豪華な昼食だった。チャットさんの食事も最高だったが、領主邸で振る舞われた料理は料理は、どれもが一級品。庶民の俺でも、それと分かる品ばかりだった。
昼食を終えた俺は、とある人物のもとを訪ねる。
「こんにちは、アントニーさん!」
「おお! 久しぶりじゃな。最近、さっぱり顔を見せんから心配しておったぞ。元気そうでなによりじゃ」
「ご心配ありがとうございます。ギルドのクエストに参加してたもので」
「聞いとるぞ! 領主様から褒美が出るとかいう話じゃないか」
「えっ、早いですね……もうそこまで伝わってるんですか」
「ゴシップなら、風より速いスピードで街中を駆け巡るぞい、がっはっはー!」
どうやら今回の件で、俺も少しは街の中で知られた存在になりそうだ。……今後は、ララの爆弾発言にはくれぐれも注意しなきゃだ。ここへ初めて来たときのような発言をまたされたら、目も当てられない……。
「それで、今日もひとっ風呂浴びていくか?」
「そうしたいのはやまやまなんですが、今日はお願いがあって来ました」
「ほぉ。わしに頼み事とな……はて、なんじゃろうか?」
「コボルト族が街に来ているのはご存じですか?」
「ああ。あれにはさすがに驚いたのぉ」
「ですよね……。俺としては、今後コボルトの皆さんにも、このテソーロの一員として暮らしていけるようにしたいと考えています」
俺の言葉を聞いたアントニーさんは、腕を組み、しばし思案に沈んだ。
「ふむ……。志は立派じゃ。だがしかし、今日明日でどうこうなる話ではなかろう」
「承知しています。そこで共存への第一歩として、屋台街にコボルトたちのお店を出してもらう案を、領主様に提案しまして。条件付きではありますが、なんとか許可をいただきました!」
「魔獣——いや、失礼。コボルトたちが店を出す……前代未聞じゃな」
「ですね。それで、その条件を満たすために、アントニーさんのお力をお借りしたいと思いまして」
「わしにできることが、そんな仰天計画の中にあるんかのぉ……?」
俺は単刀直入に、要件を告げた。
「コボルト専用のバーニョを作っていただけませんか!」
「コボルト……専用バーニョじゃとぉぉぉぉ⁉」
アントニーの目がまん丸になり、思いきりのけぞった。
俺は深々と頭を下げ、そしてゆっくりと顔を上げて、彼の反応を窺う。
「ふむふむ……専用とは考えたな。初めは抵抗を示す者も多かろうし、衛生面も考えると、やはり分けるのが妥当か……。ならばいっそ、専用施設を新設して——」
どうやら商売人の血が騒ぎ出したらしい。アントニーさんはぶつぶつと独り言をつぶやきながら、頭の中で何かを計算し始めた。
「ところで桃太郎くん、コボルトたちは今、何頭くらいおるんじゃ?」
「今のところ八十頭くらいだと聞いています」
「八十か……ちと少ないのぉ」
「やっぱり難しいですかね……?」
「そうじゃなぁ~。専用となると、多少は料金を上げさせてもらうことになるかもしれん。もちろん、法外な額にはせんよ。君からの頼みじゃしな」
「その点は理解しています。アントニーさんに損をさせてしまっては、元も子もありませんので」
「桃太郎くん……君というやつは——よし、決めたぞ! コボルト専用バーニョを作ろうじゃないか‼」
「ほんとですか⁉ ありがとうございます!」
嬉しさのあまり、思わずアントニーさんに抱きついてしまう。彼は苦笑しながらも、肩を軽く叩いてくれた。
「他ならぬ、桃太郎くんの頼み事じゃ。無下にはできんよ」
「そうなんですか?」
「なんてったって、君が教えてくれた塩風呂のおかげで……めっちゃ儲かっとるからのぉ! がっはっはー」
あ、そゆこと。つまり、利益還元的な感じなのね……。
なんにせよ、これで衛生面に関する条件は解決できそうだ。よし、領主邸に戻って、みんなに報告しよう!