エルフの里は、混乱と戦いが過ぎ去り、再び静寂を取り戻していた。
世界樹の根元には焦げた跡や砕けた木片が残るものの、命の脈動はまだ感じられる。
エルフたちはやや距離を置いて、倒れた仲間を手当てし、破壊された住居を片付けている。
そんな中、美咲は一軒の家屋の中、布団に腰掛けていた。
先ほどまで猫神ルナとしてゴッデスモードまで発動して戦ったが、その代償は大きく、今は中の人である美咲の姿に戻り、身体中が重く力が入らない。
「お待ちしておりました……」
やがて里長とその母親、アリュリアが部屋に入ってきた。
先日までは高貴で近寄りがたかった彼らも、今は頭を垂れ、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「猫神ルナ……いや、美咲殿、とお呼びすべきでしょうか。
この度は……里のものが差別的な態度をとり、誠に申し訳ありませんでした。」
里長は深く頭を下げる。
アリュリアもその後ろで穏やかに目を伏せている。
「私たちエルフは、古来より世界樹に認められた高貴な種族と自負しておりました。
しかし、人間は力を伸ばし、時にエルフ狩りなども横行し……プライドの高い我々はそれを受け入れられず、憎しみが心を蝕んでいたのです。」
アリュリアが静かに語る。
「そうして人間への偏見と蔑視が根付いてしまいました。
でも、あなたは人間でありながら、我々を救ってくれた。
それは私たちの考えがいかに狭く醜いものだったか、思い知らされる結果となりました。」
里長も同調するように頷く。
「美咲殿……心から感謝し、謝罪いたします。
どうか、我々を赦してはいただけないでしょうか。」
美咲は驚きと戸惑いを抱きながらも、ゆっくりと口を開く。
「私は……そこまで気にしてませんが、エルフさんたちがそう思ってくれただけで、嬉しいです。
みんなが生き残れたなら、それでいいんです。」
微笑を浮かべようとするが、疲労が重くのしかかる。
「無事勝利を収められましたが、その代償は大きいはずです。
しばらくこの里で養生されてはいかがですか?」
アリュリアが優しい声で勧める。
「そうですね……ちょっと休まないと、体がもたない……」
美咲は同意する。
この機会に一息ついて、これからどうするか考えなければ。
そこでみけのすけが画面のセッティングをし、ルナの姿で雑談配信を開始する。
美咲は立ち上がる気力はないが、魔力でルナの姿を投影する程度はできるらしい。
ルナはカメラ越しに微笑み、コメント欄を見つめる。
「みにゃさん、ただいまですにゃ……
いろいろあって、疲れたので1週間ほどお休みしますにゃ。
ちょっとエルフさんたちにお世話になりながら体を休めますにゃ。」
コメント欄では、にゃん民たちが「無理しないで!」「ゆっくり休んで!」「待ってるからね!」と優しい言葉をかける。
「ありがとうですにゃ。
みんなのおかげで、また頑張ろうと思えますにゃ。」
こうしてルナは一時の休息を宣言し、配信を終える。
「適切な休息こそ長くVTuberを続けるコツだよ」
とみけのすけは満足そうに言うのだった。