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第5話 「光の剣!」

 休憩明け。休憩前で解呪回りは済んだので、休憩後はダンジョン攻略学部・普通属性科の実践訓練の保健係だ。実践訓練は実際にダンジョンから捕獲してきたモンスターを使って行う。その為怪我人も出るため稀少属性(光)組は怪我人を使ったヒールの実践だ。あ、ちなみに稀少属性(闇)組は取りこぼされたモンスターの駆除係である。低階層モンスターなら昶くんの一声で潰せてしまうからだ。


「いでええええええええええええええええええええええ樋木崎ィィィイイイイ!」

「はいはい、生きてる証拠ですね~」


 どうやら臣くんのヒールは解呪じゃなくても激痛なようで。みんな臣くんにヒールされたくない一心で引き際を見極めている。

 ちなみに、私もヒールはできる。だけど、臣くんみたいに飛ばされた腕一本生やすとかはできずに、骨折なんかを元に戻すぐらいだ。なので、此処でも経験値を積まさせてもらっている。のだが……。


「ほえぇ……」

「んぎもぢぃ……」

「おっ、おほぉぉお……」


 なんか私がヒールした人たちみんな気持ち悪い感じになっていってる!え、え、キモい!しかも、なにがヤバいって恍惚としながらモンスターに突っ込んで行くせいでまた怪我をして帰ってくるのだ!


「あ、じゃあ、僕がやりまーす」


 そうして帰ってきた生徒さん方を臣くんがヒール(という名のショック療法)をして正気に戻していく。


「な、なんなんでだろう……この間の解呪といい……」


 私が半泣きになりながら言えば、臣くんが「んー」と少し考えてから口を開いた。


「アレ、生命力酔いだと思います」

「せいめいりょくよい……?」

「はい、じゃあ少し座学をしましょうか。人も途切れましたし」


 そう臣くんは言えば私の方に向きなおって、亜空間……もといポケットというスキルを使用し、私の目の前にコップと水の入ったペットボトルを取り出す。


「水は生命力、コップは攻略者です」


 そう言ってから臣くんはコップの半分に水を注いだ。


「これが怪我をした状態、生命力が減っていますね」

「うん」

「で、怪我を補うためにはコップ満タンぐらいまで水を入れればいいんですが……瑠衣ちゃんの場合」


 臣くんはそう言うと、コップにどんどん水を注ぎ続ける。それはもう溢れても注ぎ続ける。


「これはただのコップと水ですからなんの害もないですが……攻略者の場合、過剰な生命力で酩酊症状を起こしている、と思います。結果的に、みんなキモい感じに気持ちよくなっちゃってるんだと……」

「ひぃ……え、私の注ぐ生命力の量が多いってことだよね?」

「そうです。なので、瑠衣ちゃんの場合普通にヒールをするんじゃなくて、小さいヒールを小分けにすればあんなにキモくはならないと思いますよ」

「ほぇえ……」


 臣くんは変わらず優しい。だからこそ、最善の結果で落ち着いてほしいと思う。なら、その最善の結果ってなんだろう。ふ、とそう思った瞬間であった。


 ————GURAAAAAAAAAAAAAAAA!


「どうやら、今回の実習の大目玉が解き放たれたようですね。瑠衣ちゃん、此処から怪我人のウェーブですよ」

「え、あれ……今の生徒さんの平均レベルだと荷が重くない?」


 コンタクトに意識を合わせれば、モンスターのウィンドウが表示される。レベル15の火竜だ。対して生徒さんの平均レベルは12。ちょっと足りない。


「いいんですよ。此処でなら死ぬぎりぎりなら僕と瑠衣ちゃんでなんとかできますから。ダンジョンで天狗にならないように此処でしっかり死の恐怖を覚えるんです。ま、いざとなったら昶が居ますしね」


