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第9話 「狂走」

 先日の激しい戦闘のせいだろう。外は暗礁宙域ほどじゃないけど、思ったよりもずっと細かいデブリに溢れている。戦闘艦の残骸や、機体RFの残骸。その影から敵を狙い撃つ。


 撃墜、三機。深呼吸。


 最も左翼に展開した僕たちは、無人突撃艇の荷電粒子プラズマミサイルで血路をじ開け、軍事衛星ダイモスを制圧し、戦線を押し上げていた。


「駆逐艦イサミマル被弾! 推力20%低下! 隊列を離れます!!」


「アンチレーザー爆雷投下!! 荷電粒子プラズマミサイル再装填急げ!!」


「なんとしても取り付けぇえ!! 我らが火星こきょうを取り戻せぇえッ!!」


「クソッ頼む! あと二機で撃墜王エース。どっち道なぁあ、死んでくれやぁッ!!!」


 目の前で生命がやかましく、レーザー火線と爆発に消えていく。敵機を追い回して背中から追い詰め、弾を打ち込む。振り向いたら負けの、熾烈なデッドヒート。


 また、残弾1。補給に戻ってみんなは居ない。僕と先輩だけ、距離300、二時上方。パラスの味方機イヴェヤが飛び回って接近し、敵機エズを斬り裂いて。


「いけないっ、前に出ます!!」


「や、やれたっ!! しまった、シールドのエネルギーが!!?」


「あ、おい!? アロー!!?」


 味方がやられるッ!! 最後の一発を牽制に、味方機の背後から近づく敵機の足を止めて、火器管制FCS表示から、実体剣マテリアル・ブレードをッ!!


「そこっ!!」


 大きく拡大してく背部を目がけて、腕にマウントしたシールドから、ブレードを引き抜いて、すれ違いざまに叩っ斬るッ!! 


「やぁあああああッ!!」


 胴体から、横薙ぎに真っ二つ。

 撃墜、四機。照準波ッ!!?


「迂闊だぞ引けッ!! 二人ともぉ!!」


 先輩の青いムクが、両肩に装備した荷電粒子プラズマロケットランチャーを、次々に撃ち込んでいく。


 ひとつ、ふたつ、迎撃された。みっつ。流石は我が社のおろしたて最新鋭兵器。容赦が微塵も無い。


「射線通りました!! 八秒後に一斉射!!」


「くそッ!! バカほど高いんだぞ、今の弾ぁッ!!!」


「味方の一斉射が来ます、退いて下さい!!」


「りょ、了解!!」


 先輩に謝る暇もない、5、4、3、2、1。


「一斉掃射ぁ!! 撃てぇーーー!!」


 0。閃光の向こう、敵艦が何隻もレーザーに飲まれていく。巻き込まれず退避できなかった敵機も、散り散りに後退。本体である火星軍が、僕らを追い越してフォボスへと向かっていく。


「よし、本隊はフォボスへ行ったな。アローとシデンを呼び戻せ、我々も前に出る!!」


 やっとか、かなり粘った。撃破数はこれで、計二十機前後か。帰還シークエンスを選択。すれ違いざまにカニンガムさんとスーズさんが出撃して、僕たちは母艦アルカナクラスに帰還した。


  格納庫内はまるで、ハチの巣を刺激したかのように騒がしく、整備士やエンジニアたちが急いで飛び回っている。整備用ハンガーに置かれたマドナグは、減少した推進剤とレーザー・ライフルのエネルギーパックを補充していた。


