5.
と、こちらを
「□■■……っ」
踊り場のほうにいる『犬』が何かを呟いている。
起き上がった
「あなた、『
蒔絵は手にあるスマートフォンを操作しながら言う。
「…………」
と、『犬』は――いや、吹抜みんかは何も言わない。
踊り場で身体を起こして、身構えている。
「年齢は十六歳。魔法は『ダイバーシティ』――『身体を組み替える魔法』で間違いないわね?」
「…………」
吹抜みんかは何も言わない。
この様子を離れた位置で見届けている如月と姫子。
「(あの……)」
「うん?」
姫子は如月に耳打ちする。
「(
「(あー……)」
そうか、そこも一応言わないといけないか。
『この人に任せても大丈夫』だと思ってもらわないといけない。とはいっても、『委員会』の説明を、魔法使いではない姫子にしても通じるかどうか……。そもそも、如月としても『委員会』のことを他人に説明できるくらいに理解していない。
なんと言おうか……。
少し考えて、
「(こういう状況に対応してくれる、専門の人です)」
と、伝えた。
「(……そうですか。わかりました)」
姫子はとりあえず頷いてくれた。
「(信じていいんですよね?)」
「(はい)」
「(わかりました。信じます)」
本意ではなさそうにも見えたが、それでもとりあえず納得してもらえてよかった。
如月は再び――壮生蒔絵と吹抜みんかのほうに向く。
「――もう既に通報も済ませています。そうかからないうちに『委員会』がやってくる。下手な抵抗をするのは無意味だ!」
「…………」
吹抜みんかは何も言わない。
ただ黙って、その場から動かない。
「……もう一度、聞く! あなたは『発砲うさぎ狩り』のメンバーで間違いないな⁉」
「
と、その返答は今この場にいる誰のものでもなかった。
誰のものでもない、ソプラノのような声だった。
一斉に――声のした階段の上に視線が集まる。このとき、蒔絵はあくまでも吹抜みんかから注意を逸らさずに、その『声の人物』のほうを見た。
誰のものでもない、少女のようなソプラノ声だ。
「あんたさ――『既に通報させてもらった』って言ったよね?」
とん、とん――と小気味に階段を降りてきたのは少女ではなく少年だった。声変わりなんてまだまだの十代にさえなっていないような――児童だった。
「そこのあんた――お姉ちゃん。お姉ちゃんは『委員会』だよね? なのに、そんな台詞が出てくるなんて、まるで――
「…………」
蒔絵は何も言わない。
階段を降りてきた児童は、如月たちのいる二階の床に降り立った。
「すっかり追い詰められたね、
にっこりと階下にいる吹抜みんかのほうを見て、その児童は言った。
小柄で髪は目にかかるくらいに長い。ごく普通のシャツの上からパーカーを羽織っていて、ハーフパンツの――子供だ。
ぐっと後ろにいる姫子が服を強く握っているのがわかる。
「ねえ、お兄さんもそう思わない?」
と、児童はこちらに話を振ってきた。
振り向いて、手を伸ばして、如月の肩の上に手を乗せようとする。
「
悲鳴にも似た絶叫を蒔絵はあげた。
次の瞬間。流れるような動作だった児童の行動は一変し、急に掴みかかってきた。
『危機的状況にある』と如月が理解して動くよりも、姫子のほうは反応が早く、掴んでいた如月の服を全力で引っ張り寄せた。
それでも、わずかに間に合わない。
児童の指先でわずかにワイシャツの越しにだが、腕に接触した。
「…………っ‼」
如月の腕に激痛が走る。
廊下のほうに数歩下がって、できるだけその児童から距離を取る。
痛みが感じる左腕の二の腕の部分を押さえる。じわり、とした感触が手にあった。ワイシャツが赤く染まっていく。
出血、している。
くっくっく――と、児童はその場を動かず、笑いながら蒔絵のほうを見る。
「ここまでやってもお姉ちゃんは何もして来ない――
如月は気づく。
今、自分たちが廊下のほうに後退したことで、壮生蒔絵は吹抜みんかとあの児童に――前と後ろから挟み撃ちの構図になっている。
六歳のときに兵庫県内で大量殺人事件を起こした犯人にして、リスクレヴェル4級の魔法犯罪集団『発砲うさぎ狩り』のリーダー。
それが、この児童だ。