ようやく遠くに、丸くて分厚い腕輪のようなスペースコロニー群が、トレーニングルーム内のモニターにも見えてきた。
旧世紀。先人たちが500メートル前後の小惑星を、
ローゼスも大元の形状は同じだけど、統和国には、植物性の統大樹や外縁部の植物性防壁が無い。代わりにカーボン製のブロックを、十字にくり抜いて内部に押し込み、
おそらく先人は制作期間の短縮と、安全性を重視したんだね。僕らのローゼスは植物からの副次産業の恩恵を多く得られるけど、その代わり建造には、十年単位で時間がかかる技術だものね。
少し休憩。なんとなくノアがどうしているか気になって、ぼんやりコロニーを眺めながら、SNSを開く。
マドナグの投稿した画像に、ニックさんが議論している。
拾ってきた論文とかの画像だけのやり取りだけど、マドナグはムキになってニックさんに、
内容はまるで聞かん坊の子供を、ニックさんがのらりくらりと突っ込んでいるようで、微笑ましくて癒される。と言うか、マドナグ器用だな。
あ、リアもなにか空気読まない発言で、御託は良いってバッサリ双方とも切り捨てた。見物して書き込んでいた周りが、ザワザワ書き込んでいる。
いつも通り少しフォローしよう。でないとまたネットストーカーとか湧きかねない。13歳の女の子相手に、何ムキになってるんだかねぇ。
まあ、僕はロリコンなんて程度の低くなく、イルマさんコンで、ノアコンで、生涯リアコンなわけだけど。
ノアは恋愛事をまた相談している。ちょっと反応に困る書き込みで、あんまりまともに相手にされていない。あ、マドナグとニックさんとイルマさんが、画像を贈ったりアドバイスし始めている。
「罪作りな男だなぁ、僕も……」
「なんだっ、男ぶりの下がる喧嘩でもしたのかっ!?」
先輩が隣でバーベルを上げながら、力を込めている。そろそろ集合がかかりそうだから、これ以上はトレーニングを中止すべきかもしれない。
「ちょっとイメージが違っただけですよ。むしろ先輩は変わりませんね?」
「ああっ、フラれちまったからなっ。インテリオル、さんにっ」
「あ、そうだったんですか……」
「んな顔するなよ。今は火星の美女を物色中だ。夢の中じゃ毎晩R18でぇ、参っちまうぜぇえっ!!」
申し訳ない気持ちになるような、そうでも無いような。先輩もモニターに気づいたのか、バーベルをゆっくりと下ろしている。画面がもう一度切り替わって、パイロットはミーティングルームに集合と表示されていた。
◇◇◇
念のためにイルマさんの指示で、僕らは
「コロニーレーザーに、火が入ってる……」
マドナグが倍率を上げて望遠してくれた画像には、長細く加工された小惑星が、淡い光を内包していた。
コロニーレーザー。巨大艦船で、他の艦艇を多く艦載できる
廃棄される古いコロニーの再利用品で、マドナグのレーザーライフルから、他のコロニーを焼き尽くすまでの火力調整が可能。限定的な大規模戦略兵器としても、転用できる能力を持っている。
もっとも、撃ち込んだら当然レーザーを止められないので、最大出力は小惑星帯の資源衛星や、街を巻き込まないようにしか使えない。滅多に火が入らないはずの施設なんだけど。
「そりゃ、加速器に……ってわけじゃねえな。
「そうだね。こちらでも小惑星帯標準時で確認した。
「無人偵察機を出しますか、イルマさん?」
「まだ良い。でも悪いけど、両舷のカタパルトで待機しててくれ。シデンは中でな」
「了解……!?」
マドナグのAIから、索敵方位アイコン表示。閃光。爆発。コロニーレーザーの砲塔とは逆方向で、断続的に光が
「イルマ様ッ!!!」
「案の定か、戦術艦隊データリンク繋げ!! 総員、第一戦闘配備発令!!」
「了解!! 第一戦闘配備。繰り返す。第一戦闘配備。進路上の統和国宙域で、艦隊による戦闘行動を確認。各隊員は速やかに、所定の作業を開始せよ」
「
「こちら、第266巡洋艦イアスム!! 艦隊と大型装甲兵器から攻撃を受けている!! 繰り返す!! こちら……」
