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第2話 「僕はね、幼い時に不慮の事故で昶に呪われたんですよ」

「あああああああああ!」

「うわあ……」


 露骨に嫌な顔をする黒髪のウルフカットの男子生徒。正反対に私は指をさして大声を上げていた。


「昶、いつ会った?」

「いつって……はあ、今朝。人が喧嘩してるところに余計な水差してきたんだよ。この馬鹿女」

「なっ、馬鹿⁉」


 く、口悪い~~~なにこいつ。え、本当に何この人。4人に囲まれてるところを止めに……入ったわけではないけれど、結果的に止めたのに。なに?なに???


「お前、また喧嘩したのか。つーことは、また解呪が必要じゃねーか」

「いらねーだろ、一生呪われてろ」


 悪態を付く黒髪の青年の横でにこにことしていた銀髪の青年が少し楽し気に提案をする。


「いやいや、せっかく新しい光属性の子が来たんだし、存分に実験台になってもらいましょう。ですよね?学園長」


 そんな銀髪の青年の言葉に学園長さんは額を押さえながら大きなため息をついた。そして、学園長さんは窓をバッ、と開けて胸ポケットから紙煙草を取り出し、手慣れた様子で火をつけてそれを咥えるのだった。


「そう、臣の言う通り。新しい光属性の生徒だ。天ヶ瀬瑠衣。お前ら自己紹介しろ」


 すると、先に一歩前に出たのは銀髪の青年だった。


「初めまして、僕は樋木崎ひきざき おみ。学年は2年、属性は光と闇の二重属性……同じ稀少属性同士、仲良くしてくれると嬉しいです。ほら、昶も自己紹介」


 そう、臣と名乗った青年に促されて黒髪の青年はうんざりとしながら口を開く。


「……2年、鷹羽たかば あきら。闇」


 うわ、臣さんと違って死ぬほど不愛想。えー、仲良くやっていける気がしないよー。というか、闇属性なの納得。凄く陰キャぽいもんね!


「稀少属性は基本、俺。学園長の元で授業や鍛錬を行うことになる。そして、国からの要請があればこのままチームとしてダンジョンに潜ることになる。くれぐれも仲違いはするなよ」


 もうすでにしそうなんですけど!


「で、天ヶ瀬。早速だが鍛錬だ」

「へ?」


 え、え、なにそのチュートリアル終わったからいきなり実践だ、みたいなの。スマホゲー?でよくあるやつだよね。


「臣の呪いを解呪してくれないか?」

「臣……さんの……?」


 臣さんをちらり、と見る。別に酷く呪われている、みたいな気配は正直ない。そりゃ多少は靄みたいなのが見えなくもないが、それは本人が闇属性持ちだから……じゃないの?


