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第7話 「告白」

 ケレス。大昔、地球圏の女神とか言う古い信仰対象から名付けられ、およそ月の1/3の大きさを誇るこの準惑星は、古くから資源採掘基地として発展している。


 銀河宗教上の非交戦地帯である小惑星パラスと違い、歴史上何度か戦火に晒されたこの星は、現在採掘できる鉱石も無く。商業都市国家同盟の軍事・商業拠点として、小惑星帯アストロイド・ベルトの中で、最も大きな都市となっていた。


「見えて来たよ。公転周期が4年半もかかるから、ここに立ち寄るのも久々だねぇ」


「最後に来たのは、三年前だっけ?」


「そうだね。前にムクを見繕いに来た時だったな」


 懐かしそうにイルマさんとリアは、一箇所だけ大きくしぼんだような、クレーターが見える惑星ケレスを眺めている。


 思えば、リアが初めてこの艦に乗船を許可されたのもその時で、その時のはしゃぎようと言えば無かった。何度も後ろから羽交い締めにして、そのまま艦内を練り歩いていたっけか。


「ん〜……こりゃ、なんかあったね。悪いけど四人とも、一応出てくれるかい?」


「分かるの、イルマ?」


「そろそろ通信が来ると思うけど、船頭出せって向こうからも言ってくるよ。港の光が荒れてやがる。ルトリックも分かるだろ?」


「そうっすね。見た感じロールRフッドFと船が、かなり慌ただしいっす。ありゃデカいのが、玉突きでも起こしたかな……?」


 舵を取りながら、ルトリックさんも、イルマさんと同じ意見のようだ。


 機体RFを出して無いと荒れた港では、向こう見ずな工事連中とか、競技用ホビーや記者連中に絡まれるかもしれない。まあ、他国の重巡洋艦の横で、そこまで根性ある奴は滅多にいないだろうけど、万一はある。


「ムクじゃないと、ダメだよね?」


「ああ。マドナグじゃデカくて目立ち過ぎるし、周りも無駄に驚いちまうからね。何より欲しがる奴が出ると、一番上手くない」


「あたしも乗りたい! 乗りたい乗りたい乗りたい乗りたい乗りたいぃい!!」


 リアがブリッジで駄々をこね始めた。こうなるから連れてきたくなかったんだけど、最近乗ってないのも事実だ。そろそろ慣らしはいるし、港の近くで飛ぶのも良い経験になる。


 それに戦闘はできなくても、この艦が駄目になる時は、どのみち僕のムクで連絡船を抱えて、逃げ出してもらわなきゃならない。僕は少し考えて、イルマさんも同意見だったらしく、頷いてくれた。


「まあ、今回は良いよ。ただし小遣い出すから、大人プロの仕事をしな。できなかったら……」


「わかってるよ、イルマ。ちゃんと基礎訓練を最初から勉強し直す。戦闘になったら、お兄ちゃんにすぐ代わる。でしょ?」


「なら良い。しっかり異国のお嬢様たちを、エスコートするんだよ」


「はーい!!」


 すっ飛んでいくリアを追いかけて、パイロットスーツを着てムクの前まで来た。もう先に乗り込んでいると思ったけど、何故かリアは乗り込まないで、僕を待ってくれている。


「ちゃんとマドナグに言わないとダメだよ。黙って浮気すると、すぐねちゃうんだから」


「ははっ、女の子かよ?」


「そだよ、知らなかったの。あれ、言って無かったっけ?」


「え、…………マジ?」


 マドナグを振り返ってみる。ツインアイに、軽くノイズのような光が走った。僕の声に初めて反応してくれた。ちょっと嬉しいけど、え、マジなのか? 