「なに……なんか、変だよ、あれ……!!」
リアが妙な事を言い出した。変。なにが変だって、……マドナグも? モニター全体にも、何か緑色のノイズが走っている。
「無人偵察機を出せ!! グロームの濃い場所と、コロニーレーザーの射線上は避けろよ!!」
「……イルマさん!! 行けますッ!!」
「わかった。リアも何か感じている。全員注意してくれ。他の艦に遅れるな。出撃開始ッ!!!」
「っ……アロー様。その……戦果を、期待します」
「了解。アロー機。マドナグ。出しますッ!!!」
先輩とカニンガムさんも出撃した。距離33000。展開が速い。
「なに、あの丸っこいの!?」
「スペクトラムパターン
「なんだそりゃ!? ええいっ、直接映像を回せ!!」
イルマさんの指示で、先行するネリスから無人機を経由して、荒れた映像が回ってきた。背中の砲塔からレーザーは発射しているけど、常に光っていない。熱核ロケットエンジンの閃光が、確認できない。
機種はどう見ても
「封鎖連盟の新兵器か……? なら、全隊!! 照準の
「攻撃! 開始します!!」
先行する
各部の走査波をアクティブモードで、照射。統和国軍の
「マドナグ。攻撃、開始しますッ!!」
距離25000。一撃から不明敵機の反応を見よう。マニュアル狙撃モード。フルチャージでレーザーを照射。
命中。巻き込んだ三機も、手足にあたると思われるパーツが溶解。そのまま
「数が多いっ。デン!! ミサイルの使用は慎重にな!!」
「了解ですッ!!」
不明敵機の機動は、そう速くない。レーザーの威力もパルス・シールドで十分味方機は防げている。けど、数が多い。ここだけでも三十機は居て、不用意にまとわりついてくる。
「こっ、のぉおッ!!!」
ブースターはまだ良いけど、使うべきか。
メイン設定からパネルを操作。シールドとライフルを
「せぁああああああッッ!!!」
ロックオン。
撃墜。八機以上。
「先輩ッ!!!」
「了解! デモリッション・ブレードを使う!!」
派手に暴れて、不明敵機を引きつけるべきだ。
先輩のウォカズは左腕に
バネじかけのように、折りたたまれていた鉄刃が展開されて、二つ折りだったシールドが、超大型のブレードに姿を変える。
全長、驚異の42.3メートル。総重量、たっぷり27.1t。超長大の対艦刀。
「でぇああああああああッッ!!!」
被弾を恐れず、先輩のウォカズは両肩のパルス・シールドを展開したまま、一気に懐に飛び込んでいく。
振りかぶり、大きく一閃。一撃必殺。
確認できるだけで十一機、撃墜。
「なぁにあれぇええ……」
「……よ、よし。呆けるな!! 殲滅しろ!!」
「フン……壁代わりにもならんか、虫けらどもが」
「っ!? アロー!!」
敵機の公衆回線……どこから。えっ。
「う、わぁああああああ!!?」
爆発。まるで、駆逐艦をへし折った時みたいな。嘘だろ。敵は近くに居たんだぞ。周囲を見渡すと、不明敵機は爆風に巻き込まれて、無惨にも焼け焦げ、粉砕されている。
おかしい。衝突警報と異常検知警報が、鳴りやまない。荷電粒子も確認できない。何の攻撃を受けたんだ。
「榴弾弾頭ミサイル、ヤツは……!」
「
「前時代の遺物が。おとなしく
「
「……ナメてやがるなこの野郎。誰に撃たれても、相手にならないってかッ!?」
「グリント」
「アロー」
名だけ口に出す。目を凝らす。左右非対称の軽量脚。人間の姿を模した二脚型でも、人型と大きくかけ離れた、鋭角を持つシルエット。
武装は左手レーザー・ライフル。爪のようなミサイル発射装備。右手レーザー・バズーカと思われる長物。肩部大型パルス・シールド。
お前か、お前が。僕の
そして、僕の本当の両親も……おそらく。
それが、それだけが。断固として許せない。
「殺す」
「殺せ」
僕と
「ほう、大きく出たな亡霊小僧……。マヌグス、ピナマ。行けるな?」
「はい。敗北率は、ありえませ……」
マドナグと
◇◇◇
「なっ……!!?」
視界から一瞬で、ヤツが消える。怯えるようなレーザーとミサイルの雨。関係ない、フットペダルを踏み続けて追い詰める。
