先日の激しい戦闘のせいだろう。外は暗礁宙域ほどじゃないけど、思ったよりもずっと細かいデブリに溢れている。戦闘艦の残骸や、
撃墜、三機。深呼吸。
最も左翼に展開した僕たちは、無人突撃艇の
「駆逐艦イサミマル被弾! 推力20%低下! 隊列を離れます!!」
「アンチレーザー爆雷投下!!
「なんとしても取り付けぇえ!! 我らが
「クソッ頼む! あと二機で
目の前で生命がやかましく、レーザー火線と爆発に消えていく。敵機を追い回して背中から追い詰め、弾を打ち込む。振り向いたら負けの、熾烈なデッドヒート。
また、残弾1。補給に戻ってみんなは居ない。僕と先輩だけ、距離300、二時上方。パラスの
「いけないっ、前に出ます!!」
「や、やれたっ!! しまった、シールドのエネルギーが!!?」
「あ、おい!? アロー!!?」
味方がやられるッ!! 最後の一発を牽制に、味方機の背後から近づく敵機の足を止めて、
「そこっ!!」
大きく拡大してく背部を目がけて、腕にマウントしたシールドから、
「やぁあああああッ!!」
胴体から、横薙ぎに真っ二つ。
撃墜、四機。照準波ッ!!?
「迂闊だぞ引けッ!! 二人ともぉ!!」
先輩の青いムクが、両肩に装備した
ひとつ、ふたつ、迎撃された。みっつ。流石は我が社の
「射線通りました!! 八秒後に一斉射!!」
「くそッ!! バカほど高いんだぞ、今の弾ぁッ!!!」
「味方の一斉射が来ます、退いて下さい!!」
「りょ、了解!!」
先輩に謝る暇もない、5、4、3、2、1。
「一斉掃射ぁ!! 撃てぇーーー!!」
0。閃光の向こう、敵艦が何隻もレーザーに飲まれていく。巻き込まれず退避できなかった敵機も、散り散りに後退。本体である火星軍が、僕らを追い越してフォボスへと向かっていく。
「よし、本隊はフォボスへ行ったな。アローとシデンを呼び戻せ、我々も前に出る!!」
やっとか、かなり粘った。撃破数はこれで、計二十機前後か。帰還シークエンスを選択。すれ違いざまにカニンガムさんとスーズさんが出撃して、僕たちは
格納庫内はまるで、ハチの巣を刺激したかのように騒がしく、整備士やエンジニアたちが急いで飛び回っている。整備用ハンガーに置かれたマドナグは、減少した推進剤とレーザー・ライフルのエネルギーパックを補充していた。
「補給急いでくれ、親父!!」
「わーッとる、調整は!!?」
「このままで良い、接地のプログラムだけ先にくれ!!」
「お兄ちゃん、ハンバーガー!!」
「助かる!! チゲさん、逆噴射時間を+3に、追従を−1、今日は少し敏感過ぎる!!」
マドナグの反応がシュミレーターよりもかなり早い。敏感すぎるように感じる。ハード面での調整が必要になるかもしれない。
「心得たっ……あん? もう済んでるぜ、次だ次!!」
チゲさんは不思議そうな顔をしながら、慌てて次の作業に取りかかった。マドナグが自分で調整してくれたのか、助かる。リアから受け取ったハンバーガーを急いで食べる。
「……………………?」
「どうした、リア?」
「キモチち悪い。なんか、イヤなのに、見られてるよ……?」
「何? ……どの方角だ?」
リアは寒気を覚えるように震えて、口元を押さえながら指をさした。その方向をマドナグのAIに調べさせると、彼女が示したのは、これから攻めるフォボスの方角だった。
「イルマさん」
「聞いているぞ、アロー、リア。必ず留意しよう。それと……」
「まだ良いよ。みんな頑張ってる。気持ち悪くても、頑張らないと。まだ乗らないよ。イルマ」
「無理しなくて良い。……危ないと思ったら、いつでもムクに乗り込みなさい」
「うん。分かった」
ムクには星のような機能があり、最低限、単独で数年、人間ひとりが生活できる備えがある。冷却材を利用した緊急冬眠装置もあるし、その間に有用なデブリでも捕まえれば、もっと長生きできる。
丈夫さは戦闘用だから、言うまでもない。
たとえこの艦が誘爆を始めても、乗り込んでさえいれば、リアが生き残れる可能性は高い。
リアの悪寒に一抹の不安を覚えながら、それでも僕は先輩と、再び戦場へと向かった。
◇◇◇
視界には赤褐色の大地が広がり、緑色ではなく、初めて目にする青い海と空が広がる惑星。僕たちは火星を見下ろしながら、軍事衛星フォボスの地表に到達した。
「よし、艦をここに固定。本隊が目標地点に到達するまで、
