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第13話 「最速」

 ようやく遠くに、丸くて分厚い腕輪のようなスペースコロニー群が、トレーニングルーム内のモニターにも見えてきた。


 旧世紀。先人たちが500メートル前後の小惑星を、小惑星帯アステロイドベルトから多く移動させて拡張し、中をくり抜いて製作したコロニー。


 ローゼスも大元の形状は同じだけど、統和国には、植物性の統大樹や外縁部の植物性防壁が無い。代わりにカーボン製のブロックを、十字にくり抜いて内部に押し込み、超極細繊維ナノファイバーで円形の外縁部を補強している。


 おそらく先人は制作期間の短縮と、安全性を重視したんだね。僕らのローゼスは植物からの副次産業の恩恵を多く得られるけど、その代わり建造には、十年単位で時間がかかる技術だものね。


 少し休憩。なんとなくノアがどうしているか気になって、ぼんやりコロニーを眺めながら、SNSを開く。


 マドナグの投稿した画像に、ニックさんが議論している。


 拾ってきた論文とかの画像だけのやり取りだけど、マドナグはムキになってニックさんに、口喧嘩レスバトル……いや、文字は書いていないから、口と画像喧嘩って、言うべきなんだろうか。


 内容はまるで聞かん坊の子供を、ニックさんがのらりくらりと突っ込んでいるようで、微笑ましくて癒される。と言うか、マドナグ器用だな。


 あ、リアもなにか空気読まない発言で、御託は良いってバッサリ双方とも切り捨てた。見物して書き込んでいた周りが、ザワザワ書き込んでいる。


 いつも通り少しフォローしよう。でないとまたネットストーカーとか湧きかねない。13歳の女の子相手に、何ムキになってるんだかねぇ。


 まあ、僕はロリコンなんて程度の低くなく、イルマさんコンで、ノアコンで、生涯リアコンなわけだけど。


 ノアは恋愛事をまた相談している。ちょっと反応に困る書き込みで、あんまりまともに相手にされていない。あ、マドナグとニックさんとイルマさんが、画像を贈ったりアドバイスし始めている。


「罪作りな男だなぁ、僕も……」


「なんだっ、男ぶりの下がる喧嘩でもしたのかっ!?」


 先輩が隣でバーベルを上げながら、力を込めている。そろそろ集合がかかりそうだから、これ以上はトレーニングを中止すべきかもしれない。


「ちょっとイメージが違っただけですよ。むしろ先輩は変わりませんね?」


「ああっ、フラれちまったからなっ。インテリオル、さんにっ」


「あ、そうだったんですか……」


「んな顔するなよ。今は火星の美女を物色中だ。夢の中じゃ毎晩R18でぇ、参っちまうぜぇえっ!!」


 申し訳ない気持ちになるような、そうでも無いような。先輩もモニターに気づいたのか、バーベルをゆっくりと下ろしている。画面がもう一度切り替わって、パイロットはミーティングルームに集合と表示されていた。



◇◇◇



 念のためにイルマさんの指示で、僕らは火星圏部隊ネリスと共に外に出る。統和国の象徴とも言える発展と国防の要であり、もっとも大きなコロニーレーザーもよく見える。


「コロニーレーザーに、火が入ってる……」


 マドナグが倍率を上げて望遠してくれた画像には、長細く加工された小惑星が、淡い光を内包していた。


 コロニーレーザー。巨大艦船で、他の艦艇を多く艦載できる木星間大型公社艦パプテマスの推進装置として、平時は利用されている統和国の超大型レーザー照射装置。


 廃棄される古いコロニーの再利用品で、マドナグのレーザーライフルから、他のコロニーを焼き尽くすまでの火力調整が可能。限定的な大規模戦略兵器としても、転用できる能力を持っている。


 もっとも、撃ち込んだら当然レーザーを止められないので、最大出力は小惑星帯の資源衛星や、街を巻き込まないようにしか使えない。滅多に火が入らないはずの施設なんだけど。


