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第1話  何でも屋 

「よし!今日もお手伝い頑張るぞー! 」

 『おーーー!! 』


 村には、今年15歳になる少年『アレト』がリーダーを務める“何でも屋”なる集団がいる。

 それは村の子供たちだけで構成され、入るも出るも自由。しかし、アレトの誰に対しても優しく明るい性格に感化され、ほとんどの子供たちが積極的に参加し、村の助けになっている。今日も早朝に30人程の子供たちが集まっている。


 「みんな今日も服装は大丈夫か! 」


 子供たちは自分の服装を確認しアレトに視線を移す。

 髪は少し長めの黒色で緑色の綺麗な瞳をしている。服装は、村の子供たちと同じく、気取らない素朴なものだった。首元が少し広めに開いた、風通しの良い生成きなりのシャツは、袖をまくっている。生地はちょっとくたびれているが、それだけ動き回っている証拠だ。

 ズボンは動きやすい七分丈で、ところどころ泥の染みがついている。無邪気な子供たちのリーダーらしく、アレトの服装には飾り気はないが、そこには確かに、村の風景に馴染なじんだ“元気さ”と“親しみやすさ”があった。



 「よし、準備はOKだ!今日も村をさんさ……」

 「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん! 」


 大きな声で叫んでいるのはアレトの妹『リーナ』

 今年13になったばかりで髪は肩までかかる明るいオレンジ色で兄と同じく緑色の瞳で、今まさに片手に大きなパンを持ち、アレトにぶつかりそうな勢いで走ってきている。


 「あぶ、危ない! 」


 アレトは咄嗟とっさに身をひねり、ギリギリのところでかわした。

 リーナは、はぁはぁ、と息を切らしながらも呼吸を整えていき息苦しそうだった顔は次第に白い歯を見せ笑顔へと変わってゆく。


 「寝坊しました!今日も頑張るぞーーーー! 」


あたりが一瞬の静寂に包まれるもすぐさま笑い声と共に声が響く

 『おーーーーーーー!! 』


 アレトとリーナはこの村で生まれ育ち、この村を出たことはないが、楽しい毎日をおくれていて、何も不自由を感じることはない。


 周りの活気がついた中アレトが指示を出す。


 「今日はチームに分かれて村を散策する前に、アネットおばさんの家の草刈りをしよう。みんなで力を合わせて綺麗にしような! 」

 「あたしが先頭です。ついてきてください!」


リーナの言葉に、子供たちは元気よく返事をしながらリーナの後ろについてゆく。

 『はーーい』


 “何でも屋”結成当初はアレトだけがリーダーを務めていたが、今ではリーナがサブリーダーを務めている。

 普段からリーナが周りの子どもたちへの気配りを見せ、特に他の子が怪我をした際、驚くほどの気遣いと手当てをほどこし、その優しさゆえに子どもたちから信頼を得た結果指名され、サブリーダーとしての役割を果たすようになった。どんなに小さな怪我でも手を抜かず、誰よりも早く駆け寄り、手当てをする姿に、子どもたちは自分たちの「リーダー」としてリーナを認めていったのだ。



 一緒に草刈りを始めたものの、この大人数で始めたためあっという間に終わってしまった。するとリーナを含む4人の子供達が笑顔で近づいてくる。


 「お兄ちゃんにプレゼント」


 リーナは無邪気な笑顔を見せながら、両手で大事そうに箱を差し出してきた、それは大人が手を広げたぐらいの大きさで、蓋がされていて、他の3人は不気味な笑顔を見せている。


 「ありがとう。……なにこれ? 」

子供たちは「早く開けろ」と急かしてくる。


 「また悪巧わるだくみだな……」


ジト…っと子供たちをにらみつけながらも期待に応えようと箱を開ける。


 「うわっ! 」


 勢いよく土が飛び出し、アレトの顔にぶつかる。あわてて目をこすると、

中には“辺日草へんぴそう”が入っていた。


 辺日草へんぴそうは、日光が当たっている間は口を開け、何かが入ると閉じる。そして、一度日陰に置いた後、再び光を浴びると中のものを勢いよく飛ばす性質を持つ草だ。

 リーナたちはキャッキャと笑いながら逃げていく。

 アレトもびっくりはしたものの笑ってしまう。


 「そんなことしていいのかな〜〜? 」


 アレトは肩より少し後ろから広げた手のひらで、物を飛ばすように下から上へと空を切る。
同時に、手の真下の柔らかな土が、まるで強くられたかのように舞い上がり、風に乗ってリーナたち4人に降りかかった。


 「わぁっ! 」「きゃー! 」
笑いながら土をかぶった4人は、すぐさま反撃のためにその辺の土を集めようとする。
しかし――


「こら!目に土が入ったらどうする。その辺にしときなさい! 」


 響いたのは、アネットおばさんの隣に住むおじいちゃん『ハゼン』の声だった。

長い白髪を後ろで一つに束ね、しっかりと結わえている。
年季の入った麻の上着を羽織り、その下にはゆったりとした生成りのシャツ。


ズボンも同じく、くたびれた布製で、ところどころぎが当てられている。
袖口そでぐちはほころび、腰には古びた紐を巻いているだけ。
靴もすり減っており、背筋は少し曲がり、肩も落ちている。
動きもどこかゆっくりしており、まるで風が吹けば飛ばされてしまいそうなほどだ。


 村の子供たちのお目付け役で、怒ると怖いが、普段は穏やかで、大人子供問わず慕われている。
血のつながりは無いがアレトにとっては、まるで実の祖父のような存在だった。


 「……ごめんなさい」


 アレトやリーナたちは、少し残念そうにしながらも素直に謝る。

すると、ちょうどそのタイミングで、アネットおばさんが家から顔を出した。
笑顔を浮かべながら、アレトにそっとお金を手渡す。このお金は“何でも屋”全体の報酬だ。


 「みんな、ありがとね」


“何でも屋”の一同は、元気よくアネットおばさんに向かってお礼を言った。


 「草むしりは終わったしお昼までチームに分かれて村を散策しよう」

 「ちょっと待てい」


一同はハゼンに視線を移す。


 「今日は先生が来る日じゃぞ」

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