先に事実だけを述べれば、地球圏と宇宙圏の両者は、本格的な武力衝突へと、発展した。
星間宗教上の非交戦地帯である小惑星パラスが、封鎖連盟率いる地球圏艦隊と衝突。これをパラス防衛軍は、終始優勢に撃退。
しかし、火星圏防衛軍は、宣戦布告と同時に封鎖連盟の大艦隊による奇襲を受け、辛くも撤退。
そして、各地で同時多発した、各国要人暗殺。誘拐事件を、
元ランカーエース
これら四つの事態を重く見た統和国と各コロニー国家。パラス。ケレス。火星圏防衛軍。ローゼスを含む商業都市国家同盟。そして、
物量と
再び、
「ベスタ、ジュノーも戦力を出すと表明した。これで、巻き込まれて無い場所は、木星圏より向こう側だけって事だ。くそったれぇ……」
僕と先輩は
「今日まで続く
車載テレビからは、先日宣言された、封鎖連盟代表からの宣戦布告が報じられている。
内容は、まあ、よくある相手の歴史的汚点を蒸し返して、つらつらと自分たちの正当性を述べている。でも、敵である僕たちには、酒場の野次と大差がない。
人は、過ちを繰り返す。
要は相手の持っている物が欲しい。奪いたい。自分たちは正義だ。優劣をつけたい。お前たちは負けるべきだ。勝つのは我々だ。下らない事にそんな事を飽きもせず、繰り返している。
僕たちの家であり、会社であるイルマ・コンツェルンは商業的なつながりも豊富で、戦力だってそれなりに保有している。戦争への準備は、まさに戦火に焼かれるように、忙しい。
「ちゅかれたぁぁ……もういっそのことぉ、私のこと女として抱けよぉ、アローぉぉ……」
「はいはい。前向きに考えてあげるから……」
「よーし、インテリオルちゃんのとこ、お手紙貰ったし、お見舞いくどぉー……」
「その前にちゃんとご飯食べて、5分で良いから寝てよ。その調子じゃ会えないよ?」
「むぅううううりぃいい、食べさせてぇぇ……」
「はいはい……」
「いやぁらしくぅぅ、マッサージしてぇぇ……」
「はいはい。ほら、食べて」
「抱けよぉぉ……むぐっ」
連日この調子で、いい加減僕も先輩も慣れて来た。色っぽくガバッと胸元開けて、ブラもチラッと見えるけど、本人の態度で台無しになっている。もっとも、今日が予定では最終日だったから、そのせいもあるんだろうけど。
とりあえず美味しいソラダイコンと、ジューシーなケレス鶏のお弁当セットを口に突っ込んで、寝そべっている腰を強めに揉んであげた。ガッチガチだ、疲れてるんだなぁ。
「ねえ、リアはどうするのさ?」
「連れてくっきゃねだろ。傭兵崩れどもがお偉いさんかっ攫った前例が目の前にある以上、いつ同じことしに来るか分かったもんじゃねえ。オレっち達自身で守るっきゃねえじゃん?」
「あー……
「り、離反者なのに、ソンブレロ師団が雇うの。イルマさん?」
「お金を払えばリーズナブルにお客ぅさんだぞぉ。表向きは公表しないだろうがなぁ、絶対に雇ってるヤツいるって、賭けても良いぃ、もうちょい右ぃ」
「まぁ、いつでも移動できるように、
「問題は、インテリオルさんか……」
インテリオルさんの父、ジョナサン・ザオ・インテリオル氏は、依然として敵の捕虜になっている。彼は殺害を声明されてはいないが、現在どこに収監されているのかは、不明だ。
インテリオルさんは、艦隊撃墜の映像を目にした直後にショックで気を失ってしまい、それ以来ずっと気落ちしている。
各勢力の軍上層部は、火星の軌道エレベーター内に、人質として収監されている可能性が高いと予測していた。
「彼女も事情は変わんねえ。コロニーへのランデブー便は、火星圏を通らなけりゃならん。ここに残るより、前線に近づいた方が安全度が目に見えて高いとか、悪い冗談にも程があるぜ……」
「力が無ければ守れない、か」
第三師団艦隊所属、重巡洋艦ドルムは、本国との交渉の末。僕達と同じ艦隊に一時的に編入される事になっている。
ドルムが向こうで本国の艦隊と合流するには、ランデブーポイントが合わず、開戦に間に合わないと判断しての決定だった。
「寒い時代になってきちまったな。たくっ……!」
「どうすっかなぁぁ……」
「何が、イルマさん?」
「ぐぅ……んがっ」
何か悩んでるみたいだけど、飲ませた睡眠ドリンクが効いたみたいだ。イルマさんは目も
僕は
◇◇◇
警備の女性たちに挨拶して、軽い身体検査を受けて、彼女の部屋のドアをノックした。返事は無く、部屋に入ると、彼女は端末を手に窓の向こうを眺めていた。
「やあ、元気そうだね。インテリオル嬢」
「皆さん……。はい、お陰様で……ごきげんよう、です」
「何を見ていたの、インテリオルさん?」
「先日大破した駆逐艦の調査記録です。もう、ご覧になりましたか?」
「まだだ、見せてくれるかい?」
インテリオルさんは端末を操作して、モニターに調査記録を表示してくれた。僕の撃墜した艦内には、人間の死体は確認できなかったと表示されている。
「予想通り、だね……」
火星圏やパラスを攻めた者たちも、捕虜は居るけど揃って口を閉ざしている。兵士が消失する原因は、未だ持ってどの勢力にも判明できていない。
「皆様に折り入って一つ、お願いがございます」
