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第2話【七戦七勝の神】

「はぁ……君達は本気で言っているのか?」


 掌を額に当てながら大きな溜め息を吐いたのはこの学園の理事長である白石茉莉しらいし まり

 俺達は入学式典が終わった後に理事長室に呼び出された。


「入学して直ぐに神に挑戦するって……しかもたった二人で。あんな大勢の前で大きなことを言ったね全く……」

「わ、私は言ってないですよ! 紅羽さんが勝手に言ったんです!」


 花音は俺の事を指さして必死に理事長に訴えた。


「確かに君たちは過去トップの成績でこの学園に合格したまぎれもない天才って事は認めるよ。でも相手は神だ。人間相手じゃない」

「そうですよ紅羽さん! 流石に二人じゃ無理ですよ!」

「それは十分分かってますよ。だから面白いんじゃないですか」

「全く……はぁ……君が面白いって思う事は構わない。問題なのは胡桃さんも言った通り人数だ。たった二人ってところが問題なのだよ」

「どこが問題なんですか?」


 すると理事長は更に大きな溜め息を吐いた。


「確かにシリウスを除く六人の神との頭脳戦は十人以上じゃなければ遊戯に挑戦できない。シリウスに関しては最低人数の制限はないが……過去のシリウスの成績を見たまえ」


【シリウス】

・12人 到達階層3 敗北

・16人 到達階層5 敗北

・11人 到達階層3 敗北

・18人 到達階層6 敗北

・15人 到達階層4 敗北

・16人 到達階層5 敗北

・16人 到達階層7 敗北


「この通り六戦六敗。だがデータでは人数が多ければ到達階層10に近づく。他の神と同様にシリウスも十人以上が望ましいとされてるんだ。それに君たちの持っているスフィアはとても貴重なんだ。この地球の未来がかかってるんだからな」


 スフィア一つにつき、神に挑戦できるのは一度だけ。

 ただ、一度挑戦して負けたとしても再びスフィアさえ手に入れればまた神に挑戦することができる。


「だからせめてシリウスの勝ちに一番近づいた現生徒会メンバー達がシリウスのスフィアを手に入れてから一緒に挑戦したらどうだ。君と彼らならもしかしたら勝てるかもしれない」

「あの、その事で俺思う事があるんですよ」

「なにかね?」

「神が人間に勝ち目のないルールを設定すると思いますか? 神は地球に来た時に言ってましたよね『遊戯の強くない人間と戦ってもつまらないし時間の無駄』そんな神が直ぐに終わってしまうようなルールを設けると思いますか?」


 もし俺が神の立場なら直ぐに終わってしまうような、ましてや相手に勝ち目のないルールなんて設けない。

 他の神が最低参加人数を設けているのにシリウスだけ設けていないのはあきらかにおかしい。


「つまり君は一人でも勝てる方法があると言いたいのかね?」

「そうです。もう既に頭脳戦は始まっている。そう考えるなら逆に参加人数が少なければ少ないほど勝利に近づくなんて考えもできますよ。そうでなくとも、人数はさほど関係ない。俺はそう考えてます」

「…………君の言う事は一理ある。何か考えがあるのか? 過去のシリウス戦は君も見ているはずだろ?」


 神との頭脳戦は神が地球に来た時と同じように神の力でリアルタイムのみで視聴することができる。


「まだ遊戯ルールの詳細をシリウスから直接聞くまではなんとも」


 神との遊戯のルールは決して他言してはいけない。

 もしルールを少しでも発言した者は神への挑戦権を永久に失い、その神との遊戯の難易度が上がってしまう。

 だからシリウスとの頭脳戦で分かっている情報はとても少ない。分かっている情報はたった二つ。

 一つは遊戯舞台が十階まである塔だという事。

 二つ目はプレイヤーは皆神から与えられた能力を使いモンスターを倒したりトラップ等を回避しながら十階まで上って行っているという事。

 そこからシリウス戦の勝利条件はプレイヤーの誰かが十階にたどり着くこと。そして敗北条件はプレイヤーのHPが0になることだと仮定されている。


「君の事だから何か考えがあると思ったが……だがまぁ、神様から遊戯をしようとするものを強制的に止めるのは禁止されてるからな。君達二人の好きにしたまえ」

「わ、私も神に挑戦する前提なんですね……」

「ただ今日はこれから教室に行き色々と配ったりしないといけない資料があるから挑戦は明日以降にしてくれ」

「わかりました」


 そう言って俺と花音は理事長室を後にした。


「ちょっと紅羽さんなんで私も巻き込むんですかっ!」


 部屋を出ると直ぐに花音は俺の腕を引っ張って来た。


「何でって同じスフィア持ってるしペアで入学試験の遊戯をしたしなんとなく?」

「なんとなくで私をこんな大注目される大事に巻き込まないで下さいよ!」


 そう言って頬を膨らませる花音。


「ほら! さっきから皆私達の事見てますよ!」


 教室へ向かう途中、すれ違う生徒はこそこそと何かを話しながら俺達の事を見ている。


「そりゃあ入学式典であんな事言ったんだから注目されるだろうな」

「うぅ、私はどうなっても知らないですからね!」





「理事長、本当に二人で挑戦させるつもりですか?」


 彼ら二人が去った後、隠れて会話を聞いていた現生徒会長、氷室妃菜ひむろ ひなは私にそう聞いてきた。


「さっきも言ったが神と遊戯をすることを強制的に止めることは神に禁止されている。私の説得を聞いても紅羽くんがやると言ったらこれ以上ノーとは言えないんだよ」

「ですが二人というのは流石に……スフィアの無駄としか思えないです。もっと早く私達がスフィアを持っていれば……それか挑戦するのがもう少し遅ければ……」

「まぁけれど紅羽くんの言った事も全て否定することはできない。これも事実だ」


 神への挑戦は人数が多ければ多い程良い。

 それは当たり前だと思っていた。実際にデータとしてどの神でも同じで人数が多ければ多いほど勝利に近づいているからだ。


「彼ならもしかしたら……なんて事もあるかもしれない。なんせ君の二倍以上のスコアで合格した生徒だ。どうだ、シリウスと戦った君から見て彼はどこまで行けると思う」

「……ルールからして、勝負にもならないかと」


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