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第10話 「狙撃」

 全てが、赤く染まっていく。

 機体マドナグと僕の身体が、ビシビシ悲鳴を上げている。


「──、ア ──!! 右 ────」


「ウォオオオオオオオッ!!!」


「なんて、出力パワーッ……!?」


 また、光の束が迫る。先輩の声が遠い。タイミングをずらした四本づつが二回。全力でフットペダルを蹴って、振り切る。


 レッドアウトしていく目で、僕は一回。ヤツは二回。実体剣マテリアル・ブレードとレーザー・ソードを、管制コントロールアームのスティックをガチガチに握りしめて、すれ違いざまに打ち合う。


 鍔迫り会う鉄刃と雷光が、雷矢サンダーボルトのように弾け合う。息が、ヤバい。パイロットスーツ。慣れてるはずの無重力下。重力加速度軽減剤のクッション付きで、これか。


 これが、マドナグ。力の一端。


「「化物め……」」


 同意見だ。言葉が被ったのか。なんでこれだけのアドバンテージで振り絞って、特大質量支柱実体剣斧リミッター無しのマドナグを相手してるのに、ついて来れるんだ。改造強化手術でも受けてやがるのか、ヤツは。


「やはり、決め手に欠けますか。そちらを落としても良いですが……」


「くっ……」


 先輩は上手くアシストしてくれてるけど、そろそろ弾がヤバい。上手くデブリに隠れてリロードしてるけど、それでも、もう持たない。


 ひっきりなしにマドナグから、パイロットバイタル診断警告警報が響く。喉が渇いて、呼吸が苦しい。


 長期戦は特大質量支柱実体剣マス・ブレードを外してしまったから、僕も持たない。とは言え先輩のアシスト込みで、五分以下だ。離れるのは論外……どうする。


「貰ったッ!!!」


「なに……?」


 震える手を伸ばして、立体映像を望遠、拡大。プラズマ収束砲の砲口が、手足を片方ずつ失ったカニンガムさんのムクに、レーザーで破壊されていた。


「よ、よし……!!」


「ちっ……だから、もう一人よこせと言ったんですよ!!」


 目に見えてプラズマ集束砲が小破を繰り返している。巻き込まれないためか、慌てて周囲の機体も逃げ出し始めた。


「アロー、シデン、退けぇ!! 主砲、副砲、プラズマ集束砲に、照準!!」


 上手くデブリを利用して、母艦アルカナクラスが近くまで来ている。あそこからなら、イルマさんは外しはしない。


「撃てぇえー!!!」


 光速の火線が、小破を繰り返していたプラズマ収束砲に突き刺さって、激しい閃光を伴って爆発した。衝撃にこの距離でも、コックピットが軋んでいる。


「まあ良い、一度は撃てました。……今回はそちらの勝ち戦ですね。では、またお会いしましょう」


「くそぉ……」


 追えるだけの余力は無い。僕と先輩は、閃光の向こうに消えていくヤツの輝きを、黙って見ている事しかできなかった。



◇◇◇



「動けるかい、アロー、シデン?」


「なんとか、視界がまだチカつくけど、行けますよ……ふぅ……」


「すいません、弾が……」


「カニンガムとスーズ、シデンは収容する。艦の外縁カタパルトで、悪いが各機先に向かってくれ」


「了解、急いでくれ、味方艦ドルムにも敵が取りついている!!」


 頬を思いっきり叩いて、叩いて、ついでに良く首を回して、何度も手を開いて閉じて、深呼吸。よし、切り替えよう。味方を守らないと。


 母艦アルカナクラスの右舷が開いて、先にヘルム隊がウイング状のカタパルトに片足を引っ掛けて、発進していく。


「対宙監視班!! 絶対に目をそらすんじゃ無いぞ!!」


「左舷17ブロック被弾、損害拡大!!」


「まだだ、主砲、副砲、対宙レーザー、左舷監視を怠るな!!」


