疲れていたのだろう。横になるなり、すぐさま夢の中へといざなわれた。
「ご苦労様でした、桃太郎さん」
ふと、懐かしい声が耳に届く。周囲を見回すと、そこには優しい笑みを浮かべた女神が立っていた。
「イ、イーリス様⁉ お、お久しぶりです!」
「お久しぶりですね。あちらの世界での暮らしは、いかがですか?」
「いやぁ~、ほんと、毎日が初めてのことばっかで、てんやわんやです」
「ふふっ。でも、順調にあなたの望む世界に近づいているのでは?」
「そう……だといいんですけど。正直、よく分かりません」
「私の目には、あなたの想いが人々に届き、より良い未来へと向かっているように見えます。これからも精進してくださいね」
イーリスに褒められ、なんだかむず痒くなる。
「そう言っていただけると、頑張ってきた甲斐があります。本当に、イーリス様のご加護あってのことです。ありがとうございます!」
「いえいえ。それでは、またどこかでお会いしましょう——」
「あっ、ちょっと待ってください!」
別れを告げようとするイーリスを慌てて引き留めた。思い出したのだ。もしまた会えたら、どうしても聞きたかったことがあったことを。
「どうしました?」
「あの~。ちょっと質問があるんですけど……」
「お答えできることなら」
「エリクサーって……どうやって作るんですか?」
「……それはお答えできません。申し訳ありません」
「あ、あぁ~、こちらこそ、変なこと聞いてすみません。その……あまりに美味しかったので、どうにか味を再現したくて……」
イーリスは、考えもしなかった角度からの質問に、思わず吹き出した。
「味……ですか? ふふふっ。あなたは本当に面白い人ですね! まさか、その効果ではなく味に価値を見出すとは……」
「そりゃ~、あの効果を再現できたら最高なんですが、それはちょっと高望みが過ぎるかなぁと。……そういえば今さらだけど、なんで魔物にエリクサーをかけたら、倒せたんだろ?」
「エリクサーには、元の姿に戻すという効果があります。ティガさんに使ったときのことを思い出してください。彼は体に損傷を抱えていましたが、飲んだことで元通りに回復しましたね?」
「あぁ、たしかに!」
「魔物というのは、死した肉体に瘴気が宿って実体化したもの。そこにエリクサーをかけると、瘴気が取り除かれて、ただの朽ちた肉体へと戻るのです。その結果、魔物の姿が保てなくなり、消滅する……というわけです」
「言われてみれば、エリクサーを浴びた所から、急に骨が見え始めたっけか。合点がいきました」
「それで、エリクサーの味付けですが、それはわりと簡単です。地上の材料でも再現できると思いますよ。教えましょうか?」
「本当ですか⁉ いつもいつも、ありがとうございます!」
「いえいえ、これくらいは大したことありませんので」
「ん? そういえば……髪切りました?」
そう尋ねると、イーリスは後れ毛をいじりながら、少し照れたように微笑んだ。
「き……気づきました? ちょっと切り過ぎちゃったかなぁ~って思ってるんですけど……」
「いえいえ、前の髪型も素敵でしたが、今のもよく似合っていますよ! なんてったって、元がいいですからね!」
「んもぉ~っ! 桃太郎さんったらぁ~‼ 本当は渡そうか迷ってたんですけど……やっぱり、これを差し上げます! はい、どうぞっ」
すっかり機嫌をよくしたイーリスが、何かを手渡してくる。
「これは?」
「あなたのお母様が作った、きびだんごの効果を模したキャンディーです」
「ってことは、これを食べた人たちとは……!」
「お話できますよ。まだ試作品ですが、効果は期待できるはずです」
「イーリス様……最高過ぎますね! ちょうど、きびだんごも無くなってきたので、これからどうしようかと思っていたんです!」
「数は百個程度しかありませんから、これに頼り切るのではなく、今後は教育が必要でしょうね」
「教育……つまり、学校を作るってことですか?」
「ええ。共通語を教え合い、理解し合う土壌を育てる。そういう場が必要になってくるでしょう」
「わかりました。それも踏まえて、これからの行動を考えていきます!」
「はい、頑張ってください。キャンディーとエリクサー味のレシピは、アイテムボックスに入れておきました。これからも、たくさんの楽しい物語を紡いでくださいね……それでは、おやすみなさい——」