僕たちは豆粒よりも小さく見えて、
捕虜たちは星間航行第二安全保証条約に則り、暴れないようにスリープモードの医療ポッドに、ほぼ全員て入れられている。
彼らは軍の補給艦に収容されて運ばれていると、艦内広報とニックさんがSNSで呟いている。
民間の船に同乗しているらしい。全艦隊がデータリンクで連携しているので、今も繋がる事ができていた。
「本当に俺に、コイツ。乗りこなせるのかな……」
「シュミレーターじゃ、リアちゃんよりグローム感応の相性が良かったんだぜ。胸張っていけ、デン」
先輩が格納庫で二十メートル級の
マドナグと共に見つかった内の一体。ウォカズと名付けられた
こうやって回収機の
「マドナグ、写真撮ろうか。30枚くらいで、好きなタイミングで良いよ」
以前思いついて、SNSアプリをサブコンソールにインストールしたところ、マドナグは僕が許可すると、僕とリアの個人クラウドサービスから、自由に写真を投稿するようになった。
「また投稿してるみたいだぜ、アロー」
先輩が端末で僕に見せてくれた。プロフィール画面には僕が入力してあげた名前と、ついさっき撮影したであろう、僕とリアと先輩とチゲさん、ウォカズの写真が投稿されている。
マドナグのカメラは頭部のツインアイ以外も、全身の随所にサブカメラが存在する。それらを駆使して勝手に、社内機密や軍事機密に抵触しない範囲で、画像を修正して投稿している。
プログラム上は
どうやら文字でやり取りするのは機能に無いのか、もしくは好まないらしいけど写真は好きなようで、先日撮影した軌道上エレベーターの写真や、流れ星の写真もいつの間にか投稿されていた。
「生きてるみたいだよな。まるで」
「生きてるような物だよ。ねーマドナグ?」
リアが訪ねると首部分だけがゴンと動いて、マドナグがアゴの部品を引いた。肯定のつもりらしい。
「オレっちのウォカズはどうなんだ、リアちゃん?」
「声の大きさはムク君と同じくらい。ただなんて言って良いのかな……すっごい戦闘経験が多そうな感じ?」
「戦闘経験が、多いのか?」
「ゴメン、上手く言えないや。でも勝手に動くほどじゃないって言うか、んー……乗れば分かるんじゃない?」
「そりゃこれから実戦訓練するが……まあ良いや、乗って確かめようぜ、アロー」
「ですね。やってみれば、何かしら分かるでしょう」
今日は統和国宙域に入る前に、部隊全体の訓練を実施する予定で、カニンガムさんはイルマさんと共に、訓練相手との会議に出かけていた。
◇◇◇
今回の訓練は、実体弾頭の試射も兼ねているので、
「ランカー
「で、どっちがそうなんだ?」
「しろがねのランカー
公衆回線から驚く声が、今日は慌ただしい。大勢が見学や手伝いを申し出たのだから、当然か。
「こんなんで良いかしら。流れ星くん」
ムクよりも細身なフレームが際立つ火星圏の
「ネリス」は軽量の脚部を基にした機体で、ムクよりも高い機動性を持つけど、装甲は脆弱で重い武器を搭載できない。
姿勢制御も難しい、玄人向けの
「十分かと思います。では、カニンガムさん」
「了解だ。じゃあ、ウォカズの50mm前腕部機銃から試射を始める。各機、周辺警戒を始めてくれ」
ウォカズに装備された、50mm前腕部機銃。
当初、腕部の構造から、内蔵型のレーザーかパルス兵器かと思い込んでいたけど、調べて見るとマドナグの頭部に内蔵された、実弾兵器と似たような構造である事が判明。
それで、今まで先延ばしにしていたマドナグの正式な評価試験も兼ねて、宇宙環境下での試射評価を試みる事に。
事前の打ち合わせ通り、ネリス隊はそれぞれ周辺警戒へ、記録を撮影するカニンガムさんと連絡船は後方で、僕は先輩から標的まで、全て見渡せる位置に待機した。
「まずは200からだ。最初から一発で、ド真ん中に当ててみせろよ?」
「やってみますよ。……頼むぜ、ウォカズ」
ウォカズから照準波を検知。片腕を伸ばして押さえて構え、まずは一発。続けて十発。先輩は射撃した。結果は、残念ながら、あまり良いとは言えなかった。
「一発目は良いが、他は
塗料でおおよそ十メートル大の人型に塗られた
