ケレス。大昔、地球圏の女神とか言う古い信仰対象から名付けられ、およそ月の1/3の大きさを誇るこの準惑星は、古くから資源採掘基地として発展している。
銀河宗教上の非交戦地帯である小惑星パラスと違い、歴史上何度か戦火に晒されたこの星は、現在採掘できる鉱石も無く。商業都市国家同盟の軍事・商業拠点として、
「見えて来たよ。公転周期が4年半もかかるから、ここに立ち寄るのも久々だねぇ」
「最後に来たのは、三年前だっけ?」
「そうだね。前にムクを見繕いに来た時だったな」
懐かしそうにイルマさんとリアは、一箇所だけ大きくしぼんだような、クレーターが見える
思えば、リアが初めてこの艦に乗船を許可されたのもその時で、その時のはしゃぎようと言えば無かった。何度も後ろから羽交い締めにして、そのまま艦内を練り歩いていたっけか。
「ん〜……こりゃ、なんかあったね。悪いけど四人とも、一応出てくれるかい?」
「分かるの、イルマ?」
「そろそろ通信が来ると思うけど、船頭出せって向こうからも言ってくるよ。港の光が荒れてやがる。ルトリックも分かるだろ?」
「そうっすね。見た感じ
舵を取りながら、ルトリックさんも、イルマさんと同じ意見のようだ。
「ムクじゃないと、ダメだよね?」
「ああ。マドナグじゃデカくて目立ち過ぎるし、周りも無駄に驚いちまうからね。何より欲しがる奴が出ると、一番上手くない」
「あたしも乗りたい! 乗りたい乗りたい乗りたい乗りたい乗りたいぃい!!」
リアがブリッジで駄々をこね始めた。こうなるから連れてきたくなかったんだけど、最近乗ってないのも事実だ。そろそろ慣らしはいるし、港の近くで飛ぶのも良い経験になる。
それに戦闘はできなくても、この艦が駄目になる時は、どのみち僕のムクで連絡船を抱えて、逃げ出してもらわなきゃならない。僕は少し考えて、イルマさんも同意見だったらしく、頷いてくれた。
「まあ、今回は良いよ。ただし小遣い出すから、
「わかってるよ、イルマ。ちゃんと基礎訓練を最初から勉強し直す。戦闘になったら、お兄ちゃんにすぐ代わる。でしょ?」
「なら良い。しっかり異国のお嬢様たちを、エスコートするんだよ」
「はーい!!」
すっ飛んでいくリアを追いかけて、パイロットスーツを着てムクの前まで来た。もう先に乗り込んでいると思ったけど、何故かリアは乗り込まないで、僕を待ってくれている。
「ちゃんとマドナグに言わないとダメだよ。黙って浮気すると、すぐ
「ははっ、女の子かよ?」
「そだよ、知らなかったの。あれ、言って無かったっけ?」
「え、…………マジ?」
マドナグを振り返ってみる。ツインアイに、軽くノイズのような光が走った。僕の声に初めて反応してくれた。ちょっと嬉しいけど、え、マジなのか?
いや、センサーの形状とか、確かに女の子っぽいと言われればそう見える気もするけど、驚きの事実だった。
◇◇◇
「
「行ってきます。後をお願いします。皆さん」
「あいよ。気を付けて、発進どうぞ」
リアと僕は落ち着いた様子で、先輩が発進したあと、通信オペレーター兼副艦長のヤズモートさんから案内を受けて、
三時の方向。やや下方に、
「じゃ、オレっちは後方の
「
「おまっ、しねえよ! ったく……!!」
リアがサブコンソールから、ドルムの回線を呼び出した。先輩と通信オペレーター代行のインテリオルさんが回線を繋ぎ、ドルムの
ドルムは二度の戦闘で、負傷兵がそれなりに出てしまっている。艦内は人手不足なので、インテリオルさんは自ら進んで、通信士の役割を引き受けてくれている。
終わったようだ。ドルム後方下部の装甲が一部スライドし、
「続きまして、リアお嬢さま、アローさま搭乗のM009。前方上部のポートへ、確認後、着艦を願います」
「
フワッと柔らかく、寸分の狂いもなく正確に、ムクはポート中央に着艦した。他の大小の船もガイドビーコンを出している衛星に沿って、順調に航路を進んでいる。
「あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー、あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅー……」
リアは鼻歌を歌いながら、走査波をムクから出したけど、六時の方向が少し混雑しているだけで、特に異常は検知できない。
いつも通りリアと僕は、ヘルメットをうなじ部分だけ接続したまま、開放した。
「少しは慣れたかな。インテリオルさん?」
「お陰様ですわ。まだ色々と慣れておりませんが、微力を尽くさせて頂いております」
「まぁ、そんなに肩肘張らないでよ。戦闘ってわけじゃないからね。……インテリオルさんって、お兄ちゃんの事、好きでしょ?」
「ん、んんっ……!!?」
またコイツは。いつものビョーキが先走ってやがる。インテリオルさんも困るだろうに、性悪めぇ。
「あげないよぉ。あたしがケッコンするんだもん」