 いや、センサーの形状とか、確かに女の子っぽいと言われればそう見える気もするけど、驚きの事実だった。



◇◇◇



了解アイコピー。ムク。リアとお兄ちゃ……ととっ、アロー機。出しま〜す!!」


「行ってきます。後をお願いします。皆さん」


「あいよ。気を付けて、発進どうぞ」


 リアと僕は落ち着いた様子で、先輩が発進したあと、通信オペレーター兼副艦長のヤズモートさんから案内を受けて、母艦アルカナクラスから飛び立つ。


 三時の方向。やや下方に、重巡洋艦ドルムが航行している。先輩が十一時方向から近づいて来た。


「じゃ、オレっちは後方の離着陸場ポートに居るから、よろしくな」


了解アイコピー……ひひひ、あんまりインテリオルさんと、いやらしいお喋りばっかりしちゃ駄目だよ?」


「おまっ、しねえよ! ったく……!!」


 リアがサブコンソールから、ドルムの回線を呼び出した。先輩と通信オペレーター代行のインテリオルさんが回線を繋ぎ、ドルムの離着陸場ポートに着艦許可を確認している。


 ドルムは二度の戦闘で、負傷兵がそれなりに出てしまっている。艦内は人手不足なので、インテリオルさんは自ら進んで、通信士の役割を引き受けてくれている。


 終わったようだ。ドルム後方下部の装甲が一部スライドし、離着陸場ポートを出してくれた。


「続きまして、リアお嬢さま、アローさま搭乗のM009。前方上部のポートへ、確認後、着艦を願います」


了解アイコピー。それじゃ、着艦後、警戒にあたりま〜す」


 フワッと柔らかく、寸分の狂いもなく正確に、ムクはポート中央に着艦した。他の大小の船もガイドビーコンを出している衛星に沿って、順調に航路を進んでいる。


「あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー、あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅー……」


 リアは鼻歌を歌いながら、走査波をムクから出したけど、六時の方向が少し混雑しているだけで、特に異常は検知できない。


 いつも通りリアと僕は、ヘルメットをうなじ部分だけ接続したまま、開放した。


「少しは慣れたかな。インテリオルさん?」


「お陰様ですわ。まだ色々と慣れておりませんが、微力を尽くさせて頂いております」


「まぁ、そんなに肩肘張らないでよ。戦闘ってわけじゃないからね。……インテリオルさんって、お兄ちゃんの事、好きでしょ?」


「ん、んんっ……!!?」


 またコイツは。いつものビョーキが先走ってやがる。インテリオルさんも困るだろうに、性悪めぇ。


「あげないよぉ。あたしがケッコンするんだもん」


「んんっ……んー……ええっと、宜しいかしら。お嬢様。女性にとって恋愛とは、とてもとても大切な物でございます。それを、実の兄上さまお相手にですわね、ふざけたような物言いは、いくらなんでもいささか……!」


「あ、血は繋がって無いよ。お兄ちゃんとは」


「え? あ、そ、そうなのですか。そうなのでございますね? で、でしたら、え。でもでも、その……ご、ご異性として?」


「慕ってるよ。もうずっーと片思い。酷いでしょー!!」


 かんべんしてくれないかな。これ向こうの艦橋の人たち全員聞いてるんだよね。控えめに言って死にそうな公開処刑だ。というか、なんでお前が若干キレてんだ。よし、ここはもう開き直ろう。いっそ、その方が良い。


「ハハハハハ。いつもの調子なんで、付き合ってあげてぇ下さぃ……」


「は、はぁ……? ふ、ふふっ、可愛らしい妹さまですわね……?」


「ハッハッハ。可愛いらしい妹さんじゃないか。なあ?」


 尻すぼみするような、乾いた笑い声しか出せねぇ。ライアン艦長や、インテリオルさんにも気を使わせてるじゃないかぁ、もう。 


「御託は良いもん。ねだってでも勝ち取らなきゃ、手を繋ぎ続けられないじゃん……」


「何言ってんだ。手なんてずっと握ってやるぞ?」


「…………そういうところだと思わない? インテリオルさん?」


「ああ。完全にご納得させて頂きましたわ。わたくしのお父さまも、御同輩なので」


 なんだ。何かインテリオルさんの声も、急激にすっごい冷たくなったぞ。リアも妙な威圧感を出し始めている。男として、とても理不尽な危機を感じる。僕が何したって……。


「リア」


「うん。航路上に殴り合ってる機体RFを確認。照準波は検知できず。……あー。競技用ホビー同士の喧嘩かな。トリコロールカラーのハデなのだし」


「ありゃこっちに気づいて無いな。先に行くわ」


「あ、は、はい。どうぞ。シデン様」


「リア。代わって」


了解アイコピー。……あんまり怖い人みたいにしたら、やだよ……?」


「できる方じゃ無いよ。良く知ってるだろ?」


「うん。わかってる、けど……」


 おかしい。リアが僕を怖がっている。そっか。本物の戦場、見ちゃったもんな。以前の彼女なら、戦闘じゃ無いもんとか言い訳して、飛び出していたかも知れないけど、そっか、うん。