 なるほどなるほど。確かに、昶くんのレベルは18。それなら一発とまでは行かなくても、比較的スムーズに倒すことができるだろう。

 そんなことを言っている間に、どんどんとみんなのHPが削られていく。うん、これじゃ確かに天狗になることは難しいと思う。

 そんなこんなしている間に大量の怪我人が滑り込んできて。


「じゃあ、張り切っていきましょう!」




「火竜まだ、HP半分以上残ってるね」

「ちょっと削りが遅いですね~」


 手元はヒールをしつつ、火竜を見て零す。うーん、荷が重いじゃなくて重すぎるかもしれない。これは昶くんが最後〆るのかなあ。そんなことを思いながら、ヒールをこまめに打ち切る。生命力入れ過ぎない、これ大事。

 そして、ちょうどいい塩梅で生徒を訓練に戻すことができるようになった頃だった。


 ———BuRAAAAAAAAAAAAAAAAA!


「ッ、停止!」


 火竜の咆哮、そして昶くんが普通属性科の生徒が余計な怪我を負わないようにだろう、呪詛で動きを縛ろうとする。が。


 ———BaUUUUUUUUUUUUUUUUUU!


(あ……!)


 火竜と目が合う。直感する、一時的な魔力無効状態。昶くんの呪詛は呪詛と言えば、なんでも呪うことができる、命令を聞かせられるものだ、と誤認することがあるが、違う。この世界の行動は大体、魔力的な行動と物理的な行動に二分される———そして、昶くんの呪詛は「魔力的な行動」つまり———魔力無効状態の敵には一切効かない。それを確信した瞬間、私は飛び出した。


「光の剣!」


 私がそう宣言すれば私の手の中に現れる光属性の一本の剣。そうして、私は———そのまま火竜を背後から一刀両断したのだった。




 ———ぷしゃああああああぁああ。


 そんな火竜の下半身から血が吹き出る音が校庭に響く。やけに無音な校庭にはっ、とする。やっちゃった、普通属性科の訓練に横やりを入れてしまった。私は刺さる視線に気まずい思いをしながら光の剣を消し、お辞儀をしてから退場しようとすれば。


 ———ぱち、ぱち、ぱちぱち。


 最初はそんなまばらな拍手がみんなからの大きな拍手になっていく。


「すげええええええ!火竜を一刀両断したぞ!」

「え、レベル私たちと大差ないよね⁉」

「筋力値が凄いのか⁉攻撃力が凄いのか⁉」

「やば、光属性って後ろでヒールしてるだけじゃないの⁉」


 激しい雨のように打ち付ける大量の言葉に軽く混乱してれば、背後から肩を叩かれる。


「昶くん……」

「……不本意ながら助けられたわ」

「不本意って」


 せっかく助けたのに!だけど、これは昶くんなりのありがとう、なのだろう。そう思って受け取っておくことにしよう。


「うわ、馬鹿女に貸し1か……嫌だな」

「え、貸し?」

「助けられたからな。恩は返すよ、流石に」


 義理堅い。昶くんってこんなに義理堅い人だったんだ、知らなか……あ!


「そ、それなら!昶くんにお願いがあるの!」

「……焼きそばパン買ってこいとか?」

「パシリじゃないよ!えーとね、放課後暇だったらちょっと私とお話して欲しいなー……って」

「は?」


 あ、昶くんの顔が物語ってる。「頭イカれたの?」って。イカれてないし、ただの雑談がしたい訳じゃない。臣くんのことを話したいのだ。でも、臣くんにこれはバレる訳にはいかないので。お願い、何も言わず了承して欲しい。お願い。そう、昶くんを必死に見上げていると、昶くんがはあ、と大きなため息を零した。


「くだらない話なら即帰るから」

「うん、うん!大丈夫だよ!絶対だからね!」


 昶くんとそんな約束を取り交わす。事態が動きそうな感覚に胸を撫でおろせば、感じる鋭い視線。その方向を見れば……普通属性科の先生方が近づいてきた。あ、これは。


「ええ、ええ、鷹羽が危なかったのは分かっています……ですが、討伐以外にもやりようがあったのでは?」


 ですよね~~~~お説教だ————!



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