「補給急いでくれ、親父!!」


「わーッとる、調整は!!?」


「このままで良い、接地のプログラムだけ先にくれ!!」


「お兄ちゃん、ハンバーガー!!」


「助かる!! チゲさん、逆噴射時間を+3に、追従を−1、今日は少し敏感過ぎる!!」


 マドナグの反応がシュミレーターよりもかなり早い。敏感すぎるように感じる。ハード面での調整が必要になるかもしれない。


「心得たっ……あん? もう済んでるぜ、次だ次!!」


  チゲさんは不思議そうな顔をしながら、慌てて次の作業に取りかかった。マドナグが自分で調整してくれたのか、助かる。リアから受け取ったハンバーガーを急いで食べる。


「……………………?」


「どうした、リア?」


「キモチち悪い。なんか、イヤなのに、見られてるよ……?」


「何? ……どの方角だ?」


 リアは寒気を覚えるように震えて、口元を押さえながら指をさした。その方向をマドナグのAIに調べさせると、彼女が示したのは、これから攻めるフォボスの方角だった。


「イルマさん」


「聞いているぞ、アロー、リア。必ず留意しよう。それと……」


「まだ良いよ。みんな頑張ってる。気持ち悪くても、頑張らないと。まだ乗らないよ。イルマ」


「無理しなくて良い。……危ないと思ったら、いつでもムクに乗り込みなさい」


「うん。分かった」


 ムクには星のような機能があり、最低限、単独で数年、人間ひとりが生活できる備えがある。冷却材を利用した緊急冬眠装置もあるし、その間に有用なデブリでも捕まえれば、もっと長生きできる。


 丈夫さは戦闘用だから、言うまでもない。

 たとえこの艦が誘爆を始めても、乗り込んでさえいれば、リアが生き残れる可能性は高い。


 リアの悪寒に一抹の不安を覚えながら、それでも僕は先輩と、再び戦場へと向かった。



◇◇◇



  視界には赤褐色の大地が広がり、緑色ではなく、初めて目にする青い海と空が広がる惑星。僕たちは火星を見下ろしながら、軍事衛星フォボスの地表に到達した。


「よし、艦をここに固定。本隊が目標地点に到達するまで、味方艦ドルムと共にこの場を死守する。各位、シグナルを送れ」


 受信を繋ぎ、母艦アルカナクラスにシグナルを送る。すぐにイルマさんが、防衛網と各機の配置場所を指示していく。


「シデン、アメリアは弾薬の集積所を後方に頼む。デブリの影だ。間違っても熱源反応の近くに作るなよ」


「了解!!」


「無人機と合わせた、こちらからの観測データ、送ります!」


 マドナグのセンサー有効半径はかなり広い。念のため送られてくる無人機との情報照合のために、データを母艦アルカナクラスに送る。


 敵影は発見できない。おそらく先発隊である傭兵ランカーエースたちと、火星軍を相手に手一杯なのだろう。ここからでも見える軌道上エレベーター付近では、激しい戦闘光が渦巻いている。


