翌朝——
昨夜あれだけどんちゃん騒ぎしていたにもかかわらず、冒険者たちは全員、きりりとした表情で作戦会議に臨んでいた。
やはり、経験豊富な猛者たちは切り替えが違う……俺なんかとは、経験の差が違いすぎるな。
「みんな、おはよう。体調は問題ないか?」
そう声をかけると、アビフ様がどこか不満げな顔で応じた。
「……わしはちぃと眠いが、体調自体は問題ない」
「おや? 飲み過ぎましたかな、アビフ殿?」
「違うわいっ! お主が預かってくれと言って押し付けてきよった、そこの鳥のせいじゃ! 夜通し喋りおって、わしはろくに眠れんかったんじゃよ!」
ガストンさんは、偵察係としてヴェルディを連れてきていた。
冒険者たちと同じ宿舎に置いておくと、屋敷内でのアレコレを、冒険者たちに暴露される危険があるということで、アビフ様の家に置かせてもらっていたらしい。
「あれやこれや、延々と喋っておったぞ。お主……いい年して母親のことを『マミー』と呼んでいるらしいな?」
「なっ……⁉ ヴェルディ、てめぇ!」
『マミー、アイシテルヨー』
からかうように、ガストンさんの頭上を旋回しながら、完璧な声真似を披露するヴェルディ。
思わぬ形で日常の恥部を暴露され、タジタジになるガストンさん。その様子に、場が一気に和んだ。
冒険者たちから笑いが起き、俺もつい吹き出してしまう。
緊張した空気が一気に緩んだ。
……ありがとう、ガストンさんのマミーさん!
作戦会議では、事前に偵察してくれていたコボルトの情報が共有された。
ここから北東、テソーロから見て北西の森の深部で、多くの魔物の発生が確認されているらしい。
討伐作戦は、三班に分かれて行われることになった。
一つ目の班は、森の東側から北上。紅蓮の翼をリーダーに、冒険者二十名、近衛騎士団五名、コボルト十匹が編成された。
二つ目の班は、北側から東進。エスピアさんが率い、同じく冒険者二十名、近衛騎士団五名、コボルト十匹が加わる。
そして三つ目、俺が所属する班は、目的地へと直線距離で進む。リーダーはガストンさん。
こちらは風の大地の三人と、アビフ様をはじめとするコボルト部隊二十二匹、それに救護係のメリッサさんとオリザさんも同行してくれるとのこと。安心感が段違いだ。正直、痛いのだけは勘弁してほしいからな……。
ヴェルディには、空から全体の動きを監視してもらう。三班のどこかで異常があれば、最も近い班に即座に知らせるという、大事な役目だ。
普段はただのおしゃべり鳥だけど……今のヴェルディの表情は真剣そのものだった。
「いいか、ヴェルディ。もし何か起きたら、すぐ伝えるんだ。お前だけができる任務だ。頼んだぞ!」
『おうよ、任された!』
出発前、ララとアテナさんが見送りに来てくれた。
「やっぱり、ララも付いて行くです~!」
「ダメよ、ララちゃん。私たちは、みんなの無事をここで祈ってましょうね」
「ぶー……」
「ふふっ、可愛いボアちゃんね。では皆様、ご武運をお祈り申し上げます。アイリス様のご加護があらんことを……」
アテナさんから、はなむけの言葉を送られたその時——どこからともなく、黒い影が彼女の目の前に現れ、膝をつくように頭を垂れた。
「貴女様の御心のままに……」
影の正体は、エスピアさんだった。
「……おい、ボアーズあやつをヤレ」
「はっ!」
ボアーズが、エスピアさんに斬りかかろうとするのを、俺とガストンさんが身を呈して防ぐ。
「あー、ダメダメー! 魔物と戦う前に、味方同士で血を流し合ってどうするんですか⁉」
「我は、族長の意のままにに動くのみ……」
「命令だからって、仲間を傷つけようなんて考えないで下さい!」
「す、すまぬ……」
「アビフ様! エスピアさんも‼ ちょっとは場をわきまえて下さい!」
「だって、きゃつが……」
「悪かった……アテナさんが美しすぎて、つい……」
「
俺が必死で場を収めていると、隣でガストンさんが楽しそうに大笑いしていた。
「なっはっはー! いいじゃねぇか、桃くん。ちゃんとリーダーしてるじゃねぇか。なっはっはー!」
——共闘作戦、開始前から前途多難だ。