 通信からは、今も砲台になって戦っている味方艦ドルムの通信を受信している。1秒を惜しめ、ライフルの残弾一発に、誰かの生命がそのまま乗っていると思え。


固定軸ライナーゴック誘導舵エアブリード、セット。……行けるか」


 十メートル級用だから、少し伏せた不格好な形だけど、なんとかマドナグは誘導舵エアブリードを握ってくれた。無事打ち出せそうだ。


「ノアさん、間に合ってくれ……!」


「すまん。少年……ぐっ……すぐ、追いつく」


「進路クリアー!! 再発進どうぞ!!」


「了解。アロー機。マドナグ、再度行きます!!」


 方打ち式なので、遠心力が働く。少し進んで機体マドナグをぐるりと回転させて、戦場の光に突っ込む。


 まだ補正映像でも、極小のモザイク状ノイズにしか見えない。声は拾えているけど、距離40000以上。間に合うのか。


 …………マドナグ?


「良いのか……、分かった」


「お兄ちゃん?」


 聞こえた。火器管制FCS、マニュアル狙撃モード。右5度。上2度。フルチャージ開始。


「敵機直上、インテリオル様!! 伏せて下さい!!」


「あぁ、お父様っ!! アローさまぁあっ!!」


 狙わず、撃つ。


「え、あぁあ……っ!!」


「すごい。一撃で、二機も……!!」


 爆発らしき物を確認。撃ち抜いた。撃ち抜けたはずだ。もう声も聞こえない。距離28000。マドナグのセンサー内。残弾十、撃てる。敵の暗号回線も傍受できている。


「なんだぁ、敵……艦砲……撃か!!?」


「あれか、なんて……してやがる。データに無い大型機影…………信号弾を……、ここまでで十分だ!!」


「退いて、くれるか……」


 耳鳴りが、かすかにしている。流石に疲れた。尾を引いて飛んでいく敵影を見つめながら、走査波を走らせる。敵影無し。


「ありがとう。助かったよ、マドナグ……」


 軌道上エレベーターに、味方の傭兵ランカーエースが辿り着いたと報告を受けたのは、この三十分後の事だった。



◇◇◇



 大勢はこちらの優勢で決した。軌道上エレベーターの制圧も完了したと報告は受けたけど、散発的な小競り合いはまだ続いているようだ。


  戦域を大きく後退して、ボロボロになったドルム《味方艦》を曳航して港に着くよりも、航行してきた病院船艦隊と合流する方が早かった。


 白一色で染め上げられた艦が、目に痛いくらいド派手に赤と黄色の信号光や、回転灯を光らせて航行している。


 周囲には同じく真っ白い機体RF。医療、対災害用機のホスピタル達が、こっちに向かって来てくれている。


 完全な非武装機体で、肩に赤色灯と大型照明ライト。両腕の小型装甲板シールド。そして、背中にキャンピングカーのキャビン部分を思わせる、コンテナ型の医療設備を二基搭載して、腕には人ひとり入れるような、球形の緊急医療ポッドを三つも抱えている。


 原則、戦闘には参加しない機体だ。


 流石に彼らを前に、武装や照準波を出すわけに行かない。僕はマドナグのコンソールを操作して、戦闘モードを一時的にスリープに。


 マドナグはレーザー・ライフルの銃口を上に。銃床ストックを右手に抱えて、補助粒子発射装置トリガーに指をかけず。彼らに決して攻撃できない体勢に動いてくれた。


 周囲のヘルム達とリアのムクも、同じように武装を格納状態にしている。


 ホスピタルが味方艦ドルムへと向かっていく。最後に大型パルスシールドを二つ肩に担いだホスピタルが、気さくに手を振ってくれた。


〝輝かしき黄金の支柱たる兵卒に、栄光あれ〟


 イルマさんの言葉が、自然に脳裏に浮かぶ。


「マドナグ。今の、写真に撮ろうか」


 どうやらマドナグにとって、すごく良い提案だったらしい。コックピット内、右手脇のサブスクリーンに、搭載型の映像記録装置から、百枚くらいホスピタルの写った連射撮影が、一気に細かくバーッと表示され始めた。


