アリュリアの先導で、ルナは世界樹の根元へと急いだ。
巨木の根が幾重にも絡み合うその場は、本来なら神秘的な静寂に包まれ、エルフたちにとって聖なる場所のはずだった。
だが、そこには不自然な光景が広がっていた。
人間大の虫型モンスターが無数に集まり、ガチャガチャと甲殻を鳴らしながら世界樹の根を噛み砕こうとしている。
その姿は、異様なまでに群がり、根に群れる無数の足と触角が、視覚に苛烈な刺激を与えていた。
「うわっ……」
にゃん民: な、なんだあれ…
にゃん民: 虫系モンスターとか地獄かよ
にゃん民: ルナちゃん、がんばれ!
エルフの若者たちが槍や弓で必死に応戦しているが、数が多すぎる。
前線では弓矢が飛び、槍が突き出されるが、虫の群れはじわじわと世界樹の根に迫り、削り取るかのように咀嚼している。
ルナは、その光景に釘付けになったまま、硬直していた。
両手を強く握りしめても、息が詰まるほどの嫌悪感が込み上げ、思考が一瞬白くなる。
「ルナ、どうしたんだい?」
みけのすけがルナの肩で心配そうに声をかける。
しかし、ルナは全く動けない。
「む、虫……集合体……ご、ごめんなさい……」 震える声には、いつもの「にゃ」という口癖もほとんど混ざっていない。 視線をそらしたくても、無数の脚と触角が絡むグレーの群れが、視界にこびりついてくる。
にゃん民: マジか、ルナちゃん虫ダメなのか
にゃん民: 集合体恐怖症わかるわ…俺も無理無理
にゃん民: え、ロールプレイ外れてる!?ルナちゃん素の声出てるぞ!
「……あ、あんな数が……き、気持ち悪い……」
歯切れが悪く、喉が引きつるような声。
にゃん民: あの鉄壁のロールプレイのルナが素になってる!
にゃん民: 珍しい、超レア回じゃん!
にゃん民: でも無理しないで、ルナちゃん!
ルナの顔は青ざめ、足は震え、息が荒くなる。
虫の大群は容赦なく世界樹の根元を覆い尽くし、咀嚼音や甲殻を擦る音が不快なほど響いている。
「ど、どうしよう……」
異世界で困難を乗り越えてきたはずなのに、今回ばかりは立ち上がる気力が湧かない。
にゃん民たちの声援すら、今は遠くに聞こえる。