「うーん、どう思うよ、アロー?」
「やっぱりチゲさんの予想通り、接近戦用の射撃武器じゃないですかね。反動か何かで、レーザーみたいに真っすぐ飛んでませんよ?」
「わかった。アローは後でデータくれ。プログラム上はどうだ、デン?」
「警報とかは無いな。異常無し。つまり通常だ」
「となると、何かオプションパーツみたいなのが別に必要なのではないか?」
「あー……なるほどな。盲点だったな」
ジョナサン氏の発言で、チゲさんや他の技術者達も、何かしら落ち度に思い至ったようだ。
「よし、次に移ってくれ。終わったら訓練だぜ」
「了解」
マドナグも同じように頭部から実弾を射撃してみたけれど、連射すればするほど、命中精度は低下。現状この兵装は、比較的近い距離で使用するしか無いと、結論づける結果となった。
◇◇◇
先輩がまた上手くアシストしてくれた。これで撃墜判定二機目だ。……追従反応。今回は+9でも良いかも。
「は、疾い……!」
「コンビネーションを、一回のアタック事に変えられてる!! 次は……!」
「残念、俺だ」
「あぁ……!!?」
マドナグの背に隠れていたカニンガムさんが、仮想レーザー・マシンガンで弾幕を張って、飛び込んで来たネリスをまた一機、撃墜判定に追い込んだ。
「読むのは上手いが、だからこそ予想しやすい。大型機のプレッシャーを気にし過ぎだぞ?」
「く、くそっ、推力比と、機動性は圧倒しているはずなのに……!?」
「だから、動き過ぎなんだよなぁ!!」
先輩のウォカズが、
「そこだね」
「しまっ……! うぉおおお!!」
今の上手いな。追い込んだのに、マドナグの仮想レーザー射線上からデブリに逃げた。流石は精鋭、慣れて来たかな。
「何をやっている貴様ら!! お前たちの乗っているそれは、
「……了解!!」
「機動を想像しろ、絶えず動け!! あのデカブツ共に、気概と男を刻みつけろッ!!!」
「サー・イエッサー!!」
「立て直して来る、こっちも動くぞ!!」
「了解……!」
こっちの使っていないパターンは、僕がメインだけ。他は見せて対処され始めている。先輩からの
相手は高速機。競り合いで振り向いたら負ける。
向こうのように、細かくフラフラは動けない。
なら、二人を信じて、突っ込むッ!!
「来たぞッ!!」
「俺が止めるっ……ステファン!!」
接近戦。
「くっらえ!!」
「うおっ!?」
全身を捻っての、バーニアによる近距離逆噴射。ツインアイの光放熱素材でも、一瞬復帰が間に合わない。味な真似を……!
「もらったぁあッッ!!!」
「詰めが」
「甘いッ!!!」
デブリの影から飛び出た先輩とカニンガムさんが、レーザー火線の弾幕を張る。先輩のウォカズはさらに、両肩の大型パルス・シールドで、相手のレーザー・ランスを受け止めてくれた。
飛び込んで来たネリス一機を守って、二機でパルス・シードルを張られ、一機のパルスシールドは故障判定になっただけで、撤退されてしまった。
「あそこから、ほぼ躱すか……」
「速いですね。反応」
「こっちもシールド張って接近戦の方が、ある程度部が良いですかね?」
「それで行こう。向こうも弾に限りがあるはずだ。追い回せば荒も出る」
その後、こちらの大きさに慣れ始めた向こうと、慣れない先輩が疲れから中破撃墜されて、訓練は終了となった。
先輩は少しムクに比べると、引っ張られる感覚が大きいようだ。次第に慣れるだろうけど。大型機の扱いは難しい部分もあるから仕方がない。
「なんたる事だ!! お前たちの訓練であるのに、先に撃墜を三機も許すとはッ!!」
「面目次第も、ありません……」
「ラッセル、ヒューズ、コナック。お前たちはメカニックの皆さんと、先方様に黒エールを奢って差し上げろ!! 帰投ッ!!!」
「サー・イエッサー!! 手合わせありがとうございましたッ!!」
僕と先輩。まだ未成年なんだけどね……。カニンガムさんは僕らだけに通じる秘匿回線で、こっそり忍び笑いしていた。
◇◇◇
訓練と食堂でのミーティングを終えて部屋に帰ると、なぜかノアが僕の個室でテーブルに座って寝息を立てていた。
