私は、ベッドに腰をおろして、彼の寝顔を見つめながら昔のことを思い出していた。
こんな風に、誰かと、いや、人間の男の子と一緒に暮らしているなんて昔の私が知ったら、きっと驚くでしょうね……
——小さい頃から、私の道は決められていました。 お母様やお父様には「こうしなさい」と言われて最初は素直に……嬉しかったんです。
褒められて、期待されて、その期待に応えてお父様とお母様の喜ぶ姿が見られて……その喜ぶ姿をもっと見たくて……頑張りました。
それが、私の存在意義だと信じていました。
神の仕事も覚えることはたくさんありましたけど、とてもやりがいのある仕事ですし。
……でも、いつからだったでしょうね。
自分で何かを選ぶことを許されない日々に、息が詰まるようになったのは……
恋人まで……勝手に決められたあの日は、忘れません。ふざけてる……!私の気持ちも、私の人生も、何一つ尊重されなかった。お父様に選ばれたのは……よりにもよってアイツ。
私、モテるのに……!
我慢して付き合って、それなのに……三日で浮気?
ふふ……笑えますね。 本当に、我を忘れるほど怒ったのは、あれが初めてでした。
まぁ……浮気女もろとも動けなくして地面に埋めましたけど……それに加えて、お父様からは趣味や友神関係まで口を出されて、趣味はともかく私の友神のことを口に出された時はアイツと同じぐらい頭にきましたね。
—— そうして私は決めたんです。 神としての役目は果たす。でも……もう誰にも、私の生き方は決めさせないって。
……あの子を見つけたのは、本当に偶然でした。 最初は、なんの気なしに映像を眺めていただけ。特別じゃなかった。最初は見ててもつまらなかったですし。
何かに秀でていたわけでも、特別かっこいいわけでもない……でも、どうしてでしょうね? その普通が、妙に気になって、目が……離せなくなっていた。
……星くん。
あなたの物語を、何度も見返しました。
たぶん私、あなたの普通に笑って、泣いて、頑張る姿に惹かれていったんだと思います。
そしてあの時……助けたいって、思ったんです。
……あなたのことをここに連れてきたのは、偶然じゃないんですよ?
ちょっと勝手だったと思いますが私、女神ですし、大目にみてください。
星くん……許してくれますよね?
……正直言って、あんな冴えない男の子が、私の心に残るなんて……自分でも驚きです。
小さい頃の私に言っても、鼻で笑われるでしょうね。
でも……あの子の物語は、誰よりも輝いて見えた。 異世界で無双する男の子やハーレムなんかを築く男の子達よりもずっと輝いて……
気がつけば、目で追っていた。
……星くんは、私にとっての一番星になっていたんです。
星くんに伝えても多分、理解してもらえないでしょうね。
寝ている星の顔を見ながら小さく一言呟く。
「ふふ……女神の執着なんて、厄介なものですよ?」
星くん、私から離れて異世界にいけると思っています?
絶対……すぐには行かせませんよ?
私の目を奪った罰ですから。
……もっとも、本人には絶対に言いませんけど……
死んでも、言いません。
けれど——これからも、一緒にいてもらいますよ? 星くん……
本当、星くんが心を読めなくてよかったです……こんなことを覗かれてたら女神の面子が保ちませんから。
「さて……私も、そろそろ寝ますか」
星くんをベッドの隅に追いやり、私はそっと布団をめくる。
静かに身体を横たえ、隣にいる彼の寝顔を見ながら、まぶたを閉じた。
……ふふ、明日もたくさん、からかってあげましょうね。
おやすみなさい、私の——
ドンッ!
「……い、ったぁ!?な、なにが……」
気づけば、私は床の上にいた。
ありえません……こんな落ち方、過去に一度もありませんよ……?
「ふ……ふふ……ふふふ……女神を蹴飛ばしてベッドから落とすとは、なかなかの不敬ですね……?」
こめかみにピキリと青筋が浮かぶのがわかる。
ゆっくりと立ち上がり、指をパチンと鳴らす。
星くんの身体を動けなくする。
「これはもう、明日のお仕置き確定です。……いえ、それだけじゃ済みませんよ?」
ベッドに戻りながら、星くんをベッドの隅っこへコロンと転がして、私は満足げに微笑んだ。
「ふふ……星くんのくせに、生意気ですね。」
そのまま彼の隣に潜り込む。
今度こそ——静かに目を閉じる。
「おやすみなさい、私の一番星……
明日もたっぷり可愛がって差し上げますから、 覚悟しておいてくださいね?」