「んんっ……んー……ええっと、宜しいかしら。お嬢様。女性にとって恋愛とは、とてもとても大切な物でございます。それを、実の兄上さまお相手にですわね、ふざけたような物言いは、いくらなんでもいささか……!」
「あ、血は繋がって無いよ。お兄ちゃんとは」
「え? あ、そ、そうなのですか。そうなのでございますね? で、でしたら、え。でもでも、その……ご、ご異性として?」
「慕ってるよ。もうずっーと片思い。酷いでしょー!!」
かんべんしてくれないかな。これ向こうの艦橋の人たち全員聞いてるんだよね。控えめに言って死にそうな公開処刑だ。というか、なんでお前が若干キレてんだ。よし、ここはもう開き直ろう。いっそ、その方が良い。
「ハハハハハ。いつもの調子なんで、付き合ってあげてぇ下さぃ……」
「は、はぁ……? ふ、ふふっ、可愛らしい妹さまですわね……?」
「ハッハッハ。可愛いらしい妹さんじゃないか。なあ?」
尻すぼみするような、乾いた笑い声しか出せねぇ。ライアン艦長や、インテリオルさんにも気を使わせてるじゃないかぁ、もう。
「御託は良いもん。ねだってでも勝ち取らなきゃ、手を繋ぎ続けられないじゃん……」
「何言ってんだ。手なんてずっと握ってやるぞ?」
「…………そういうところだと思わない? インテリオルさん?」
「ああ。完全にご納得させて頂きましたわ。わたくしのお父さまも、御同輩なので」
なんだ。何かインテリオルさんの声も、急激にすっごい冷たくなったぞ。リアも妙な威圧感を出し始めている。男として、とても理不尽な危機を感じる。僕が何したって……。
「リア」
「うん。航路上に殴り合ってる
「ありゃこっちに気づいて無いな。先に行くわ」
「あ、は、はい。どうぞ。シデン様」
「リア。代わって」
「
「できる方じゃ無いよ。良く知ってるだろ?」
「うん。わかってる、けど……」
おかしい。リアが僕を怖がっている。そっか。本物の戦場、見ちゃったもんな。以前の彼女なら、戦闘じゃ無いもんとか言い訳して、飛び出していたかも知れないけど、そっか、うん。
「手は離さないよ。リア」
「うん。ゴメンね……」
座席を交代して、久しぶりに愛機に
「気にすんな、これは僕の仕事だ。行こう、ムク。リア」
少し、割り切れない気持ちごと、操作レバーを強めに握り締めて、僕はムクを発進させた。
◇◇◇
周りの船からもがぞろぞろと
通信によるとルトリックさんの予想通り、大きめの船の不調らしい。なかなか航路が混雑していたので、しばらく待つ事になったけど。無事、港の
それから数日をかけて僕たちは、マドナグの義勇軍への正式な登録手続きや、各機体・船体の
マドナグは現在。イルマさんがドルム搭乗員達の協力を得て、様々な
「どうです。インテリオルさん?」
「………………あ。没頭させて頂いておりました。申し訳ありません」
インテリオルさん個人の
聞けば、彼女は統和国の大学院生で、様々なOSプログラムを専攻していたらしい。その分野では、各国の専門家にも引けを取らないと、OS技師たちのチーフが自慢気に話していた。
「一部のプログラムだけでも、いったい何人、
「そ、そんなに?」
「はい。概要をお話させて頂くと、既存の量産機や試作機とは、大幅に趣が違うように感じてしまうんですの。お調べ頂いている皆さまも同意見のようでして、本当にこんな物を、一体どこで……?」
「イルマさんがローゼス付近に流れ着いた、何かの艦船っぽい格納庫跡の中から見つけて、例の球体から出てきたんだけど……?」
「少々お待ち下さい……」
インテリオルさんは端末を操作して、マドナグと緑の球体。通称グリーン・コアの解析結果をモニターに表示してくれた。
「チゲさまの内部調査で、この球体部分を上下左右、前後箇所の六つに、二メートルほどのグロームに干渉する子機が存在し、球形を形成……。さらには用途不明の機器も、内部にいくつか発見……」
機体構成から調べた、総スペックも表示されている。全高18.6m。本体重量29.9t。出力3221kw。推力47,600kg×3。複合センサー有効半径28,600m。
やろうと思えば短距離だけど、軽度のレーザーECM機能も展開できる。
フレーム構造は、セミ・モノコック構造に近い。
主な動力源は、常温原子式小型核融合炉。
主な演算装置は、非ノイマン型の量子演算高性能コンピューター。別名、推論型ナビゲーション・コントロールシステム。
主なOSはムクと基礎プログラムが同じ、グローム感応対応型の高性能AIシステム。内容は特にいじっていない。調整のみ。
装甲材質。不明。色々調べたけど同じ物は見つからず。エスペランサに傷つけられた装甲を修理しようとしたけど、へこみ一つ付いていなかった。
スペックだけ見ればセンサーも優秀で、むしろ大型の偵察・電子戦専用機に近い。でも、最初に思いっきり動かした時の出力は、間違いなくこの比じゃなかった。
「おそらく、高濃度のグローム干渉による。大幅なスペックアップが発生していると思われますわ。……これ以上は大型設備を有する、グローム専門の研究機関でないと……」