あれ、ロックナンバー教えて無いんだけどな。イルマさんからでも聞いたのかな。ふむ。綺麗な顔で寝てる。いたずらしたいけど、リアと違って泣かれそうだから、我慢しなきゃね。
僕は熱いシャワーを浴びて、ジョークグッズとして買った、妙に笑えてくる柄のバスローブに着替えて、彼女が目を覚ますのを、適当にSNSを見て待った。
またニックさん。二次元の女の子追いかけ回してる。ネタだろうけどロリコン公言している。戦いや身勝手な慕情で、少しささくれ立つ心が癒されるったら無い。
「う、うぅん……」
「おはよー……、おはよー……、おは、いや起きようよ、ノア?」
「うー……もう、二時間だけ……」
「君の身体でぇ、二時間たっぷりしっぽり、楽しんじゃうゾ♡」
「ふぁあッッ!!?」
飛び起きた。そう高い天井の部屋じゃないので、危ないから身体を押さえないと。服装が服装なので、ぎょっとされたけど。気にしない気にしない。
「どう? こっちの船には、慣れた?」
「えっ!? あ、はい、はい。お、お陰様で……?」
ふふふっ、まだすね毛も生えてない美脚だぞ、
「それで、今日はどうしたのさ。訓練と見学で疲れてるでしょ?」
「あ、いえ。そのー……コホン。マドナグさんのプログラム解析。一部持って参りました」
「そか。真面目さんだねぇ。他には?」
まあ、予想はできるけど。冷蔵庫から宇宙用イオンドリンクを、チューブを外して手渡す。
「うっ……うぅー……その。い、……リアお嬢さまと、その。した、って……」
「え、何? キスの事?」
子作りエッチとか、ちょっと口に出そうになったけど飲み込む。リア相手ならともかく、ノア相手に最初に言っちゃうと、たぶん本気で怒って帰りそうだし、やめた。
もうゆでダコみたいだ、ノア。最初に会った時、けっこう大胆だったのに。
「したよ。なんなら、同じようにしてあげようか?」
「えっ、……だ、誰にでも、しちゃうんですの?」
「いやいや、無い無い。したいのなんて、リアやイルマさんや、……ノアだけだよ?」
「うぁ……んんっ」
ズイッと近寄って、まずは手の先から。本人であるノアに見せつけるように、瞳をそらさず。徐々に上に。
うーん。髪とか胸とか触れずに唇で音を出してるだけのフリなんだけど、ふるふる震えて気づいて無い。おいおいおい、可愛いじゃないか。
最後にちゃんと触れ合うキスを、額にしてあげる。リアよりもぎゅぎゅぎゅっと目をつむって、唇を突き出している。可愛い。
「こんな感じだよ。まあもう少し激しめだけど。ほら、蹴られちゃった」
バスローブを少し解いて、青痣の残るお腹を見せる。油汗かいちゃって、実は結構痛かったんだよね。
「ちょっ、ちゃ、ちゃんと着て下さいませ!」
「あ、ごめんごめん。うっかりしてた。後は最初に子作りエッチするって、突っ込んで言ったくらい?」
「こっ、こぉお……!!?」
ぱくぱく口が魚みたいで面白い。でも僕の言動にイラッとしたのか、目が座って来た。
「ふ、ふざけないで下さいまし! ひ、人の純情を、もてあそんでぇえ!!」
「いやいやそれは違う。取り違えをしてる。最初っから本気なだけだよ? ……リアが本気で、僕を欲しいって言うなら本気で答えるだけだよ。でもまあ、もちろんまだ時間や、彼女自身に色々選んでもらわなきゃ、だけど……」
「色々……?」
「楽しみなんだよ、彼女が何を選ぶのか。兄としても、恋人候補としても、かな?」
僕のモラトリアムな時間は終わったけど、リアはこれからだ。彼女は多才で、先日の病院船の一件で思う所があったのか、最近はロマ先生から、医学知識を授けて頂いている。
やろうと思えば我が社の開発部に、今すぐ本格的な
誓っておふざけは、まぁ、あっても常に真剣で両方ともだね。と言うか。
「たとえふざけててもそうじゃ無ければ、生命のやり取りしてまで、守れないでしょ。ねえ?」
「うっ……」
剣幕がしおらしくなっていく。一応納得してくれたらしい。まあそうだよね。
「で、では……わたくし、は……?」
「うん? 今は仲のいいお友達でしょ? でもそうだね……兵は
「
「速い者勝ちって事だよ。きっとね」