  僕たちの後方を、予定通り無傷の艦隊が航行していく。多くの増援が集まっている。だからこそ、敵の襲撃が考えられる。


「よし、このラインに防衛網展開。全機データ受領しているな。デブリにも必ず目を付けろ、先日の戦闘の跡だ、誘爆もあり得る。慎重に防衛を開始せよ」


「…………っ! いけない、避けてぇえ!!」


 通信から叫ぶリアの声。闇が裂け、閃光が走る。


「っ、浮上ッ!! 急げ!!!」


「なんで……どこからッ!!!?」


 赤黒く渦巻く光の奔流が、何条もの荷電粒子プラズマを撒き散らして、僕たちのすぐ頭上を蹂躙していく。


 味方艦隊の一斉射より、明らかに強力な一撃。余波だけで機体マドナグが、ビシビシうめく。


 絶叫、悲鳴。振り返ると、フォボス全体に亀裂が走って、無傷だったはずの艦隊は、爆発と共に宇宙そらで溺れていた。



◇◇◇



「何を、撃ち込んで来やがった……!?」


「ひ、怯むなッ!! もう我らが火星こきょうは目前だ!! 各艦、ダメージコントロールッ!!」


「ドルム両舷リアクター破損!! エンジン出力急激に低下!? ダメです、これ以上航行できません!!」


「ライアン艦長……!」


 けたたましい警告音と弾ける電子音越しに、ノアの悲鳴交じりの通信。同時に、全域通信で、ライアン艦長から通信が入った。


「申し訳ない、本艦の大きさがアダになったようだ。是非もない、本艦はここで砲台になる。……守りは要らん、押し返せ!!」


「ちっ、また大当たりを引いちまったかい……ルトリックッ!!!」


「あいよぉ!! 十時方向、両舷全速ッ!!!」


「無人偵察機の穴を辿れ、そこに戦略兵器が確認できるはずだ!!」


「E02からE16まで、当該宙域の観測データ、送ります!!」 


 ──────── 見つけた。


 宙域に分布している無人偵察機のデータと合わせて、発生源はひとつだけ。間違いない。フットペダルを蹴飛ばして、デブリの間をかいくぐる。


 もう一度走査波をアクティブ。カニンガムさん達も見つけたようだ。


了解オーバー。当該地域に五機のロールRフッドFと思われる反応、さらに大型熱源反応を検知。観測分析結果は……これは、スペクトラム反応から類似、敵機はエスペランサと、四脚型ロールRフッドFと思われますッ!!」


「またアイツか、カーヴォン……!」


「また、キミですか、亡霊……!」


 流石に今回は、前回も含めて言いたい事が多すぎる。レーザー・ライフルの射線を探りつつ、コンソールを操作して、公衆回線オープンチャンネルで文句言ってやるッ!!


「カーヴォン貴様ァ!! このっ、戦争犯罪者風情がぁっ!!!」


「違約金は既にお支払い済みですよぉ!!! その節は大変お世話をかけ……!」


「匂う、匂うぞぉ……!」


 レーザー火線がまったく見当違いの方角に伸びていく。バカな、今照準波無かったぞ? マドナグのAIも、解析不能を示している。


「グリント!! グリントじゃないか!! グリントがいっぱいだ!!!」


「は? コイツ、何を言って……!?」


 照準波どころかガトリング・レーザーの射線も無茶苦茶に、一機がわけの分からない事を叫びながら、僕に突っ込んで来る。


 グリント、グリント・シーカー、リアの父親のかたきがここに? そんな反応は無い。そもそもいっぱいって、なんだ?


 ああ、戦闘狂クレイジーか……。


「IFF確認!! 傭兵ランカーエース、ランク27ローゼッキ、機体名ファールオフです!!!」


「ええい、だから彼と組むのはイヤなんですよぉ……!」


 赤熱し、円形にレーザーで破壊されたデブリの隙間から、中央部が外れている巨大なレーザー……いや、プラズマ収束砲が見える。


 メインモニターに解析警報、赤熱している中央部を直接交換することで、巨大プラズマ粒子を射出可能な兵器。あれを再び撃たせるわけにはいかない。


「狂人に構うな、スーズと俺がエスペランサを抑える!! なんとしても、デカブツを破壊しろッ!!」


「たったの二機で」


 カニンガムさんとスーズさんが先行。上手い。狂い撃ってるヤツの弾幕を逆に利用して、完全にエスペランサの死角に出られる位置を取った。


「私を、抑える?」


 二機のどちらかに対応できても殺し間だ。あれならリアでも、どう足掻いても抜け出せない。エスペランサは撃墜……。


「────── 舐めるな、粗製そせい


「う、おぉおおおおおおおおッッ!!!?」


 光の束が、エスペランサの両肩から。


 観測できただけで、八本。折れ曲がるレーザーが、まるでムクを舐め上げるように、嫌味なくらい、ゆっくりと迫って破壊していく。


 以前見た口と舌付きの武装。ホーミング・レーザーとでも言うのか。

 なんだ、アレは。気持ち悪い……!


「カニンガムさん!? スーズさん!?」


「ほう、直撃をこの距離で避けますか。ですが、勘違いしてもらっては困ります。舐めるだけの実力があるのは、常にこちら側です。行きますよ、ローゼッキ」


「ハハァハーハァー!! グリントに一番乗りィイイッッ!!!」


 戦力比、敵機は五機、こっちは手足を小破二機と五機。冷静になれ、狂人ローゼッキの機体は四脚、さながらカメラの三脚や蜘蛛の様な脚部。


 射撃の安定性や、重力下のホバリング、壁に張り付きなどで遠距離に有利な性能、弱点はエネルギー効率の悪さ、装甲の薄さ、ならば。


「お前から、とすッ!!」


「っ……ホホ♡」


 乱射が厄介すぎる。これじゃ味方もデカブツに取り付けない。十二時方向正面。接近して、捕まえてしまえば……!


