6.
学校に――
もちろん、そこには学校にいるのは生徒だけではなく、教職員に用務員なども含まれている。学校に出入りできる人間も含めれば、三百人ちょっとの在校生の数からぐっと数が増える――容疑者の数が増えることになる。
「魔法使いは何人いるんでしたっけ? うちの学校には」
「三人ね」
「三年の
名前を言われても如月には誰が誰だかわからなかった。
そこに蒔絵を加えて四人。それが今わかっている範囲で二見中学にいる魔法使いの数。
「その三人は……その、どうなんですか?」
「まだ調べていないから何とも言えないかな……」
「蒔絵さんから見て、どう思いますか?」
「私から見て? うーん、あんまり疑わしくはないかなあ……」
「そうですか」
と相槌を打って、如月は空を見上げた。
街灯の明かりで星空ははっきりとは見えないが、月が出ている。
(治安維持機関――通称『委員会』)
『委員会』には多くの魔法使いの情報が記録されている。
魔法は後天的に発症するため、今日まで何ともなかったのに明日には魔法使いになっているということも珍しくない。それに魔法使いだからといって、近くにいれば魔法を患ったことがわかるなんてこともない。
(魔法なんて言葉が使われているけど、アニメや漫画で見るような『魔力』みたいなものがあるわけじゃない――)
人体が引き起こすには説明がつかない超自然的な現象を『魔法』と呼び、人為的に引き起こすことができる人物のことを『魔法使い』と呼んでいる。
それに魔法は突然発症するため、魔法を
こういう変化にいち早く気づくために、『委員会』は一般人として魔法使いを社会に紛れ込ませている。特に――外部の人間が踏み込みにくい学校みたいな場所には、『委員会』の構成員を配備している。二見中学校には
構成員の地道な努力によって、魔法使いの個人情報が多く記録されている。
それがどういう魔法なのかということも含めて――だ。
『発砲うさぎ狩り』のリーダーである
彼についての情報は記録されている。どういう事件を起こしたとか、どういう魔法が使われたとか――調べてもらえば、すぐに知ることができる。
(まあ、それを部外者である僕が知れるかどうかは別だけど)
事件が起きてすぐに疑われたのは二見中学にいる三人の魔法使いのはずだ。
きっと既に調べられている。
なのに、蒔絵ははっきりとした言い方をしない。部外者である如月に伏せているだけというのも考えられるが、『疑わしくない』というさっきの返答からして、たぶん、容疑者から外れているのだと思う。
(となってくると……)
学校内には犯人――もしくは、事件に関わっている魔法使いがいない?
だからといって、部外者に矛先を向けるのも微妙だ。部外者が学校に侵入するというのは、どうにもリスクが高いように思える。今は二見中学校に所属しているから出入りはしやすいが、当時通っていた小学校に堂々と出入りできるかと言われたら、やっぱり
「それは被害者も同じか……」
「ん? 何か言った?」
うっかりと口にした独り言に反応があった。
「いえ、どうして被害者の
そもそもの話だ。
犯人以前にこの被害者が誰よりも部外者で、学校内にいることが不自然な人物なのだから。
「あ、そうだ。もしかしたら逆とか?」
「逆?」
蒔絵は首を
「被害者も部外者だったんですから、犯人も部外者って考えられませんか? 学校内で事件を起こすことで生徒に疑いを向けようとしている、とか?」
「どうだろうね。犯人は認識を阻害させられる魔法を使えるんだから、学校に侵入する自分の姿にも気づかれないようにできると思うのよね」
「まあ、そうですよね」
座ったままの姿勢で、脱力する如月。
何気に蒔絵さんは『殺した人物』と『魔法使い』を一緒にしているんだなあ――と思った。そう考えて、如月もふと思う。
(僕はこの事件にふたりの人間が関わっていると思っているんだな)
殺した人物と、魔法を使った人物。
どうしてもあの『死体を移動させた』という行動の意図が読めない。
でも、如月はこう考える。
意味のない行動はない、と。
何かしらの意図があって、それが別の方向から交わっているから、こんなよくわからない状態になっているんだ。
「――認識を阻害する魔法、ですか」
と、如月のものでも蒔絵のものでもない声だった。
ふたりは身構える。如月はベンチの上で姿勢を正したくらいだったが、蒔絵は立ち上がっていた。さすがに『委員会』の一員として戦闘経験のある者の反応だ。
ふたりのいるベンチから、少しの位置にある街灯を挟んだ先にある滑り台と一体化した木造のオブジェ。その物陰からその人物は出てきた。
如月や蒔絵よりも小さい、人影。
街灯の下のほうに立つ。それは――妹の
品のある白いシャツを着ていて、見ようによってはリクルートスーツにも見える。髪は肩の辺りで揃えられていて、顔つきは幼いが、整っていて美人という印象もある。
「壮生さん、いけませんね、駄目ですよ」
ただ、その雰囲気からは似合わないくらいに――
「お――
「わたしに言わせてもらえば、『認識を阻害する魔法』という言葉まで出てきているのなら、もっと閃いてほしいところですよ。心当たりはありませんか? そういう魔法を使える人物に」
「
思井かるい。
この少女が、この周辺地域を担当している『委員会』十三支部の副支部長である。