それから彼女は、こっちを見たり見なかったり何か言おうとしたり、しなかったり。僕があくびをすると、ため息をついて部屋から出ようとして、最後に。
「誠に勝手ながら、あなたは、……もう少し、真面目な方だと思っておりました」
「そうだね、僕もそう思ってた。真面目で優しいだけの。近しい
自分の手を見つめてみる。きっと今僕はリアに見せてはいけない、欲望まみれで笑って、怖い顔をしている。
多分、徐々に変わり始めたのは、あの時。戦士になる決断を、自分で呑み下した時。
別に悲しくはない。辛くなったら、みんなに相談でもすればいい。でも、少しだけ好意が、真心が、
「アロー様……?」
「何でも無いよ。何でも」
「アロー様。私の事を…………いいえ、おやすみ、なさい」
「うん、またね。愛しい……友人の、ノア」
それだけ言って、ノアが部屋から出ていく。彼女が僕にそれでも踏み込めば、僕はまあ、流石にこの船で思いを遂げるのは駄目だけど、音声記録でも少し預けて、恋人になる約束をしても良かった。
でも僕からは、ただの新米一兵卒で支社長令息で社員だから、駆け引き上も立場上もまだ良くない。
せめて、彼女の故郷に功績を認められた後じゃないと、流石に国際問題で、彼女を傷つける結果だけになりかねない。
けじめが無ければ、兵士としても、商人としても動けない。男として、肉体としては襲いたくて仕方がないけども。
「これでも結構我慢したんだけどね。まったく」
だから二人とも、少しイジワルみたいにしてしまう。イルマさんの口癖みたいに、上手く無いなと思いながら、渋い味のイオンドリンクを啜った。
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今回のまとめ。
修復機ウォカズ。登場。
マドナグ。写真でまさかのインスタグラマーの道へ。そこそこフォローされてそう。
通常営業と火星軍との実戦さながらの厳しい訓練。機種転換はいつだって難しい。
ノア。仕掛ける。アロー君またしても本性を発露。順調にノアコンにもなりつつある。
アローの啜るイオンドリンクの味は、渋い。
順調にラブコメってますね。もっともちょっとほろ苦い感じですけど。でも一歩踏み込めないのは、やはり複雑な乙女ゴコロなんですねえ。
徐々にノアさんも本性がズルズルと。ドジっ子と言うか、間の悪い子というか。
航宙か飛行戦闘機。やっぱりレーダードーム背負ってる電子戦闘機かな。換装できるタイプの。場所に合わせてですけど。どうしよっかなー。
さて、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!
以下その方法と、今回は「アロー」くんと「イルマ」さん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。
PC版の場合は、次の手順です。
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3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。実際に、泣くほど喜んだ事あります。
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3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。実際に、泣くほど喜んだ事あります。
アロー「やれやれだよ。あんまり邪見にするものじゃないだろうけどさ」
イルマ「まあ、気持ちを汲んでおやりよ。女は一生女なんだからさ」
アロー「男だって一生男だよ。……イルマさんはそう言うのどうだったの?」
イルマ「よーし今日は何食べたい? 好きなの作ってあげるよアロー」
アロー「(この反応、やっぱり相当、男遊びしてたんだな……)」
マドナグ「👋(ガション。ガション)」
統和国。小惑星を加工したコロニー集う地で、再び戦いの火蓋が、切って落とされる。そして、アローは己が生涯許せない事を断じる。
次回、「最速」……最強の頂は、常に、