マドナグから、
「なんて推力、あの図体で!?」
「クッ……
「あ、アロー!!?」
並走していた一機が、視界から消えた。ヤツは見えている。
視界が重力加速で一気に暗くなっていく。まだだ。まだフットペダルを、離せない。
「なぜ、こっちは人体改造されてるのよッ!!?」
「なんで追いつけない!!? うわっ……!?」
「バカなッ、なぜ着いて来れる!?」
「あとを頼む。九番格納庫を開けろ」
「い、イルマ……?」
背後で爆発音、関係ない。残り300、200、異常検知警報がうるさい。視界が半分に。ああ、片目が重力加速で潰れたか、どうでもいい。量子コンピューター強制冷却続行。まだ届かない。足を離さない。
「あ、あぁ、あぁあ、あぁ…………っ!」
警報がうるさい。警報がうるさい。警報がうるさくない。……片耳鼓膜逝ったか。足の感覚は無い。残り50。体温すら感じない。全身の血管が破裂し始めたようだ。機体温度熱、暴走。もう、止まれない。
「うそ、あのグリントが……逃げに徹してる」
ヤツに上等な「人間らしい戦争」を与えるつもりは、一点の微塵もない。ただ追い詰めて、必ず
「アァアアアアアアアアアアアッッ!!!!?」
「流れ星が……」
誰の声だろうか。リアか、イルマさんか、ノアか、それともまた、別の誰かか。
「
内蔵を潰し、血を吐き出しながら、
痛みすら感じない彼方。極限の高揚感のままに。
「
すべてを焼き尽くす、暴力を宿して。
僕は世界最強の男に、
────────────────────────────────
今回のまとめ。
統和国のコロニーは元小惑星。せっせと小惑星帯から運んだ大きめの物を、加工した形になります。
マドナグ。順調に人間臭く。ニックとのやりとりでほっこり。先輩、まさかの敗退。仕方ないね。
不明敵機、襲来。混乱のさなか、一行は戦闘を開始。そして、グリント・シーカー襲撃。
アロー。激昂の末に轢き潰しへと試みる。果たして結果は如何に。
最新からチキンレースで相手を轢き殺して、崖下に自ら巻き込んで確殺するつもりしか無いスタイル。控えめに言わなくても、徹頭徹尾、狂ってる。
Information High.直訳で、情報の高み。意訳で「高揚感ないし絶頂感」と言った所でしょうか。
どんなに身体を機械化しようが、ハラに一本キメた羽根1枚には、竜となった鳥には、勝てない事もある。
まして、
さて、今回は遅くなりましたね。いざ高揚感のままに!! 超々高速戦をぉおッ!!!
ア・ニ・メ・で!(ryクソデカボイス7回目)
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ニック「ですからね。人間には肉体的限界と言う必須の概念があるわけですよ。疲労と言う、分かりますか?」
マドナグ「(機械化の資料を表示)」
ニック「肉体を気楽に改造する物は、そうそういません。自身の肉体に、愛着があるからですよ」
マドナグ「(機械化への問題点を綴った資料を表示。しばらく時間を起き、愛についての様々な資料を、次々に表示。最後に、恋愛についての漫画を表示)」
ニック「恋愛とは、恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になる。複雑怪奇な戦いそのものであり、時に、生命よりも尊ぶべき、人生の標章ですね」
マドナグ「(戦史資料と恋愛資料を交互に表示。愛憎渦巻く戦史漫画を表示した後、学生恋愛の健全な漫画を表示)」
ニック「ええ。普通に健全が一番ですとも、では今日はこのあたりで、皆さんも応援、よろしくお願いします〜👋」
マドナグ「…………👋(人とロボットのキャラクターが恋に落ちる漫画を表示。漫画の結末は、恋愛が成熟したのか、曖昧に描かれている)」
◇
傷つき瞳を閉じる戦士に、さらなる災禍が降りかかる。彼が身を起こしたその先は、新たなる旅路の始まりだった。
次回「29.5秒」……たとえ、