。おやつ食べるかい?」

「チャットさん、ありがとうございます。これからきびだんごの複製に取りかからないと、懇親会までに間に合わないかもなので、またあとでいただきますね」


「あぁ、もうそんな時間か。僕もそろそろキッチンに戻らないと。今日はバイキングだから、これからちょっと忙しくなるんだ」

「バイキング?」


「今日の懇親会は、立食パーティー形式でって、ガストンさんからの依頼なんだ。たくさんの料理を、好きなだけ選んで食べれるからね。太郎もララも、楽しみにしておいて!」


「わーい、いっぱいたべるです~」

 お菓子を目一杯頬張りながら、そう宣言するララだった。

 そういえば、ララと出会ってから一週間ほどが経った。


 初めて会った時は、ろくに食べ物を食べれていなかったこともあり、瘦せこけていた。

 だがここ最近は、チャットさんの作る美味しい料理を、好き放題食べている。


 ララ……ちょっと太ったんじゃね?

 いや、これを口にすれば、絶対に「大将~、レディに向かって『太った?』は禁句です~」とか言われるに違いない!


「大将が食べないんなら、ララが残りも全部——」

「ダメ! さすがに食べ過ぎだろ? そんなんじゃ、ふとっ——」

「ふと……なんですか?」


「ふと? あ~、ふと……えーっと、あ、そうそう! そんなに食べたら、太っ腹なチャットさんも、驚いちゃうよ~、なんて」

 ララの爆発した食欲を止めるため、ついあの禁句を発しそうになり、思わず冷や汗をかいた。


「チャットは太っ腹じゃないですよ。腹筋バキバキ細マッチョさんですから!」

「そ……そうなんだ、へ、へぇ~(ちょ、ちょっと見てみたい……かも)」

「ふふっ。じゃ、二人とも、きびだんごの複製、上手くいくことを祈ってるよ!」

 ニッコリ笑い、手を振りながらその場を去っていくチャットさんだった。




 俺とガストンさんは、キッチンの横にある従者専用の食堂に来ていた。

 ララは、お菓子をたいらげたあと、満足そうにその場でこてんと寝落ちしてしまった。


 やはり、今日はいろいろな感情が渦巻いた一日だったのだろう。

 そっと抱き上げてベッドへ運び、そのまま寝かせてやることにした。


「では、作っていきましょうか」

「おう。んじゃあ、デュプリケーターを起動させるぞ!」

 ガストンさんは、機械の側面にある小さな穴へ、紫色に淡く光る結晶のようなものを差し込んだ。


「それは、なんです?」

「これは、燃料用の魔含だ。これを入れないと起動しない」

 マジックアイテムに魔含が使われているとは聞いていたが、起動にまで使うとは思っていなかった。あらためてこの世界の技術は、俺の常識じゃ測れないな。


 ガストンさんは、先ほど作った団子と、きびだんごを容器に入れ、慎重にデュプリケーターにセットした。手慣れた動作で蓋を閉めると、側面にある取っ手をガシッと握り、勢いよく引き下ろす。


「デュプリケーター、スイッチオン!」

(シュイイイイイイイイィン‼)

 けたたましい音が、食堂全体に響き渡った。耳を塞ぎながら、俺は不安と期待がないまぜになった心で、機械の動作を見守る。


 数十秒後——

 雷鳴のような騒音が止んだかと思うと、今度はなんとも拍子抜けな(シュ~、ポンッ)という、可愛らしい音が発せられた。


「よぉし、出来たみたいだな」

「せ、成功……ですか?」

「……おそらく——な」


「おそらくって……どういう意味です?」

 ガストンさんは腕を組み、眉をしかめた。

「そもそもなんだがよぉ……俺たちはもうきびだんごを食ってるから、その効果があるって分かってるだろ?」


「そう……ですね」

「んで、この複製されたきびだんごもどきが、ちゃんと効果があるかを、どうやって試すんだ……って話だよ」


「そっか……。確かに、コボルトの皆さんがいない今、確認のしようがないですね」

 完全に盲点だった。作ることばかりに気を取られ、肝心の効果確認のことをすっかり忘れていた。


 どうしたものかと考えあぐねていると、ガストンさんがポンと手を打った。

「おっ、そうだ! 良いこと思いついたぜ!」

「なんです? 良いことって?」


「ペットのオウムがいるんだよ! そいつにこれを食わせてみるってのはどうだ?」

「なるほど……。そのオウムってのと会話ができたら、効果の証明になりますね!」

「だろ? ちょっと待ってな、すぐケージ持ってくる」


 ガストンさんは、食堂を飛び出し、オウムとかいう鳥の入った籠を取りに向かった。

 問題なく、きびだんごの複製が成功していれば、オウムが言葉を話し始める。


 もしこれが失敗だったら、全てが台無しだ……。

 ガストンさんの戻りを待つ間、心臓の高鳴りが抑えられなかった。


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