「手は離さないよ。リア」


「うん。ゴメンね……」


 座席を交代して、久しぶりに愛機にまたがる。OS変更は無しで良い。集中して操縦すれば、僕でも動かせる。


「気にすんな、これは僕の仕事だ。行こう、ムク。リア」


 少し、割り切れない気持ちごと、操作レバーを強めに握り締めて、僕はムクを発進させた。



◇◇◇



 周りの船からもがぞろぞろと機体RFが集まって来たので、殴り合っていた二機は、ぎょっとして一時停止したあと、罰が悪そうに急いで喧嘩相手と共に、ガイドビーコンの向こう側に逃げて行った。


 通信によるとルトリックさんの予想通り、大きめの船の不調らしい。なかなか航路が混雑していたので、しばらく待つ事になったけど。無事、港の繋留場所ドッキングベイから、みんな下船することができた。


 それから数日をかけて僕たちは、マドナグの義勇軍への正式な登録手続きや、各機体・船体の全体整備オーバーホールや、修理に時間を費やしていた。


 マドナグは現在。イルマさんがドルム搭乗員達の協力を得て、様々な専門家スペシャリストたちと交渉して、基地内で彼らに分析されている。


「どうです。インテリオルさん?」


「………………あ。没頭させて頂いておりました。申し訳ありません」


 インテリオルさん個人の作業場パーティションは、少し用途の分からない機械で溢れていた。何度もノックしたけど反応が無かったので、申し訳ないけど勝手に入らせて貰った。


 聞けば、彼女は統和国の大学院生で、様々なOSプログラムを専攻していたらしい。その分野では、各国の専門家にも引けを取らないと、OS技師たちのチーフが自慢気に話していた。


「一部のプログラムだけでも、いったい何人、専門家スペシャリストを総動員すれば、こうなるのでございましょうかと、何度も口に出してしまいそうですわ……」


「そ、そんなに?」


「はい。概要をお話させて頂くと、既存の量産機や試作機とは、大幅に趣が違うように感じてしまうんですの。お調べ頂いている皆さまも同意見のようでして、本当にこんな物を、一体どこで……?」


「イルマさんがローゼス付近に流れ着いた、何かの艦船っぽい格納庫跡の中から見つけて、例の球体から出てきたんだけど……?」


「少々お待ち下さい……」


 インテリオルさんは端末を操作して、マドナグと緑の球体。通称グリーン・コアの解析結果をモニターに表示してくれた。


「チゲさまの内部調査で、この球体部分を上下左右、前後箇所の六つに、二メートルほどのグロームに干渉する子機が存在し、球形を形成……。さらには用途不明の機器も、内部にいくつか発見……」


 機体構成から調べた、総スペックも表示されている。全高18.6m。本体重量29.9t。出力3221kw。推力47,600kg×3。複合センサー有効半径28,600m。