「良いよ。言ってご覧?」
「どうか、父の救出に皆様のお力を、お貸し下さいませんか……?」
折り目正しく、深々と彼女は僕たちに頭を下げ、僕は目で問うイルマさんに、少しだけ頷いた。
「それは、ご自身で銃を手に取り
「はい。わたくしも、統和国の女です。屈辱と仲間の無念は、わたくし自ら。晴らさせて頂きます」
「良いよ、力を貸そう。こっから先は
砕けた調子でイルマさんは手を差し出した。僕も先輩も深く頷いて、賛同を示した。
「そうと決まれば、……悩んでたが、私も覚悟を決めよう。コイツを見てくれ」
「これは……?」
イルマさんが古風な茶封筒から取り出したのは、複雑なグラフが書き込まれた、紙媒体の資料だった。
「
「テレメトリーって、なんだ?」
「パフォーマンスの解析結果……この場合は、パイロット固有のバイタルサインに近く?」
「そう。連中のデータベースの中で、96%一致するデータは、過去に一人だけ。…………私の。リアの父親を死に追いやった、クソヤロウだよ」
「なっ……!?」
添付された画像の元には、元ランカーエース
僕でも知っている。
「リアに話すか話さないかは、任せる。でも可愛い娘なんだ。傷つけないように頼むよ」
「そりゃ、そうしますが。イルマ様……」
「重々承知いたしました。……この資料は、お借りしても?」
「全員。隅から隅まで頭に叩き込んだら燃やしてくれ。持ってるだけでもヤバいもんだ。今回は、あたしにとっても復讐になるかも知れない。その事を忘れんでくれれば、良い」
「うん……」
顔を曇らせたイルマさんは、僕でも見たことのないような、冷たい表情をしている。インテリオルさんは、資料を厳重に電子鍵付きのアタッシュケースに保管した。
「……名前。もう、ノアとお呼び頂ければ幸いです。近しい方たちは、そうお呼びしますので」
「ん、分かった。ではまた、出発の時に……ノア」
「はい。皆様のご武運をお祈りいたします。ごきげんよう」
僕たちはノアを後にして、部屋から退室した。再び身体検査を受けて、
「アロー、シデン」
「なんスか?」
「強い子だ。守っておやり」
「もちろん。誰にもやらせやしませんよ」
「わかってる。必ず守り抜くよ」
資料のヤツが出てくるかは不明だけど、ノアからは、少し危うい物を感じる。過去の因縁もあるけど、元より誰にも殺されるつもりは無いさ。
◇◇◇
火星。地球圏では、軍神マルスと言う古い信仰対象だった、歴史上初めて人類が、テラフォーミングに完全成功した惑星。
現在では地球での環境崩壊を反省し、地表は放牧的な大農産地であり、数多くの有名な観光地も、かつては備えていた歴史を持つ。
時代が移り変わり、かつての旺盛は無くなり、今では鉱物資源や物資を軌道上エレベーターで送り出し、二つの軌道軍事衛星。ダイモスとフォボスを支えている。
〝では、もう一度各機搭乗前に、説明しよう。我々の担当はフォボスなわけだが。今回は、味方が軌道上エレベーター「マリナ」を取り戻すまでの支援となる〟
「一点突破後に、波状攻撃作戦と言うわけだね?」
「そうだアロー。本隊である勝手知ったる火星軍主力艦隊が先導し、一点突破で最も外周のダイモス。次にフォボスの順で蹂躙。しかる後に、殿をパラス防衛軍を中心にダイモスで、そして我々がフォボスを確保しつつ戦力を誘導・護衛。すべてを制圧する。と言うわけだ」
「中継点の確保か。退くにも押すにも厄介ではあるが、精強なパラスたちが、ケツ持ってくれんのは良いな」
「元パラスの民としては、そこんとこどーだい? スーズ?」
「古馴染みは、連中を許しはしないでしょうな。仮にも聖パラスの制宙権に銃を向けては……」
カニンガムさんも、スーズさんも作戦には全面的に賛成のようだ。僕も外周を二つの軍事衛星で守られている火星に対しては、これしかないと思う。
「イルマ様。味方の
近距離レーザー通信で、ブリーフィングに参加していたノアが質問した。場合によっては裏切るかも知れない
「我々の持ち場には居ない。居るとすれば警戒してくれ。戦史上、稀に見る作戦ではあるが、我々なら十分勝ち目のある戦だ。各位の奮戦に期待する」
「彼我の戦力比は、三対二以上……勝てる、とは思うんだけどな」
敬礼を捧げ、みんなとブリーフィングルームから出る。案の定リアが聞き耳を立てていて、僕と目が合って、すぐにその場を一目散に逃げ出した。
「わっ……わわっ!?」
「こらっ……あんまり、引っ張られるような事を……!」
「言ってやるな、ずっと不安だったんだよ」
「だけど、先輩……」
「まあ、例の件もある。時間は無いが、もう少し言葉をかけてやれ、アロー」
格納庫に急ぐ。パイロットスーツを着たリアが、マドナグの前で待っていた。腰には以前無かった、レーザー短銃を帯びている。
それが、少しだけ哀しい。
「乗るって言っても、開けてくれないや。ははっ……」
「そりゃそうだろ。覚えてるか。それの使い方?」
「うん……訓練したし、使う時は絶対に躊躇わない。ためらえないよ……」
パイロットスーツの表示から確認。まだ乗り込む前に、時間はある。……リアが喧嘩ではなく、相手に対して、殺害に繋がる行動ができない理由。当然だろう。
