龍は、その瞬間を見ていた。
少女は血を流し、空気には不穏な気配と戦の匂いが漂う。
私はただ、力のなさに歯がゆさを感じていた。
目の前では“黒い男”が動き、その背後に風の気配を感じる。
——『少年』。
その少年は驚くほど冷静で、戦いの準備も素早かった。風のような動きの中で、彼はまるで人間離れした存在に見えた。
やがて男が風に持ち上げられ、少年の放った“風の玉”が敵に届く。
その力強さと優しさに、私は心を打たれた。
だが、同時に男の電属性の反撃が少年を襲う——。
少年の一撃は確かに届いた。
その刹那、私は彼を信じ、支えたいと思ったが……
--------------
——アルヴァノス——
この世界を作ったとされる神の名にちなんで、人々はこの地をそう呼ぶ。
アルヴァノス紀839年春
この地には
<スセイリア王国>、<ミカドリア王国>、<タケミナール帝国>、<コガクシア聖典国>、<アマノガルド共和国>が存在する。
またそれぞれが順に<自由><規律><強さ><学び><自然>を重んじている。
各国には広大な領土があるものの、首都や主要な都市を除けば、多くの地域にはモンスターなどの敵対生物が
そして、スセイリア王国領『カザミ村』、ミカドリア王国との大森林と湖を挟んだ国境付近の村に運命が訪れようとしていた。
——カザミ村——
人口はおおよそ380人。98世帯からなる村はスセイリア王国の中でも人口の少ない村だが国全体の街や村と比較すると子供の割合が多く子供達のはしゃぐ声で人口以上の活気を感じることができる。
周囲が大きな森で囲まれており村の南には『王都スセイリア』へと繋がる道があり、また北側には『ミカドリア王国』との共同管理となっているこの世界で一番大きな湖『セーデリウス湖』がある。
村は森林と湖に恵まれ、木材資源、魚類や農作物を王国に納めている。
自然豊かな村ではあるが恵まれた地形は野生のモンスターにとっても魅力的で、村でも警備隊はいるが王国からは定期的に騎士が改めて周辺の調査・討伐の為に派遣されてくる。
ここの子供達はそれらの自然や人々を見て育っている。