ヴィーナス様は何か思いついたのか続けて俺に声をかけてくる。
「あっ……ふふ、また逃げられると面倒なのでちょっとだけ縛りましょうか。どんな縛り方がいいですか?」
縛り方に種類あるの?
その言葉に少しドキッとする。
「いえ、自分で行くんでいいです、ただ上映が始まったら動かないようにしてください。暴れると思うので」
まさに女神のような微笑みを浮かべていた。
「大丈夫ですよ、いざとなったら指を鳴らすだけで動けなくすることができるので上映会を楽しみましょう?」
この女神、絶対、神なんかじゃない……
うなだれながら女神の後をついていく。
こうして、地獄の上映会場に向かった。
「ヴィーナス様、どこで観るんですか?ここら辺は何もありませんよ?」
「よく聞いてくださいました。いい質問ですよ!まぁ、見ていてください、きっと驚きますよ。」
言い終えると、指をパチンと鳴らした。
するとそこには一つの扉が目の前に現れた。
「さぁ、行きますよ?ついて来てください。」
扉を開け、足を踏み入れると今までいた空間とはまた別の空間に足を踏み込んだ。
そこには、壁や天井は静かに闇に溶け込んでいた。そして目の前に広がるのは、大きなスクリーンその下には2つの座席があり、ドリンクホルダーには先ほど頼んだコーラとポップコーンがあり、ポップコーンのいい匂いが微かにかよっていた。
「すごいでしょう?なんたって私は神様ですから、このくらいお茶の子さいさいですよ!」
すご、どこでもドアじゃんこれ!
一瞬でこの空間をつくちゃったよ。この人こんなこともできるのか。
「褒めてくれてもいいんですよ?ただ、一瞬で作ったわけじゃないんです、もともとこの部屋は私が作ったんですよ。やっぱり映画はいい環境で見たいじゃないですか……?」
「……すごい、すごいですよ!神様。本当に神様だったんですね!こんな立派な映画館を作れるなんて、おすすめの映画があるんですよ!一緒に見ませんか?」
満足そうに胸を張るヴィーナス様が、俺に自慢気に話しかけてきた。
「そうでしょう、そうでしょう、すごいでしょう。まぁ、神ですから!いいでしょうその映画見ましょうか、なんて言う題名ですか?」
……ぷっ、よし、いけるこのチョロ女神め、このまま話題を逸らして映画鑑賞だ。
「えーとですね、スカイリックや怪獣バリラとか観ませんか?」
目を合わせると、先ほどの笑顔とは変わり、その瞳は少しも笑っていないものに変わっていた。
「いいですね、あなたの恥ずかしい思い出の鑑賞会を2周したらその映画鑑賞しましょうか?」
「え……えっとヴィーナス様?怒ってます?あとなんで2回になってるんですか?」
「さっきチョロ女神って思ったでしょ? ふふ、それはもう、マズいですね〜不敬なので2周しますよ、いいですね!」
「待ってください、チョロ女神なんで一言も、あっ……」
「チョロ女神って思いましたよね?いけるって思いましたよね?」
「思い……ました、でもですよ!そんなのしょうがないじゃないですか。人間だもん。……だってこのまま褒めてたら、黒歴史鑑賞会を回避できそうだったんですから!ずるいですよヴィーナス様ばかり人の心読んで」
「見えるんだから仕方ないじゃないですか、でもいい傾向ですよ、思っている言葉と話している言葉がだんだん一緒になってきてますよ!正直者が1番です!思いは伝えないと伝わりませんから」
「うざっ!!」
やばい……思わず口に出してしまった……
「はーい、不敬!!」
嬉しそうにヴィーナスは言った。
「そんな、思ったことを言ったのに思いは伝えないと伝わらないって言ったのはヴィーナス様じゃないですか」
「伝わったので不敬プラス1ポイントです!そろそろ鑑賞会始めません?早くみたいです」
……ほんとこの女神は。
「もう疲れた、もう勝手にしてください!」
「拗ねちゃいましたね。そんな姿も可愛いですよ?ではお席についてください!それでは鑑賞会の始まりです!星くん、動画撮影は許可しますよ!」
「絶対に撮りませんよ!」
そうして、黒歴史上映会がスタートした。