受信を繋ぎ、
「シデン、アメリアは弾薬の集積所を後方に頼む。デブリの影だ。間違っても熱源反応の近くに作るなよ」
「了解!!」
「無人機と合わせた、こちらからの観測データ、送ります!」
マドナグのセンサー有効半径はかなり広い。念のため送られてくる無人機との情報照合のために、データを
敵影は発見できない。おそらく先発隊である
僕たちの後方を、予定通り無傷の艦隊が航行していく。多くの増援が集まっている。だからこそ、敵の襲撃が考えられる。
「よし、このラインに防衛網展開。全機データ受領しているな。デブリにも必ず目を付けろ、先日の戦闘の跡だ、誘爆もあり得る。慎重に防衛を開始せよ」
「…………っ! いけない、避けてぇえ!!」
通信から叫ぶリアの声。闇が裂け、閃光が走る。
「っ、浮上ッ!! 急げ!!!」
「なんで……どこからッ!!!?」
赤黒く渦巻く光の奔流が、何条もの
味方艦隊の一斉射より、明らかに強力な一撃。余波だけで
絶叫、悲鳴。振り返ると、フォボス全体に亀裂が走って、無傷だったはずの艦隊は、爆発と共に
◇◇◇
「何を、撃ち込んで来やがった……!?」
「ひ、怯むなッ!! もう我らが
「ドルム両舷リアクター破損!! エンジン出力急激に低下!? ダメです、これ以上航行できません!!」
「ライアン艦長……!」
けたたましい警告音と弾ける電子音越しに、ノアの悲鳴交じりの通信。同時に、全域通信で、ライアン艦長から通信が入った。
「申し訳ない、本艦の大きさがアダになったようだ。是非もない、本艦はここで砲台になる。……守りは要らん、押し返せ!!」
「ちっ、また大当たりを引いちまったかい……ルトリックッ!!!」
「あいよぉ!! 十時方向、両舷全速ッ!!!」
「無人偵察機の穴を辿れ、そこに戦略兵器が確認できるはずだ!!」
「E02からE16まで、当該宙域の観測データ、送ります!!」
──────── 見つけた。
宙域に分布している無人偵察機のデータと合わせて、発生源はひとつだけ。間違いない。フットペダルを蹴飛ばして、デブリの間をかいくぐる。
もう一度走査波をアクティブ。カニンガムさん達も見つけたようだ。
「
「またアイツか、カーヴォン……!」
「また、キミですか、亡霊……!」
流石に今回は、前回も含めて言いたい事が多すぎる。レーザー・ライフルの射線を探りつつ、コンソールを操作して、
「カーヴォン貴様ァ!! このっ、戦争犯罪者風情がぁっ!!!」
「違約金は既にお支払い済みですよぉ!!! その節は大変お世話をかけ……!」
「匂う、匂うぞぉ……!」
レーザー火線がまったく見当違いの方角に伸びていく。バカな、今照準波無かったぞ? マドナグのAIも、解析不能を示している。
「グリント!! グリントじゃないか!! グリントがいっぱいだ!!!」
「は? コイツ、何を言って……!?」
照準波どころかガトリング・レーザーの射線も無茶苦茶に、一機がわけの分からない事を叫びながら、僕に突っ込んで来る。
グリント、グリント・シーカー、リアの父親の
ああ、
「IFF確認!!
「ええい、だから彼と組むのはイヤなんですよぉ……!」
赤熱し、円形にレーザーで破壊されたデブリの隙間から、中央部が外れている巨大なレーザー……いや、プラズマ収束砲が見える。
メインモニターに解析警報、赤熱している中央部を直接交換することで、巨大プラズマ粒子を射出可能な兵器。あれを再び撃たせるわけにはいかない。
「狂人に構うな、スーズと俺がエスペランサを抑える!! なんとしても、デカブツを破壊しろッ!!」
「たったの二機で」
カニンガムさんとスーズさんが先行。上手い。狂い撃ってるヤツの弾幕を逆に利用して、完全にエスペランサの死角に出られる位置を取った。
「私を、抑える?」
二機のどちらかに対応できても殺し間だ。あれならリアでも、どう足掻いても抜け出せない。エスペランサは撃墜……。
「────── 舐めるな、
「う、おぉおおおおおおおおッッ!!!?」
光の束が、エスペランサの両肩から。
観測できただけで、八本。折れ曲がるレーザーが、まるでムクを舐め上げるように、嫌味なくらい、ゆっくりと迫って破壊していく。
以前見た口と舌付きの武装。ホーミング・レーザーとでも言うのか。
なんだ、アレは。気持ち悪い……!