「できんのかよ、見るからにド素人じゃねーか」

「でも、僕は自身の解呪はできないですから。昶が呪いを解きたいなら、天ヶ瀬さんに頼るしかないですよ」


 臣さんの言葉に昶さんがジトッ、とした目で私を見てくる。なんでこんなに嫌われてるのさー。


「で、でも、臣さん呪われてる気配、あまりなくないです……?靄は見えますけど、それは本人が闇属性持ちだからですよね?」


 私のその指摘に声を上げたのは学園長さんだった。


「ほう、呪いが可視化できてるのか。将来有望だな」

「ですね。これなら本当に僕の呪いを解いちゃうかもしれないです」


 臣さんと学園長さんがそんな和やかな雰囲気で会話をする。そして、臣さんが今度は私に近づいてきて優しく手を取って言うのだ。


「僕はね、幼い時に不慮の事故で昶に呪われたんですよ」

「昶、さんに……?」


 昶さんを伺いみれば罰の悪そうな表情を浮かべている。


「本当に不慮の事故でね。それ以来、僕は昶に生命力を分けてもらわないとすぐ死ぬ、そんな体になってしまったんです」

「え、でも、昶さん闇属性ですよね?」


 生命力の受け渡し、それこそ光属性の何段階か覚醒をした人間にしかできない高等技術だ。それを、闇属性の昶さんが……?私の戸惑いに今度は学園長さんが声を上げる。


「例外がある。闇属性の呪いは支配と言い換えてもいい、その呪った側が呪われた側の延命を望むなら自分の体の一部として生命力を循環させることができる」

「そんな方法があったんですね」

「まあ、生命力譲渡の方法はかなりエグいんですけどね」

「エグ……?」

「平たく言えば性行為だ」

「せ……」


 学園長さんの言葉に頭の中が止まる。え、え。


「せ……せ……せ」

「SEX」

「ふぎゃああああああああああああ」


 昶さんの意地の悪い発音のいい下ネタに私は思わず大声を上げるのだった。せ、せ、セクハラ!セクハラ‼


「昶」


 臣さんがつまようじサイズぐらいの光の短剣を飛ばす。それを器用に避けた昶さんはにやにやと私をからかうような最低な笑みを浮かべ、はあ、とどこか遠いところを見て大きなため息を一回零した。


「可哀そうだろ?流石に。いくら好きな人間とでもそういうことをしたくねーときもある、でも、そう言うのを全て取っ払ってしなくちゃ死ぬ」


 そう言われれば同情しなくはない。異性同士でもしたくないときもあるし、そもそも男同士でってなると心理的負担も凄いだろう。でも、それを投げ出さずに行う昶さんも臣さんもお互いのことが大事なんだろうなっていうのは薄々と伝わって。

 あー、あー、心が同情しちゃう。そんなの解いてあげたいに決まっている。でも、でも……。


「あの、私、まだ未覚醒で……解呪、条件が付いてるんです」


 そう。未覚醒。故に、私の使えるスキルにはまだ条件がついてしまう。


「ちなみにその条件って言うのは?」


 臣さんの問いかけに、私は目を逸らしながら言う。


「相手と仲がいいこと、です。仲がいいなんて数値化できない曖昧な条件で本当にすみません。でも、できないんです……」


 呪いを解いてあげたくない訳ではない。解けないのだ。できないことはできない、これを解決するにはさっさと覚醒するしかないけど、覚醒だってそうホイホイできるものではない。つまり、今の私は———。


「うわ、役に立たねー。仲が良くなきゃ解呪できません、とかほんとに」

「昶、強く言わない」


 昶さんの言う通りである。役立たず。折角の光属性もこんなんではただの足手まとい。私が痛くなる胃を右手で押さえて俯けば、学園長さんの声が降り注いだ。


「じゃあ、仲良くなればいいじゃねーか。3人だけの同クラで、3人だけのパーティーメンバーだぞ。仲良くねー方が困るわ」


 ふ、学園長さんが煙を吐いたのか微かに煙草の香りが漂って。私がおずおずと顔を上げれば、目の前の臣さんと目が合った。すると、臣さんはウィンクをして言うのだ。


「学園長の言う通りですね。3人しかいないクラスメイトです、仲良くしましょう。僕たちのこともさん付けじゃなくて大丈夫ですよ」

「え、え、……じゃあ、臣くん?」

「はい、瑠衣ちゃん」


 その温かみは今の私の心に染みて。思わず、薄い涙の膜を浮かべていれば、臣くんがソッ、と私に近づいて耳打ちする。


「大丈夫です。昶も態度はあんなんですが、ちゃんと接せば普通に接してくれますよ」


 ほんとに?と、思わなくはないけど……そういうことができるぐらいの関係性の臣くんが言うのなら間違いないのだろう。私は、新しい環境に胸をドキドキと高鳴らせながら、はい、と小声で笑うのだった。




 その日は臣くんと昶くんと学園長さんに学園内を案内されて終了となった。

 学園の中に学生寮と言うものはなく、学生が個々人で敷地内に好きなマンションやアパートを借りるという風になっているらしい。ちなみにお金はダンジョンで稼ぐ。とにもかくにダンジョン。

 今、私は学費におまけでついてくる最初期設備のちょっとボロいアパートでキャミソール姿でベッドに寝そべっていた。


「性行為をしないと死ぬ呪いか……」


 臣くんのことを思い浮かべる、自分がかかったらどんな気持ちになっていただろうか、それを解呪のためとはいえ明かすことも心理的負担が凄いだろう。……なのに、臣くんはあっけからんと言うのだ。


「でも、この学園に来て初めてできた友達だもん、解いてあげたい」


 ついでに解呪できるぐらい仲良くなりたい。そんなことを決意しながら私の一日は終わっていくのであった。



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