彼女ほどのグローム能力やセンスを持つと、相手の痛みや、どこをどうすれば殺害できるか、すべて理解して、殺害に及べば100%確定するように感じてしまう。
とても13歳のただの女の子に、耐えられて良い物じゃない。才能が、人を幸せにするとは限らない。ましてできるからこそ、酷く後悔を生み出し
だから僕ができる最大限の事で、彼女を励まそう。
「リア。帰ってきたら、昔みたいにキスしてやるよ」
幼い頃の話だ。幸せだけしか知らなくて、小さなリアが可愛くて可愛くて仕方が無かったあの頃。僕は結構なキス魔で、友達やリアやのほっぺに、キスばかりしていた思い出がある。
リアの顔が、一気に赤くなって。面白いな。
「ふ、ふわふわしてる……」
「そりゃ無重力だが……ま、心配するな。そろそろ時間だ。お前もしっかりな?」
「うん。ハンバーガー。また持ってくる……」
頭から湯気でも出しそうなリアを見送って、マドナグに乗り込んで発進準備を整える。僕が操作する前に、ハッチが勝手に閉じていく。どうやら、マドナグも相当やる気のようだ。
「聞こえるかアロー」
「聞こえるよ。チゲさん」
「よし、今回はお前さんの注文通り、弁当と
「了解。……今回もよろしくな。マドナグ」
周波数を広域受信に。ノアから通信が入っている。
「アロー様。誠に勝手ながら、再び、流れ星のようなご活躍を、ご期待させていただきます。……ご武運を」
「了解。ありがとう。……ノア」
「各機、カタパルト射線再確認せよ。整備兵は退避急げ。射出、1分前!!」
発進準備が完了すると同時に、先輩のムクがカタパルトに乗り込んだ。相変わらずチゲさんに離れるように言っている。
「シデン・ヘンリック。M008、行きます!!」
「進路クリア! アロー機! 発進どうぞ!!」
「了解。アロー機。マドナグ。出しますッ!!」
ここに、かつては赤き星に立ち、天を支えた御柱を巡る戦いの幕が、切って落とされようとしていた。
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今回のまとめ
世はまさに、太陽系戦争時代。まあ、木星圏から向こうは、ノータッチですけが。遠すぎるから仕方ないね。
支社長イルマさん。ダメダメイルマさんになる。中間管理職って辛いよね。めっちゃ交渉とか頑張った。わりと若年層には見せられない部分も多いので、無慈悲にカットカット。
インテリオル嬢ことノア。戦って父を奪還する決意を抱く。
実は昔キス魔で、今ではすっかりリアコンなアロー君。罪作りな男です。そういうトコだゾ。
一行は火星へ。一点突破作戦の進路確保と護衛へ出撃。
軍神マルスの下で。好きなガンダムの副題の一つです。F90の副題の一つでしたかね。確か。
あと、一点突破作戦も好きです。ビッテン突破とか、ロマンですよね……。
戦闘航宙機どうしよっかな……。続編では絶対出そうと思うのですが、好みがギャプラン改とか、いっそビグロとかなんですよね。何かピンと来るような機体は、ないものか……。
では、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!
以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回はインテリオル嬢あらため「ノア」さん「マドナグ」の一言と、次回予告です。
PC版の場合は、次の手順です。
1・目次ページ下部の★123などと表示された、青い星と数字の項目をクリックする
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3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。実際に、泣くほど喜んだ事あります。
アプリ版の場合は、次の手順です。
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✻注)PC版のように、★123などと表示されたアイコンをタップしても動きません。ご注意下さい。
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3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。実際に、泣くほど喜んだ事あります。
アロー「ドルムは通信オペレーター、多いんだっけ?」
ノア「そうでございますね。5名様ほどお勤めしていまして、わたくしの担当は、船外戦力様への通信連絡でございます」
アロー「頼りにしてるよ。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」
ノア「ふふっ、よしなに👋(ふりふり)」
マドナグ「👋(無言の…………)」
次回は、一点突破作戦へと雪崩込みます。兵は詭道なり、兵は拙速を貴ぶ。激戦区の中で、人々は、過ちを繰り返す。
次回「狂走」……狂うは銃か、人か、戦場か。