 そんなに嬉しいのか。なら今度もっと写真を残さないとね。


 ジー……というカメラアイの駆動音を、近くで検知して顔を向ける。リアの乗った僕のムクが、ホスピタルたちを見つめている。


「どうした、何か問題か、リア?」


「う、ううん。ああいうお仕事も、ロールRフッドFで、あるんだなって……」


「そりゃそうだろ。ローゼス内だとあんまり見かけないけど、大型施設に一機以上は居ただろ?」


「うん。でも……あんなにいっぱい動いてる所は、ほとんど初めて見たから……」


 少し例えが悪いかもだけど、街中で救急車にすれ違っても、日常のひとつ。でも、戦場近くであれだけの機体数で動いていれば、別物って事かな。


「じゃあ、手伝って来るか?」


「え、良いのかな……?」


「こっちの警備は僕とヘルム隊でやるよ。武装を預けて、イルマさんと彼らに許可をもらえば良いさ。医療ポッドの運び出しも、忙しいだろうしな……」


 緊急医療ポッドの中に入れば、高度な再生治療をすぐに受ける事ができる。身体の半分が消し炭でも、時間がかなりかかるけど。現代医療では、再生が可能とされていた。


「分かった。マドナグ、これ持ってて」


 リアがマドナグにとっては小さなレーザー・ライフルと、ビーム・ソード。両肩武装の荷電粒子プラズマロケットランチャーを、接続解除して預けてきた。


「ここで預けるのかよ……ははっ、まったく」


 母艦アルカナクラスに片付けて欲しかったんだけどな。まあ良いか。苦笑しながら、ただひたすら目の前の事に飛び出してくリアを、僕は心から眩しく思えていた。





────────────────────────────────


 今回のまとめ。


 🆚カーヴォン、カニンガムさんが意地で収束砲を破壊し、アローくん戦略的痛み分け。レッドアウトはヤバイ。アローくんもたいがいタフである。


 シデン君は弾切れ。アロー君、ヘルム隊と共に、緊急再加速発進。見事にドルムを守り切る。


 病院船が到着。リアちゃんも思う所あり。マドナグは写真好きと判明。可愛いですね。



 狙撃シーン。アニメでry……もう毎回言ってますがな。6回目ですね。呪詛みたいw


 ガンダムサンダーボルトはビーム粒子が非常に綺麗なので、そこだけでも一見の価値ありです。漫画の主人公二人のおいたわしさ? の、ノーコメントで……!


 まだまだ発展途上のアローくん。いつか、まともなランカーエースを倒せる日が来るのか。あ、ローゼッキは例外で。


 見事に弾けますよぉー彼は、なにせ。アローなので。と言うか、次の話でハジケるな……。乞うご期待。


 病院船とホスピタルには、実は元ネタがあって、是非探してみてください。



 さて、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!


 以下その方法と、今回は「リア」ちゃんと「ノア」ちゃん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。


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 リア「そわそわ……そわそわ……」


 ノア「あれ? リアお嬢様、どうなさいましたか?」


 リア「あ。どうも……あの、ノアさん。教えてほしいことが、あり、ます」


 ノア「はい。どういたしましたか、そんなにかしこまって?」


 リア「口紅って、どうやって選べば良いのかな……?」


 ノア「………………じ、次回も、よしなに、よしなにぃい👋(ふりふり)」


 マドナグ「👋(ツインアイから、ホスピタルの写真を立体映像出力)」


 戦いは一時、終わった。兵たちは傷ついた心と身体を休め。愛すべき日常へと帰還していく。死んだ者。生き残った者。なぜか消滅した者。分かれ道。


 次回、「願い」……星空を見上げる。傷つき、泣くことなど、叶わなくとも。

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