「そう、思うだろ?」


「なにッ……!?」


 完璧に捉えた実体剣マテリアル・ブレードの一撃を、ひらりと紙一重で避けられたッ!!? バカな、背面ブースターの位置上、今のは絶対に避けられないはず……!?


「グリント驚いたぁあ!? 俺もできるようになったんだぜぇえ!?」


「アローッ!!!」


 先輩の荷電粒子プラズマロケットランチャーが、上手くアシストしてくれるけど、エスペランサと合わせて、全弾撃ち落としやがった。……強い。むしろ、どんなペテンだ。


 マドナグのAIから、炎色反応走査結果……四脚にスペクトラム反応。……そうか、多脚。奴め、足を折り曲げて、的確な位置に姿勢制御バーニアを、全開で展開したな?


「味に過ぎるマネを……!!」


「お、分かるのか、さっすがグリント!!」


「うるさい!! 嬉しそうにぃい、戦うなぁああッ!!!」


 どうする。手数を増やしても、あれじゃロックオンしても、入射角が取れるかどうか。もうすぐ先輩の荷電粒子プラズマも晴れる……ペテン、そうだ。


「さぁ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞぉおお!!?」


「バカ待ちなさい、まだ前に出ては……!」


 プラズマが晴れるのを待たず、狂人ローゼッキは機体の損傷を無視して、四つの脚でガッチリと組み付いてきた。


「ハッハー!! これで終わりだ、グゥリィントォオオオオオオ…………おぉ?」


 ヤツが四脚でまとわり付き、ゼロ距離で無茶苦茶にガトリング・レーザーを浴びせていた物。それは、マドナグの背に装備されて切り離した、特大質量支柱実体剣斧マス・クリーバー


 ……かかった。


「人違いどころか、人ですら無いぞ。気狂いめ」


 直下。レーザー・ライフルの発射口をデブリの台座で支えにして、ファールオフのコックピットを、確かに撃ち抜いていた。




────────────────────────────────



 今回のまとめ。

 火星軌道エレベーター奪還作戦。発動。繰り返し出撃して、戦線を維持へ。本隊はフォボスへ。


 フォボス制圧後、その場で味方増援艦隊の援護へ。兵はタフでなければ務まりませんね。


 まさかの大規模戦略兵器。それも、傭兵ランカーエース2体つき。動けなくなったドルムは、増援の護衛へ。


 再びカーヴォンと再戦。カニンガムとスーズさん。ベテラン二人、中破。相手の様子もおかしい。


 ローゼッキ。高い技量を示すも囮に捕まり、あえなくアロー君に撃墜される。





 連続出撃の消耗戦。大規模戦闘だと、そこそこ発生する削り合いですね。いのちのかがやき。実体剣と、粒子剣ならどっちが好みかだと、私は両方好きですね。


 シールドを支えにする、輝き撃ち。大好きなんですよね、つい思いついて、デブリでやっちゃいました。カーヴォンもやっぱり強いです。


 アニメでry(5回目)。


 ピンチですね。ただでさえ収束砲二発目来たら、終わっちゃうんですから。


 さて、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!


 以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回は先輩こと「シデン」くん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。


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 アロー「カニンガムさんと、スーズさん。タフ過ぎる問題」


 シデン「それな。俺たちより出撃時間も長くて、回数も多いもんな」


 アロー「流石はベテランだよね。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」


 シデン「よろしくな〜👋(ふりふり)」


 マドナグ「⚔️(得意げにマテリアル・ブレード)」


 次回は再び🆚カーヴォン戦。圧倒的技量差の前に、強引なリミッターなしのマドナグに、アロー君はついていけるのか。


 次回「狙撃」……狙い貫く。たとえ、その瞳に見えずとも。

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