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 このとき、壮生そうせい蒔絵まきえは学校にいた。

 しかし、三階にはおらず、別校舎にある職員室にやってきていた――『授業のことで聞きたいことがある』と数学の先生を訪ねてきていたが、別に聞きたいことなんてない。

 知りたいことは事件が起きたと思われる当日の出席状況だ。

 死体が発見された時点で死後一日は経過しているとの報告を受けている。今日は金曜日なので、一昨日おとといの水曜日――その日の出席状況を確認したかったのだ。この学校にいる魔法使いの三名の出席状況を。

 結果から言えば、何も調べることができなかった。

 テスト期間ということも相まって、職員室への入室は許可されず、職員室前での質疑で済まされることになってしまった。

 タイミングが悪かった……。

 こればかりは仕方がない。なんたって今まさに期末テストはこの職員室で作られているのだから。

 職員室から出てきてもらった数学の先生には用意してあった質問をして、それっぽい返答をもらったので納得したふうにして、お礼を言って職員室から離れた。

(まあ、あの三人は最初から可能性が低いとは思ってるんだけど)

 あずまくんにしても、桑原くわはらさんにしても、伊勢いせさんにしても、最初から疑っていない。きっと彼ら彼女らに聴取をおこなっても素直に答えるだろう(それをするのは蒔絵の役割ではない)。

 それでも念のために。

 それくらいのつもりだったのだが、職員室に這入はいることさえ叶わないとは思ってもいなかった。

(考えが甘かったわね……)

 なんてことを思いながら、蒔絵は渡り廊下を歩いていた。

 生徒の教室がある第一校舎と、移動教室や職員室のある第二校舎。これを学校の東側と西側の二階部分にある渡り廊下がつないでいる。その渡り廊下を歩いている最中だった。

 ふと顔を上げて、窓の外を見たとき、

「…………!」

 と蒔絵は息を呑んだ。

 第一校舎の壁面を、這いながら張りついている『それ』を目撃したからだ。

『それ』はの四足歩行の生物で、ぱっと見で犬か猫にも見える。『それ』には尻尾もあった。ただ、毛並みは薄く、筋肉質で、なんというか――保健体育の教科書に載っているような、筋肉と血管が描かれた画像みたいな、あんな印象を受ける生き物だった。

 大きく肥大化したそのを、器用にも壁の凹凸に引っかけるようにしながら移動している。

(な――なに?)

 蒔絵が戸惑っているあいだに、得体の知れない『それ』は第一校舎東側の一階と二階部分の窓付近まで辿り着いた。

『それ』は体当たりをするようにして窓を突き破って――校舎内に侵入したのだった。




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