「そりゃ、加速器に……ってわけじゃねえな。木星間大型公社艦パプテマスが、確認できない」


「そうだね。こちらでも小惑星帯標準時で確認した。木星間大型公社艦パプテマスの運航予定とは、大幅にズレてる」


「無人偵察機を出しますか、イルマさん?」


「まだ良い。でも悪いけど、両舷のカタパルトで待機しててくれ。シデンは中でな」


「了解……!?」


 マドナグのAIから、索敵方位アイコン表示。閃光。爆発。コロニーレーザーの砲塔とは逆方向で、断続的に光がまたたいている。


「イルマ様ッ!!!」


「案の定か、戦術艦隊データリンク繋げ!! 総員、第一戦闘配備発令!!」


「了解!! 第一戦闘配備。繰り返す。第一戦闘配備。進路上の統和国宙域で、艦隊による戦闘行動を確認。各隊員は速やかに、所定の作業を開始せよ」


統和国むこうに、回線を固定!! 出撃準備、急げ!!」


「こちら、第266巡洋艦イアスム!! 艦隊と大型装甲兵器から攻撃を受けている!! 繰り返す!! こちら……」


「なに……なんか、変だよ、あれ……!!」


 リアが妙な事を言い出した。変。なにが変だって、……マドナグも? モニター全体にも、何か緑色のノイズが走っている。電子攻撃ECMなどの形跡は検知できない。まるで、とてつもなく怒っているみたいに。


「無人偵察機を出せ!! グロームの濃い場所と、コロニーレーザーの射線上は避けろよ!!」


「……イルマさん!! 行けますッ!!」


「わかった。リアも何か感じている。全員注意してくれ。他の艦に遅れるな。出撃開始ッ!!!」


「っ……アロー様。その……戦果を、期待します」


「了解。アロー機。マドナグ。出しますッ!!!」


 先輩とカニンガムさんも出撃した。距離33000。展開が速い。軽量機ネリスの足には、こっちはついて行けない。まずは後方から援護を……。


「なに、あの丸っこいの!?」


「スペクトラムパターン不明エラー!? ね、熱源反応も、艦隊しか、ほとんど検知できません!!」


「なんだそりゃ!? ええいっ、直接映像を回せ!!」


 イルマさんの指示で、先行するネリスから無人機を経由して、荒れた映像が回ってきた。背中の砲塔からレーザーは発射しているけど、常に光っていない。熱核ロケットエンジンの閃光が、確認できない。


 機種はどう見ても同系統RFじゃない。盾……いや、平べったい亀の甲羅か? そんな物を思わせる形で、宇宙を飛翔している。推力も無しに、一体どうやって……?


「封鎖連盟の新兵器か……? なら、全隊!! 照準の熱源探査ヒート・ソースを、物理運動探査モーションメインに切り替えろ!!」


「攻撃! 開始します!!」


 先行する味方機ネリスが、統和国の艦隊に取り付いている敵に攻撃をしかけた。レーザー火線に焼かれて、取り付いていた不明敵機を焼き尽くしていく。


 各部の走査波をアクティブモードで、照射。統和国軍の味方機ヘルムを十機確認。不明敵機の損傷爆発が、異常に小さい。推進剤に誘爆していないのか。


「マドナグ。攻撃、開始しますッ!!」


 距離25000。一撃から不明敵機の反応を見よう。マニュアル狙撃モード。フルチャージでレーザーを照射。


 命中。巻き込んだ三機も、手足にあたると思われるパーツが溶解。そのまま味方機ヘルムに切り裂かれていく。


「数が多いっ。デン!! ミサイルの使用は慎重にな!!」


「了解ですッ!!」


 不明敵機の機動は、そう速くない。レーザーの威力もパルス・シールドで十分味方機は防げている。けど、数が多い。ここだけでも三十機は居て、不用意にまとわりついてくる。


「こっ、のぉおッ!!!」


 ブースターはまだ良いけど、使うべきか。


 メイン設定からパネルを操作。シールドとライフルを格納マウント火器管制FCSの『側頭部機関砲/レーザー・ライフル/マテリアル・ブレード/不明Unown unit/中止/その他』表示から、不明Unown unitを選択。