「なるほど……。うーん参ったなぁ。OSかAIから時間をかけて探れば、もう少し何か、分かるかと思ったんだけど……」
「あー……少しだけそこは判明しているのですが。そのー……、どうやら機体本体のAIから、リミッターをかけた状態で、この出力なようでして……」
流石に絶句した。嘘だろ。詳しくインテリオルさんに解説してもらったけど、プログラム上では、確かに出力は絞られている。
僕が全力でペダルを踏んでいても、マドナグにとっては、軽くジャンプしていただけに等しい。とてつもない、というか。
「ねえ。率直な感想を一つ良いかな。インテリオルさん?」
「たぶん。わたくしも同じ事を考えておりますが、どうぞ」
「これって人が乗れるように、想定してるのかな……?」
「プ、プログラム上では、立派な搭乗機であるはずなのですが……。恐れ入りますが、自信がございません」
僕も同意見だ。自動AIのみの実験機を、ムリヤリ人が乗れるように改造したくらいしか、後は思いつきそうに無い。
「残りの手がかりは、感応しているらしき、妹さまの証言ですが……。そ、その……妹さまの事は、どう……?」
「え? マドナグとは仲いいみたいだよ。でも、なんでも分かるわけじゃ、なさそうだけど?」
「いえ、そちらではなく。……その。ひとりの男性として。アロー様が……」
モニターに近づいていたので、肩が触れ合う。思わずドキッとして、彼女の物憂げな表情を、目の前でじっと見つめてしまう。
もう一言。彼女が何かを言おうとした瞬間、モニターから突如として、騒がしい電子音が鳴りひびく。インテリオルさんはマウスを操作して、回線を繋げた。
「ごきげんよう。何かお急ぎのご用事でしょうか?」
「インテリオル様、そこにいらっしゃいましたか大変です!! レーザー通信で、リアルタイム映像です!!」
送られてきた映像には、後ろ手に手錠をかけられた、数人が映っていて。
「え、……お、お父、様……?」
切り替わった映像には、ドルムの姉妹艦ガリルを中心とした艦隊が、たった一機の
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今回のまとめ。
ケレスはでかいな大きいな。マドナグは女の子。むしろ、ロールフッドは、みんな女の子……? たぶん。きっと、メイビー。
リアちゃんはアローコン。二人は互いに脳を焼き合ってる。ブレインバーン。大気圏突入かな?
喧嘩の威圧による仲裁。対処は物量と力ずくが一番。良くある事です。無事入港とマドナグの機種登録手続きへ。
機械のオーバーホールって大事。ベテランだと、その後2、3回乗り回した方が良いと言う意見も。
マドナグ君スペック詐欺惑が濃厚。チートですねぇ。まさかの統和国艦隊、敗北。インテリオル嬢のお父上の安否や如何に。
マドナグ君は女の子かどうか。むしろロールフッドは女の子かどうか。現実の艦船とか、女性扱いが外国でも多いですよね。でもマドナグ君も困惑してそう。
Thinker。良い曲です。イイキョクデスヨォ?
ロールフッドは民間機も多く、生活に根ざしています。トリコロールカラーも人気で、若年向けや編隊航宙向けに、アセンブリーカラーとかもあったりします。
義勇軍でも、場所によってはアセンブリーカラーを採用されていたりする場合も。連絡船や高速戦闘機も結構居ますけどね。
やっぱりサポート戦闘機、あるいは小型艦艇みたいなのも、いつかネームドで出したいですね。でも、どんなのが良いかな。悩みます。
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以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回は「リア」ちゃん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。
PC版の場合は、次の手順です。
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3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。実際に、泣いたほど喜んだ事あります。
アロー「お前なー……」
リア「何度もでも言うもん。お兄ちゃんが悪いんだよぉ(笑)?」
アロー「このメスガキ……いつか仕返ししてやるからな、覚えてろ。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」
インテ「えへへっ、よろしくね〜👋(ふりふり)」
マドナグ「👋(無言の首傾げ)」
次回は、世界が本格的な武力衝突へと発展。太陽系戦国時代へ。混沌のさなか、インテリオル嬢のお父様への救援は、間に合うのか。
次回「開戦」……かつて、軍神と称された赤き星だからこそ。
人は、過ちを繰り返す。