その後も他愛のない会話をしながらご飯を食べた。
「じゃあ、ご飯も食べたし、シャワー浴びてきます。……覗いちゃダメですよ?」からかうような笑顔で言ってくる。
もうこの女神は……
「覗かないんで、早く行ってきてください」
「そんなこと言って〜、覗きたいっていう考えが見え見えですよ」
なにも考えてなかったんだけど……!?
「今は、そんなこと思ってないですよ!」
「今は……?」
「……言葉の綾です。ほら、早く行ってきてください!」
「はいはい、わかりました。行ってきますね!」
——20分後
いや、遅い、まだか、眠いんだけど……
ヴィーナス様、髪長いし洗うのも時間がかかるのかな……?
——10分経過
女性ってシャワー長いって本当だった……
神様だったら魔法で一瞬だろうに……
——さらに10分経過
遅すぎる、浴槽に浸かっているならわかるけどシャワーって身体洗うだけじゃん。
何をそんなに……ヴィーナス様もスキンケアとかするのかな?もしかして、俺が覗きにくるの待ってたり……?いやいや、ないな!
あったとしても絶対ネタにされるだけだ。
……眠い、俺どこで寝たらいいんだ?ソファもないし……
——限界……少しベッドで寝かせてもらおう
ヴィーナス様がきたら起こしてくれるでしょ、
明日からのことも聞きたいし……
ふらふらになりながらベッドに勢いよく倒れ込み、うつ伏せになりながらヴィーナス様と会ってからの事を思い出していた。
今日はたくさんのことがあったな、恥ずかしいこともあったけど……
いや、恥ずかしいことしかなかった……でも、それ以上に楽しかった。
誰かと喋るのってあんなに楽しいんだ。
そのまま眠りに就こうとゆっくり呼吸を整える。星の鼻に石鹸のいい匂いが流れ込んでくる。
あれ……なんか、めっちゃいい匂いする。
石鹸のような……とても優しい匂い……
何これ…めっちゃ落ち着く。
神様のベッドってやっぱり特別なんだ……
俺は30秒もたたずに眠りについた。
※ヴィーナス視点
星くんとリビングで別れた後、私は浴室に入った。
シャワーをひねると、すぐにあたたかいお湯が流れ、足元に跳ねる。身体を洗いながらヴィーナスは明日のことを考える。
……さて、明日からはどうしましょう?
先ほど星くんが言っていた。時計を置くのもいいですし……どんな時計にしましょうか?
長い髪を持ち上げて、ゆっくり濡らし、濡れた髪を優しくすき、シャンプーを手に取り、泡を立てて髪に馴染ませていく。
その後は何をしましょうか?
あ、……魔法の練習をしてみるのもいいですね。見ている感じ、この世界にも身体が馴染んできてる頃ですし……もしかしたら、意外に魔法の才能があるかも?……いや、それはないですね
星くんですもん。まぁ、1個ぐらいは使える魔法があればいいですけど、使えなかった時はからかってあげますか。
泡立てた髪をしっかり流し終え、腕から肩、胸、腹、腰、足の順にゆっくり身体を洗っていく。
それにしても、今日は楽しかったですね……
あんなに笑ったのは久しぶりでした。
上映会の星くんの顔と言ったらもう……
ふ……ふふ、今でも思い出し笑いしちゃいそうです。
当然ですが、星くんもしっかりと男の子なんですね……普通に……泣いたり、笑ったりして、素直だと思ったら嘘をついたり……見ているだけのはずだったのに。
……私、どうして、こんなに気になってるんでしょう……?
————私達、神とはやっぱり違いますね……
そんなことを考えながらシャワーを浴び終え、
浴室を上がる。
「……それにしても、来ませんね?」
この美しい女神ヴィーナスがシャワーを隣の部屋で浴びているんですよ?
普通の男なら覗きにきますよね……?
他の男神なら浴室の前に行列ができますよ!
ちらっと扉の方を見ながらバスタオルで身体を拭いていく。
覗きにきたら明日1日中からかってあげませんと……
遅い、遅すぎます。もう30分ぐらい経ってますよ。
まだ、服はあえて着ずにバスタオル一枚を体に巻いて、髪を乾かしていく。
え……もしかして、私って魅力ありませんか?
いや、そんなはずはありません。私は、美の女神なんですから。
全く、こんなお約束イベントもこなせないなんてシャイボーイなんですから。
……まぁ、星くんが来なかったことに、ちょっと安心してる自分もいますけど。
私は髪を乾かし終え、寝巻きに着替え、浴室を後にした。
———勢いよくドアを開けリビングにいる星くんに声をかける。
「星くん!いい子に待っていまし——
……あれ、寝てますね……」
私のシャワーよりも睡眠をとりましたか……
まぁ、いろんなことがありましたからね。
———ベッドで寝てますね、じゃあ私はどこで寝たら……。
「星くん、星くん、起きてください!うち、布団一つしかないんです。私が寝れません、起きてください」
ヴィーナスは星の肩を揺らして起こそうとするが深い眠りについた。星が起きることはなかった。
一回ため息をつき、どうするか考える。……私が床で寝るのは絶対にないですね。
ここにきたばかりの星くんを床に落とすのも流石に……
考えるのをやめた。
「もう……女神と一緒に寝れるなんてすごい幸運なことなんですよ!わかってます……?」
星くんの頬突きながら言う。
「なんてだらしない顔をしているんですか!本当にもう……油断しすぎですよ、星くん」
私は小さく笑って、そっと布団をかけた。