「せぁああああああッッ!!!」


 ロックオン。特大質量支柱実体剣斧マス・クリーバーを大きく振りかぶり、一閃。瞬時に粉々に。


 撃墜。八機以上。


「先輩ッ!!!」


「了解! デモリッション・ブレードを使う!!」


 派手に暴れて、不明敵機を引きつけるべきだ。

 先輩のウォカズは左腕に格納マウントしていたシールドの端を掴んで、安全装置を解除。


 バネじかけのように、折りたたまれていた鉄刃が展開されて、二つ折りだったシールドが、超大型のブレードに姿を変える。


 全長、驚異の42.3メートル。総重量、たっぷり27.1t。超長大の対艦刀。


「でぇああああああああッッ!!!」


 被弾を恐れず、先輩のウォカズは両肩のパルス・シールドを展開したまま、一気に懐に飛び込んでいく。


 振りかぶり、大きく一閃。一撃必殺。

 確認できるだけで十一機、撃墜。


「なぁにあれぇええ……」


「……よ、よし。呆けるな!! 殲滅しろ!!」


 宇宙宇宙を航行する艦隊の間を飛び回り、敵機を撃破していく。封鎖連盟の巡洋艦を一時の上方に確認。ここからなら狙える。


「フン……壁代わりにもならんか、虫けらどもが」


「っ!? アロー!!」


 敵機の公衆回線……どこから。えっ。


「う、わぁああああああ!!?」


 爆発。まるで、駆逐艦をへし折った時みたいな。嘘だろ。敵は近くに居たんだぞ。周囲を見渡すと、不明敵機は爆風に巻き込まれて、無惨にも焼け焦げ、粉砕されている。


 おかしい。衝突警報と異常検知警報が、鳴りやまない。荷電粒子も確認できない。何の攻撃を受けたんだ。


「榴弾弾頭ミサイル、ヤツは……!」


敵味方識別IFF、検知できず!? 静止映像から解析……! 97%で照合……! ソンブレロ師団の長グリント・シーカー、敵機はリベルタリアと思われます!!!」


「前時代の遺物が。おとなしく宇宙そらにでも漂い続けていろ」


敵味方識別IFF、検知できず!? なんで……?」


「……ナメてやがるなこの野郎。誰に撃たれても、相手にならないってかッ!?」


「グリント」


「アロー」


 名だけ口に出す。目を凝らす。左右非対称の軽量脚。人間の姿を模した二脚型でも、人型と大きくかけ離れた、鋭角を持つシルエット。


 武装は左手レーザー・ライフル。爪のようなミサイル発射装備。右手レーザー・バズーカと思われる長物。肩部大型パルス・シールド。


 お前か、お前が。僕の義妹リアに、イルマに、今ものうのうと生きているだけで、屈辱ふこうしいたげ続けている。


 そして、僕の本当の両親も……おそらく。


 それが、それだけが。断固として許せない。


「殺す」


「殺せ」


 僕とイルマとマドナグの声が、喜悦と恨みで絡み合いひびく。徹底的に叩く、出し惜しみもしない。ごめんな、リア。今だけ僕は、君じゃなく自分の為に、怖い人になり果てる。


「ほう、大きく出たな亡霊小僧……。マヌグス、ピナマ。行けるな?」


「はい。敗北率は、ありえませ……」


 マドナグとえる。通信越しに、鼓膜でも破れてしまえば良い。先輩の静止も聞かず、聞こえず。僕はフットペダルをブチ抜き続けて、カバーで二重に覆われた点火ボタンを、激しく打ち砕いていた。



◇◇◇



「なっ……!!?」


 視界から一瞬で、ヤツが消える。怯えるようなレーザーとミサイルの雨。関係ない、フットペダルを踏み続けて追い詰める。


 マドナグから、全安全装置解除オールリミッター・リリースプロセス提案、即応実行。胸部の熱交換器ラジエーターから、緊急冷却に移行警報。ヒートシンク温度、急上昇。


「なんて推力、あの図体で!?」


「クッ……安定物質セロトニン興奮物質アドレナリン、最大分泌。膜輸送体トランスポーター全解放っ……!!」


「あ、アロー!!?」


 並走していた一機が、視界から消えた。ヤツは見えている。反物質炉ジェネレーター、臨界限界到達。機体温度急上昇。耐熱限界温度、突破。


 視界が重力加速で一気に暗くなっていく。まだだ。まだフットペダルを、離せない。


「なぜ、こっちは人体改造されてるのよッ!!?」


「なんで追いつけない!!? うわっ……!?」


「バカなッ、なぜ着いて来れる!?」


「あとを頼む。九番格納庫を開けろ」


「い、イルマ……?」


 背後で爆発音、関係ない。残り300、200、異常検知警報がうるさい。視界が半分に。ああ、片目が重力加速で潰れたか、どうでもいい。量子コンピューター強制冷却続行。まだ届かない。足を離さない。