「カニンガムさん!? スーズさん!?」
「ほう、直撃をこの距離で避けますか。ですが、勘違いしてもらっては困ります。舐めるだけの実力があるのは、常にこちら側です。行きますよ、ローゼッキ」
「ハハァハーハァー!! グリントに一番乗りィイイッッ!!!」
戦力比、敵機は五機、こっちは手足を小破二機と五機。冷静になれ、
射撃の安定性や、重力下のホバリング、壁に張り付きなどで遠距離に有利な性能、弱点はエネルギー効率の悪さ、装甲の薄さ、ならば。
「お前から、
「っ……ホホ♡」
乱射が厄介すぎる。これじゃ味方もデカブツに取り付けない。十二時方向正面。接近して、捕まえてしまえば……!
「そう、思うだろ?」
「なにッ……!?」
完璧に捉えた
「グリント驚いたぁあ!? 俺もできるようになったんだぜぇえ!?」
「アローッ!!!」
先輩の
マドナグのAIから、炎色反応走査結果……四脚にスペクトラム反応。……そうか、多脚。奴め、足を折り曲げて、的確な位置に姿勢制御バーニアを、全開で展開したな?
「味に過ぎるマネを……!!」
「お、分かるのか、さっすがグリント!!」
「うるさい!! 嬉しそうにぃい、戦うなぁああッ!!!」
どうする。手数を増やしても、あれじゃロックオンしても、入射角が取れるかどうか。もうすぐ先輩の
「さぁ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞぉおお!!?」
「バカ待ちなさい、まだ前に出ては……!」
プラズマが晴れるのを待たず、
「ハッハー!! これで終わりだ、グゥリィントォオオオオオオ…………おぉ?」
ヤツが四脚でまとわり付き、ゼロ距離で無茶苦茶にガトリング・レーザーを浴びせていた物。それは、マドナグの背に装備されて切り離した、
……かかった。
「人違いどころか、人ですら無いぞ。気狂いめ」
直下。レーザー・ライフルの発射口をデブリの台座で支えにして、ファールオフのコックピットを、確かに撃ち抜いていた。
────────────────────────────────
今回のまとめ。
火星軌道エレベーター奪還作戦。発動。繰り返し出撃して、戦線を維持へ。本隊はフォボスへ。
フォボス制圧後、その場で味方増援艦隊の援護へ。兵はタフでなければ務まりませんね。
まさかの大規模戦略兵器。それも、
再びカーヴォンと再戦。カニンガムとスーズさん。ベテラン二人、中破。相手の様子もおかしい。
ローゼッキ。高い技量を示すも囮に捕まり、あえなくアロー君に撃墜される。
連続出撃の消耗戦。大規模戦闘だと、そこそこ発生する削り合いですね。いのちのかがやき。実体剣と、粒子剣ならどっちが好みかだと、私は両方好きですね。
シールドを支えにする、輝き撃ち。大好きなんですよね、つい思いついて、デブリでやっちゃいました。カーヴォンもやっぱり強いです。
アニメでry(5回目)。
ピンチですね。ただでさえ収束砲二発目来たら、終わっちゃうんですから。
さて、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!
以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回は先輩こと「シデン」くん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。
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アロー「カニンガムさんと、スーズさん。タフ過ぎる問題」
シデン「それな。俺たちより出撃時間も長くて、回数も多いもんな」
アロー「流石はベテランだよね。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」
シデン「よろしくな〜👋(ふりふり)」
マドナグ「⚔️(得意げにマテリアル・ブレード)」
次回は再び🆚カーヴォン戦。圧倒的技量差の前に、強引なリミッターなしのマドナグに、アロー君はついていけるのか。
次回「狙撃」……狙い貫く。たとえ、その瞳に見えずとも。