7.
今年で十四歳になった如月は、十歳のときに初めて魔法を目の当たりにしてから何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も経験してきた――こんなふうに魔法使いに追い詰められるような状況を経験してきた。
今まで生き延びてきたからといって、こんな偶然が何度も続くとは思っていない。これまで大丈夫だったのだから今回も大丈夫なんて思っていない。思ったことなんて、ない。
(ましてや――すぐ近くに
自分だけが生き残るのではない。この状況は――不慣れだ。
どうにも苦い思い出が
きっかけとも言える十歳のときの事件で、妹を危ない目に遭わせている。そのときのことを思い出すと、胸の奥がずきりと
滲むように記憶が拡がって、疼く。
どうにかして生き残らなければならない。
「はっ、はっ、はあっ――」
二階の廊下の奥、第一校舎の一番西側にある階段の前にいる。
息を整えながら、そして左腕の痛みを堪えながら考える。
三階に行くか、一階に行くか――はたまた、このまま西渡り廊下を渡って移動教室などがある第二校舎に行くか。
「どっ、どうしよう……どうしたら――」
「落ち着いてください」
自分に対しても言い聞かせるように如月は言う。
「既に通報は蒔絵さんがしてくれていますし、あとは時間を稼ぐだけです」
『委員会』が駆けつけてくるまでか、あるいは『発砲うさぎ狩り』が撤退するか――だ。
そのためにも時間を稼いで生き残らなければならない。
(だけど――)
この三択――どこに逃げてもある程度は同じだと思う。
でも、如月としては気になるところがある。
相手は『発砲うさぎ狩り』という魔法犯罪集団だ。わかっている範囲で『
『集団』がこの人数で済んでいるとは思いにくい。
ほかにもメンバーがいると考えるべきだ。
この襲撃がどういう目的によるものなのかはわからないけど、リーダーの瀞峡守が出てきたんだから『発砲うさぎ狩り』全体で――『集団』で動いていると見るべきだ。
(連中はどういうわけか僕を狙っている)
だとしたら、接触した際に戦闘になることも想定して、あの『犬』――あの人選をしたはずだ。となると、接触時に如月が逃げ出すことも考えられているはずだ。
(となると、一階はリスクが高い)
一階に降りて逃げたところにほかのメンバーが待ち構えているなんてあり得る話だ。ほかのメンバーが何人いるか知らないが、窓とか出入口とかを見張られていられるかもしれない。
だったら外からアクセスがしやすい一階よりも、校舎内を逃げ回ったほうがいい。
(だから、一階は『なし』だ。それに加えて――)
渡り廊下のほうを見る。
(第二校舎に行くというのも『なし』だ)
第一校舎内にいる生徒の多くは既に下校している。残っていた生徒も『犬』を目撃して逃げ出している。
だけど、第二校舎の三階にある図書室や、二階にある職員室には教職員がいる。
第二校舎に行けば、関係のない人を巻き込むリスクがある。
となると、選べるのはひとつしか、ない。