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第4話 パッちゃん(3)

「ネット小説ではずっと『転生モノ』が定番中の定番なんです。でも定番人気だからこそ、味付けが難しい。手を変え技を変え、転生モノをみんな書いてきたわけですが……でもパトラさんは実際に転生した人間!リアリティある転生モノが書けるんじゃないですか? パトラさん、試しに書いてみませんか?」


「わたしが?書くのか?何を書くのだ?」


「パトラさんは前世の記憶がある。それを生かして倉井晴奈さんとして生きてきたわけでしょう? そういう経験を書けばいいんですよ! 読者の求めていることとかは一旦置いておいて、好きなように書いてみましょう!」


 篠田がワードを開き、椅子を立つ。座って座って!とクレオパトラを座らせる。


 クレオパトラは戸惑いながらも腰掛けて、キーボードに両手を置き、まっさらな画面を見つめる。


 そして篠田が見守る中ゆっくりカタカタと、キーボードを叩きはじめた。



――怒りを歌え、女神よ。プトレマイオスの子クレオパトラの、世を滅ぼすまでの、激しい怒りを。――



「……うーん。ちょっとホメロスすぎるかなぁ」


「私の時代の物語といえば『イリアス』と『オデュッセイア』だった。かのアレクサンドロス大王もホメロスの愛読者であった」


「そうですか。まぁ、まずは書いてみることが大事ですよね。校正は後にしましょう!さ、次は? なんで激しく怒ってるんです?」


 クレオパトラはしばし考えて、またキーボードを叩き出す。



――あれは中学三年生の時であった。すでに私の美貌は完成されており、大人たちをも惑わした。教師とて例外ではなかった。あの数学教師、まだ大学を出たばかりの若造ではあるが、磨けば男前になりそうなウブな男。私はそやつに目をつけた。――



「……ジャンル的には恋愛小説なのかなぁ。あんまり共感できなさそうですけど」



――だがその男には秘密があった。彼もまた、転生者であったのだ。――



「うそ!転生者まだいたんですか?!誰ですか?!」 


「うるさい。今筆が乗ってきたところだ」


 驚き大きな声をあげる篠田を、クレオパトラが横目で諌める。


 そしてまた、キーボードを叩き出す。


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