屋敷に着くと、一足先に戻っていたララが、元気よくお菓子をバリボリ食べていた。
「あ、大将! おかえりなさいでーす」
「ただいま。元気そうでなによりだよ……あはは」
切り替えの早さに驚きつつ、普段通りに接してくれているララの姿にホッとさせられた。
「おかえり、太郎。おやつ食べるかい?」
「チャットさん、ありがとうございます。これからきびだんごの複製に取りかからないと、懇親会までに間に合わないかもなので、またあとでいただきますね」
「あぁ、もうそんな時間か。僕もそろそろキッチンに戻らないと。今日はバイキングだから、これからちょっと忙しくなるんだ」
「バイキング?」
「今日の懇親会は、立食パーティー形式でって、ガストンさんからの依頼なんだ。たくさんの料理を、好きなだけ選んで食べれるからね。太郎もララも、楽しみにしておいて!」
「わーい、いっぱいたべるです~」
お菓子を目一杯頬張りながら、そう宣言するララだった。
そういえば、ララと出会ってから一週間ほどが経った。
初めて会った時は、ろくに食べ物を食べれていなかったこともあり、瘦せこけていた。
だがここ最近は、チャットさんの作る美味しい料理を、好き放題食べている。
ララ……ちょっと太ったんじゃね?
いや、これを口にすれば、絶対に「大将~、レディに向かって『太った?』は禁句です~」とか言われるに違いない!
「大将が食べないんなら、ララが残りも全部——」
「ダメ! さすがに食べ過ぎだろ? そんなんじゃ、ふとっ——」
「ふと……なんですか?」
「ふと? あ~、ふと……えーっと、あ、そうそう! そんなに食べたら、太っ腹なチャットさんも、驚いちゃうよ~、なんて」
ララの爆発した食欲を止めるため、ついあの禁句を発しそうになり、思わず冷や汗をかいた。
「チャットは太っ腹じゃないですよ。腹筋バキバキ細マッチョさんですから!」
「そ……そうなんだ、へ、へぇ~(ちょ、ちょっと見てみたい……かも)」
「ふふっ。じゃ、二人とも、きびだんごの複製、上手くいくことを祈ってるよ!」
ニッコリ笑い、手を振りながらその場を去っていくチャットさんだった。
俺とガストンさんは、キッチンの横にある従者専用の食堂に来ていた。
ララは、お菓子をたいらげたあと、満足そうにその場でこてんと寝落ちしてしまった。
やはり、今日はいろいろな感情が渦巻いた一日だったのだろう。
そっと抱き上げてベッドへ運び、そのまま寝かせてやることにした。
「では、作っていきましょうか」
「おう。んじゃあ、デュプリケーターを起動させるぞ!」
ガストンさんは、機械の側面にある小さな穴へ、紫色に淡く光る結晶のようなものを差し込んだ。
「それは、なんです?」
「これは、燃料用の魔含だ。これを入れないと起動しない」
マジックアイテムに魔含が使われているとは聞いていたが、起動にまで使うとは思っていなかった。あらためてこの世界の技術は、俺の常識じゃ測れないな。
ガストンさんは、先ほど作った団子と、きびだんごを容器に入れ、慎重にデュプリケーターにセットした。手慣れた動作で蓋を閉めると、側面にある取っ手をガシッと握り、勢いよく引き下ろす。
「デュプリケーター、スイッチオン!」
(シュイイイイイイイイィン‼)
けたたましい音が、食堂全体に響き渡った。耳を塞ぎながら、俺は不安と期待がないまぜになった心で、機械の動作を見守る。
数十秒後——
雷鳴のような騒音が止んだかと思うと、今度はなんとも拍子抜けな(シュ~、ポンッ)という、可愛らしい音が発せられた。
「よぉし、出来たみたいだな」
「せ、成功……ですか?」
「……おそらく——な」
「おそらくって……どういう意味です?」
ガストンさんは腕を組み、眉をしかめた。
「そもそもなんだがよぉ……俺たちはもうきびだんごを食ってるから、その効果があるって分かってるだろ?」
「そう……ですね」
「んで、この複製されたきびだんごもどきが、ちゃんと効果があるかを、どうやって試すんだ……って話だよ」
「そっか……。確かに、コボルトの皆さんがいない今、確認のしようがないですね」
完全に盲点だった。作ることばかりに気を取られ、肝心の効果確認のことをすっかり忘れていた。
どうしたものかと考えあぐねていると、ガストンさんがポンと手を打った。
「おっ、そうだ! 良いこと思いついたぜ!」
「なんです? 良いことって?」
「ペットのオウムがいるんだよ! そいつにこれを食わせてみるってのはどうだ?」
「なるほど……。そのオウムってのと会話ができたら、効果の証明になりますね!」
「だろ? ちょっと待ってな、すぐケージ持ってくる」
ガストンさんは、食堂を飛び出し、オウムとかいう鳥の入った籠を取りに向かった。
問題なく、きびだんごの複製が成功していれば、オウムが言葉を話し始める。
もしこれが失敗だったら、全てが台無しだ……。
ガストンさんの戻りを待つ間、心臓の高鳴りが抑えられなかった。