 やろうと思えば短距離だけど、軽度のレーザーECM機能も展開できる。


 フレーム構造は、セミ・モノコック構造に近い。

 主な動力源は、常温原子式小型核融合炉。

 主な演算装置は、非ノイマン型の量子演算高性能コンピューター。別名、推論型ナビゲーション・コントロールシステム。


 主なOSはムクと基礎プログラムが同じ、グローム感応対応型の高性能AIシステム。内容は特にいじっていない。調整のみ。


 装甲材質。不明。色々調べたけど同じ物は見つからず。エスペランサに傷つけられた装甲を修理しようとしたけど、へこみ一つ付いていなかった。


 スペックだけ見ればセンサーも優秀で、むしろ大型の偵察・電子戦専用機に近い。でも、最初に思いっきり動かした時の出力は、間違いなくこの比じゃなかった。


「おそらく、高濃度のグローム干渉による。大幅なスペックアップが発生していると思われますわ。……これ以上は大型設備を有する、グローム専門の研究機関でないと……」


「なるほど……。うーん参ったなぁ。OSかAIから時間をかけて探れば、もう少し何か、分かるかと思ったんだけど……」


「あー……少しだけそこは判明しているのですが。そのー……、どうやら機体本体のAIから、リミッターをかけた状態で、この出力なようでして……」


 流石に絶句した。嘘だろ。詳しくインテリオルさんに解説してもらったけど、プログラム上では、確かに出力は絞られている。


 僕が全力でペダルを踏んでいても、マドナグにとっては、軽くジャンプしていただけに等しい。とてつもない、というか。


「ねえ。率直な感想を一つ良いかな。インテリオルさん?」


「たぶん。わたくしも同じ事を考えておりますが、どうぞ」


「これって人が乗れるように、想定してるのかな……?」


「プ、プログラム上では、立派な搭乗機であるはずなのですが……。恐れ入りますが、自信がございません」


 僕も同意見だ。自動AIのみの実験機を、ムリヤリ人が乗れるように改造したくらいしか、後は思いつきそうに無い。


「残りの手がかりは、感応しているらしき、妹さまの証言ですが……。そ、その……妹さまの事は、どう……?」


「え? マドナグとは仲いいみたいだよ。でも、なんでも分かるわけじゃ、なさそうだけど?」


「いえ、そちらではなく。……その。ひとりの男性として。アロー様が……」


  モニターに近づいていたので、肩が触れ合う。思わずドキッとして、彼女の物憂げな表情を、目の前でじっと見つめてしまう。


  もう一言。彼女が何かを言おうとした瞬間、モニターから突如として、騒がしい電子音が鳴りひびく。インテリオルさんはマウスを操作して、回線を繋げた。


「ごきげんよう。何かお急ぎのご用事でしょうか?」


「インテリオル様、そこにいらっしゃいましたか大変です!! レーザー通信で、リアルタイム映像です!!」


 送られてきた映像には、後ろ手に手錠をかけられた、数人が映っていて。


「え、……お、お父、様……?」


 切り替わった映像には、ドルムの姉妹艦ガリルを中心とした艦隊が、たった一機の機体RFに、次々に撃墜させられている映像が、映し出されていた。



────────────────────────────────



 今回のまとめ。

 ケレスはでかいな大きいな。マドナグは女の子。むしろ、ロールフッドは、みんな女の子……? たぶん。きっと、メイビー。


 リアちゃんはアローコン。二人は互いに脳を焼き合ってる。ブレインバーン。大気圏突入かな?


 喧嘩の威圧による仲裁。対処は物量と力ずくが一番。良くある事です。無事入港とマドナグの機種登録手続きへ。


 機械のオーバーホールって大事。ベテランだと、その後2、3回乗り回した方が良いと言う意見も。


 マドナグ君スペック詐欺惑が濃厚。チートですねぇ。まさかの統和国艦隊、敗北。インテリオル嬢のお父上の安否や如何に。




 マドナグ君は女の子かどうか。むしろロールフッドは女の子かどうか。現実の艦船とか、女性扱いが外国でも多いですよね。でもマドナグ君も困惑してそう。


 Thinker。良い曲です。イイキョクデスヨォ?


 ロールフッドは民間機も多く、生活に根ざしています。トリコロールカラーも人気で、若年向けや編隊航宙向けに、アセンブリーカラーとかもあったりします。


 義勇軍でも、場所によってはアセンブリーカラーを採用されていたりする場合も。連絡船や高速戦闘機も結構居ますけどね。


 やっぱりサポート戦闘機、あるいは小型艦艇みたいなのも、いつかネームドで出したいですね。でも、どんなのが良いかな。悩みます。


 あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!


 以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回は「リア」ちゃん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。


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 アロー「お前なー……」


 リア「何度もでも言うもん。お兄ちゃんが悪いんだよぉ(笑)?」


 アロー「このメスガキ……いつか仕返ししてやるからな、覚えてろ。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」


 インテ「えへへっ、よろしくね〜👋(ふりふり)」


 マドナグ「👋(無言の首傾げ)」


 次回は、世界が本格的な武力衝突へと発展。太陽系戦国時代へ。混沌のさなか、インテリオル嬢のお父様への救援は、間に合うのか。


 次回「開戦」……かつて、軍神と称された赤き星だからこそ。


 人は、過ちを繰り返す。

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