「あ、あぁ、あぁあ、あぁ…………っ!」


 警報がうるさい。警報がうるさい。警報がうるさくない。……片耳鼓膜逝ったか。足の感覚は無い。残り50。体温すら感じない。全身の血管が破裂し始めたようだ。機体温度熱、暴走。もう、止まれない。


「うそ、あのグリントが……逃げに徹してる」


 ヤツに上等な「人間らしい戦争」を与えるつもりは、一点の微塵もない。ただ追い詰めて、必ず鏖殺おうさつする。すべて殺し尽くすまで、止まるのだけは、絶対に許さない。


「アァアアアアアアアアアアアッッ!!!!?」


「流れ星が……」


 誰の声だろうか。リアか、イルマさんか、ノアか、それともまた、別の誰かか。


宇宙そらを、……踊り狂ってる」


 内蔵を潰し、血を吐き出しながら、彼女マドナグを操る。

 痛みすら感じない彼方。極限の高揚感のままに。


き潰せ、マドナグ」


 すべてを焼き尽くす、暴力を宿して。

 僕は世界最強の男に、敗北くつじょくを刻みつけていた。





────────────────────────────────



 今回のまとめ。

 統和国のコロニーは元小惑星。せっせと小惑星帯から運んだ大きめの物を、加工した形になります。


 マドナグ。順調に人間臭く。ニックとのやりとりでほっこり。先輩、まさかの敗退。仕方ないね。


 不明敵機、襲来。混乱のさなか、一行は戦闘を開始。そして、グリント・シーカー襲撃。

 アロー。激昂の末に轢き潰しへと試みる。果たして結果は如何に。



 最新からチキンレースで相手を轢き殺して、崖下に自ら巻き込んで確殺するつもりしか無いスタイル。控えめに言わなくても、徹頭徹尾、狂ってる。


 Information High.直訳で、情報の高み。意訳で「高揚感ないし絶頂感」と言った所でしょうか。

 どんなに身体を機械化しようが、ハラに一本キメた羽根1枚には、竜となった鳥には、勝てない事もある。


 まして、亡霊ゴーストが流れ星に憑いているとなれば、ねえ?

 平和圏リベルタリアなどと、バカにする真似が、一瞬でも許される訳が無いのです。


 さて、今回は遅くなりましたね。いざ高揚感のままに!! 超々高速戦をぉおッ!!!

ア・ニ・メ・で!(ryクソデカボイス7回目)


 さて、あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!


 以下その方法と、今回は「ニック」さんと「マドナグ」のSNS上での一幕と、次回予告です。


 PC版の場合は、次の手順です。


 1・目次ページ下部の★123などと表示された、青い星と数字の項目をクリックする

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 3・★を付与する。★★★3つだと、とても嬉しいです。実際に、泣くほど喜んだ事あります。


 ニック「ですからね。人間には肉体的限界と言う必須の概念があるわけですよ。疲労と言う、分かりますか?」


 マドナグ「(機械化の資料を表示)」


 ニック「肉体を気楽に改造する物は、そうそういません。自身の肉体に、愛着があるからですよ」


 マドナグ「(機械化への問題点を綴った資料を表示。しばらく時間を起き、愛についての様々な資料を、次々に表示。最後に、恋愛についての漫画を表示)」


 ニック「恋愛とは、恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になる。複雑怪奇な戦いそのものであり、時に、生命よりも尊ぶべき、人生の標章ですね」


 マドナグ「(戦史資料と恋愛資料を交互に表示。愛憎渦巻く戦史漫画を表示した後、学生恋愛の健全な漫画を表示)」


 ニック「ええ。普通に健全が一番ですとも、では今日はこのあたりで、皆さんも応援、よろしくお願いします〜👋」 


 マドナグ「…………👋(人とロボットのキャラクターが恋に落ちる漫画を表示。漫画の結末は、恋愛が成熟したのか、曖昧に描かれている)」



 傷つき瞳を閉じる戦士に、さらなる災禍が降りかかる。彼が身を起こしたその先は、新たなる旅路の始まりだった。


 次回「29.5秒」……たとえ、宇宙そらでなくとも、遠慮は命取り。



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